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バレエと小説

マシュー・ボーンの『スワンレイク』を観に行って、ダンサーの動きの美しさに見惚れたことがある。
マシュー・ボーンは彼率いるバレーカンパニーの『ニュー・アドベンチャーズ』で、様々な作品を送り出してきた。
それらは古典作品を彼独自の解釈で描きなおした作品が多く、『シンデレラ』や『眠れる森の美女』、『くるみ割り人形』などが有名である。

『スワンレイク』は『白鳥の湖』だが、彼の世界の白鳥のダンサーは全て男性である。主人公の王子は公務に追われて、母やガールフレンドともうまくいかない。孤独な王子はある夜公園で美しい雄の白鳥を見る…。

この物語では徹頭徹尾、女性に振り回されて、孤独感を高めた王子が、美しい男の白鳥や舞踏会に現われるミステリアスな男に惹かれる、つまりはゲイ的な世界が展開されるが、マシュー・ボーンは同性愛者なので、彼の精神世界を色濃く反映させたバレエ作品なのだろう。
然し、作曲者のチャイコフスキーもまた同性愛者であるから、ある意味で彼の世界を顕現した作品だと思う。
ラストの雄の白鳥がベッドにいる王子を周りで踊るシーンは圧巻で、そこには野生と理性が同居している。このシーンの美しさと胸に迫る躍動は筆舌に尽くしがたい。

私はバレエにすごく興味があって、それは山岸凉子先生の『テレプシコーラ』や曽田正人先生の『昴』から始まって、そうしてワツラフ・ニジンスキーからバレエ・リュスを知った。
バレエ・リュスは19世紀のロシアバレエ団で、その世界観、山師としても凄い辣腕の興行師セルゲイ・ディアギレフの話など、調べたら眠れなくなるほどに面白い。
それから半世紀以上を経て、ジョルジュ・ドンを擁したモーリス・ベジャールの二十世紀バレエ団など、常に前衛たちの活躍があって、そこには美しいダンサーがいて、なんと豊かな世界だろうと思っている。
特に、スイスのローザンヌなど、見学旅行のプランもあって、見てみたいと思えるほどである。とはいえ、お金もないし、邪魔になるし、コロナだし、で、応援するのみである。

私はバレエをテーマにした作品を書きたくて、色々と模索したが、2本書いて、難しすぎて諦めた。専門用語が難しく、それをつらつらと流して読ませるのは相当にテクニックがいる。

川端康成は『舞姫』や『花のワルツ』などのバレエ作品を書いているが、『花のワルツ』のダンスシーンは、文豪をして表現が滑稽に思えた。

ダンサーは身体で文字を書いて、美しい芸術を顕すから、そもそも踊り子がその舞で物語を書いているわけだ。

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マシュー・ボーンの作品では、新作の『ロミオとジュリエット』は昨年映画館でも公開されたようだが、コロナ禍で話題すら掴めなかった。

舞台を未来世界に移していて、白を基調とした色彩の世界が美しい。
『ロミオとジュリエット』の作曲者は、セルゲイ・プロコフィエフ。
大好きな『ピーターと狼』の作曲者。
好きなものは、繋がっているように思う。

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