カラサキ・アユミ 連載「本を包む」 第9回 「マッチングアプリならぬ……」
平成の初め、それも夏季シーズンに書店で使用されていたであろうこの講談社文庫のブックカバー。スイカにかぶりつくフレッシュな美少女が視線を掻っさらうインパクト大なデザインだが、今回注目すべきは表ではなく裏面である。
このカバー、裏返すとなんと〝結婚チャンスカード〟なるものがついているのだ。
趣味や相手に求める条件などのいくつかのアンケートが記載された葉書で、見返しには「本を読み終えられた後お送り下さい」とご丁寧に書かれている。
広告主のOMMGは1980年に設立された結婚情報サービス業者で現在の株式会社O-net(オーネット)。CMでよく見かけるお茶の間ではお馴染みの会社だ。
婚活案内と出版社の異色のコラボレーション。ブックカバーを仲人に見立てる斬新な発想。この時代には広告効果が見込めるくらい書店を利用する人々が多かったのだろう。
機械に入力した膨大なデータをもとに男女双方を擦り合わせるコンピューターマッチングという手法は当時かなり画期的だったに違いない。
ちなみに、OMMGの創業者・大内豊春氏は「配偶者選択システム研究所」を立ち上げた人物で、小さなビルの一室で古今東西ありとあらゆる結婚に関する膨大な資料を収集し日本の婚姻史の分析作業に明け暮れていたそうだ。
その後いち早く海外から最新の技術を導入するなど「幸せな出会いを手助けするビジネス」に注がれてきた彼の熱いパッションは脈々と形を進化させ現代に受け継がれている。
例えば、ネットで素敵な出会いを見つけるマッチングアプリ。今では利用者の用途に合わせて多種多様なサービスが用意され、現代のマッチングツールとして老若男女問わず身近なものになった。
それにしてもこの平成のマッチングペーパー、観察すればするほど面白い。
「あなたは大安や仏滅を気にしますか?」という今ではなかなか見かけない香ばしい質問や、個人情報丸裸の状態でポストに投函する仕様なのに〝秘密を厳守します〟と書いてあったりと、時代の変化を感じさせるツッコミどころが満載だ。
なかでもやはり一番気になるのがこのブックカバーがきっかけで運命の相手と巡り合った幸運な読者の有無である。
当時、何人の男女が幸せな出会いを求めて「キリトリ線」にハサミを入れたのだろう。
〝文庫本を買ったら運命の相手にも出会ってしまった〟
まるでラノベのタイトルみたいなキラキラしたキャッチフレーズがずっと頭から離れない私であった。