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入江泰吉の写真、奈良の記憶、由緒正しい春。

年明けの連休、入江泰吉記念奈良市写真美術館に行ってきた。

入江泰吉は奈良県出身の写真家で、この美術館は黒川紀章の建築だ。
古都奈良の文化財が世界遺産登録されたから25年経ち、それを記念しての写真展である『約70年前の古都奈良のかお』が開催されていたので行ってみたのだ。

それほど大きな美術館ではない。然し、周囲に水を張り巡らしたガラス張りの建物は静謐かつモダンな空気を纏っている。佐川美術館を思い出す。

約70年前、私はこの地球上に存在していない。いないのだが、懐かしくなるこの感覚、不思議である。

1950年代のモノクロの写真がずらりと並んでいる。

私は時々奈良に行くが、それでも年に指折り数えるほどだ。平城京跡などゆっくり観たいものだが、あの辺りはすごい開けていて、日本とは思えないような広がりがある。奈良は古都だが、同じ古都の京都とは違う古代の匂いを感じる。

それぞれの写真の横に解説文があるが、どれも興味深く読む。何よりも、人が少ないため、のんびりとこの世界に浸れる。
その中に、風景を写した写真に対して、由緒正しい春、という言葉があったが、深く頷ける言葉だった。由緒正しい春。

そういえば、今年のNHKの大河ドラマの『光る君へ』は平安時代が舞台だが、平安時代が舞台の大河は2012年の『平清盛』ぶりの10年ぶりだ。
『光る君へ』は一話目から国仲涼子演じる母が殺され、それを身分の上の者の仕業であるから耐えよと命じる岸谷五朗、というウルトラにハードな展開でなかなかに面白い。
なんか国仲涼子の歩き姿で『山椒大夫』とか『羅生門』を思い出したな。

安寿〜。厨子王〜。(涙)


大河ドラマでは平安時代は今回も入れて6本しかないという。奈良時代はNHKのスペシャルドラマでは制作されているが、大河ではなかったはずだ。
それには色々な理由があるのだという。
更に遡り古墳時代とか飛鳥時代に至っては正確な情報もない、衣装も新たに拵えなければならない、馴染みがない、ということでより難しいのだという。
然し、押井守はこのあたりの時代を相当調べたらしく、古墳時代とかをやるなら僕に任せろ、僕以外に適任者はいない、と豪語するほどである。

また、馳星周も唐突に『比ぶ者なき』という、藤原不比等を書いた小説を執筆しているが、なかなかの馳フリークである私も読んでいない。
馳星周には①本気の馳と②流しの馳がある。これは立ち読みしたら②っぽかった。

そういえば、最近私は馳星周をあまり読んでいない。馳星周でどうしても最後まで読み通すことが出来なかったのは馳星周版『フランダースの犬』(なんだこのコピー)と言われている『淡雪記』だが、これはどうも前半が甘くて、いつもの転落の予感を感じさせてはいるものの、なかなか入り込めず……。

と、いうよりも、馳星周はどこに向かっているのだろうか。初期の歌舞伎町や暗黒街を舞台にしたノワールを永久に書いていてほしいものだが、最近はアイヌの小説とか、最早何なのかわからない。けれども、私は馳星周の小説は多分7割〜8割は読んでいるので、許してちょんまげ。

で、入江泰吉の写真であるが、これらの写真を観ていて、1950年代の光景でら悠久の時を感じるというのに、多分、1950年代は1950年代で、遠い遠い過去に思いを馳せていたのだろうなぁと、馳、であるが、思う次第。

そして、館内ではその他にも展覧会をしており、写真家の藤岡亜弥さんの奈良の写真も多数展示されており、これは素直に美しかった。と、いうよりも、空や建築物の存在が異様に大きく、圧倒的な輪郭をもって迫ってくる、そのような写真であった。

私は、写真に関しては無知であり、素人である。然し、いい写真はいいものだ。それはいかなる素人ですら一瞬にして虜にさせられてしまうものだ。
展示で、写真を円鏡に収めたものが飾られていて、それは美しい深緑の布の下地の上に並べられていて、とても品があった。やはり、奈良はグリーンなのである。

この展覧会はおすすめだ。何よりも、美術館だけではなく奈良の街も風情があって美しいから。









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