オール・ザ・マーブルズ!の描く曲線
『オール・ザ・マーブルズ!』を読む。伊図透先生の作品である。
女子野球の漫画である。既巻は4巻まで発売されており、本屋でジャケ買いしたものである(私は漫画を買う時は、なるべくまだ売れていないもの、これから売れそうなものを選ぶ傾向にある)。
コミックビームにて連載されていて、元は読み切りの『全速力で。』という作品だったようだが、連載ものに設定などを変更している模様。読み切りは読んでいない。
舞台は2010年頃で、女子の硬球野球はまだまだ全然市民権を得ていない状態で(私は詳しくないが、今もなのだろう)、そこに一人の天才、草吹恵というピッチャーが現れて、彼女を軸として彼女の友人であるもう一人の愛の活躍や、その他の人々の物語が描かれる。
キャラクターの顔の書き分けに難があるのだが(よく見たらわかるのだが)、繊細かつ少年誌的な絵はとても美しく、かつ何よりも、これはピッチャーである恵の投球時のその体、その腕のしなり、その肉体の曲線美こそが、今作一番の白眉と言える。
何度も何度も全力で投げるわけだが、その腕はどこまでも抽象化されて、何よりも美しい。投げられたボールよりも、投げるその肉体の描く孤にこそ、一番の美が濃縮されている。
作中で、何度も恵や他の部員を見て監督が「黎明……。」と呟くのだが、黎明、という言葉は、まぁ、明け方のことで、これから朝が来るわけだが、黎明期から黄金期に突入し、そして衰退へと向かっていく。祇園精舎の鐘の声、沙羅双樹の花の色、である。まぁ、それはまだまだ未来の話。まーちゃん、俺たち終わっちゃったのかな、バカッ!まだ始まってもいねーよ!という、感じ、であるが、あれは北野監督、あの二人には未来がないことを示唆してる、実際に出来た続編映画に関しては、なかなかいぶし銀な出来だったけど、たけし監督がインタビュー本で語ってた続編構想の台詞のやり取りの良さは、やっぱり監督の言葉選びのチョイス、キャラクターの書き方の本質的な構築力に脱帽させられるわけで、まぁ、話が意味不明な場所にいってしまったが、本作の恵はこんな暴投はしないわけで、やはり黎明そのものの存在である。
どんな業界でも、黎明たる、パイオニアたる存在はあるものだ。まぁ、ちょっと意味は違うけれども、許してちょんまげ。最近このフレーズ好きなのよ、あたし。
とにかく、この漫画はピッチャーとして特化した肉体を詩的な快楽で見せる作品だ。その線の美しさ、勢い、いや、粋酔、といってもいいかもしれない。線に酔う。これが今作の醍醐味のように思える。
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