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タルホと月㉖ 7冊目の『天体嗜好症』

私は、汎ゆる小説の中で『天体嗜好症』を最も愛する。

先日、7冊目の『天体嗜好症』を手に入れた。

無論、私は稲垣足穂全集も、稲垣足穂大全も、稲垣足穂の文庫版『天体嗜好症』(ちなみに、このタイトルの河出文庫のむかしのやつは、表題なのに、本作が収録されていない……。インチキじゃね?)も持っている。が、やはりそこは1928年に発売された春陽堂版の初版『天体嗜好症』こそがオリジナルであり宝物、なので、私は6冊を架蔵しているわけで、まぁ、市場に出て、それがそこそこの額でも手を出すわけだが、そんな中、ちょっと見たことのない『天体嗜好症』を発見し、刹那の10秒を経て、ええい、ままよと購入した。

古書店を除けば、恐らく日本一、いや、宇宙一『天体嗜好症』初版を持っていると思いたいが、上には上がいるので……。

『天体嗜好症』は恐らく初版しか発行されていないと思うのだが、まぁ、色味が淡いミントグリーン、的な色合いで、これのカバー付きはウルトラに貴重であり、私も一度ニアミスしたが、そのときは競り負けた。
稲垣足穂の蔵書の中では、一番美しいと思っているが、『ABC OF INAGAKI TARUHO』と小さく上部に書かれているが、この、変わった装丁の『天体嗜好症』は、茶色い表紙に、小さく『PUBLISHED BY WADA TOSHIHIKO』と書かれて、その下に黒い太字で、『ABC OF INAGAKI TARUHO』と書かれている。


上のペン書きがめちゃくちゃタルホの筆跡っぽいが…夢がふくらむのう。

こんな装丁は見たことがない。何度も写真を見ていると、何か、誰かが手製で貼り付けた可能性が高いように思えたが、もしかすると、貸本屋がそういうことをしていたという話も聞いたことがあるし、春陽堂に限らず売れ残りの初版にカバーだけ変えて再発売するという話も耳にしたことがある。まさかの異装版かと思いつ、早速届いたものをあらためて見るとみると、やはりどうも上貼りでカバーを貼り付けたご様子で、少し外れかけているところを注意して少し捲ると、あの、お馴染みのミントグリーンが少し顔を覗かせる。なぁんだ、やっぱり、異装版なんかあるわけないよな、と少し落胆しつつも、そっとカバーを撫でる。

タイトルの部分も、よく見ると手書きである。エンボス加工されたように、少し浮かび上がっている。そして、このWADA TOSHIHIKOの文字、私はタルホの書簡や原稿をいくつか所持しているので、筆跡はなんか似てるなぁと思いつつ、まぁ、誰がこれを作成したのかは今はわからないが、然し、これもまた美しい装丁であるかもしれないと、じっと見つめる。

誰がこのカバーを作り、つけたのかわからないが、こうして、その人の作った特別な『天体嗜好症』が私のもとに流れてきて、また、私の特別な本になってー。



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