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GONINと紅い花

つげ義春の『紅い花』のことを書いていたら、もう一つの『紅い花』を思い出した。ちあきなおみの『紅い花』である。


内容は全然違うのだが、この曲が好きな男が登場する映画が『GONIN』である。

『GONIN』は今年急逝してしまった石井隆監督の作品で、1995年の映画である。
この『GONIN』という映画は、まぁ、馳星周の小説みたいな映画で、いや、それとも『GONIN』みたいな小説が馳星周の作品なのかもしれないが、まぁ、暗黒映画である。
1〜3まであって、どの作品にも暴力と性が横溢している。

1は佐藤浩市、本木雅弘、根津甚八、竹中直人、椎名桔平、という、ウルトラに豪華な5人であり、2は女優陣、夏川結衣、余貴美子、大竹しのぶ、喜多嶋麻衣、西山由海、という女性メンバーの5人に、作中では半ば超常現象化しているターミネーター緒形拳を加えた作品、3は1の正当な続編で、東出昌大、桐谷健太、柄本佑、土屋アンナ、そして根津甚八、という布陣。


基本皆酷い目に合うので居た堪れない。

まぁ、ウルトラに暴力的な作品群で、2の緒形拳は町工場を経営しているが、借金かなんかのせいで、冒頭即ヤクザに奥さんを輪姦されて、奥さんは自殺してしまう。
2は女優陣も脱がされて、ロープでぐるぐる巻にされたり、酷い映画である。
私は1、3が好きだが、特に1の『GONIN』のヒリヒリするような感覚は、ちょっと他の映画では味わえない。

『GONIN』のテーマ曲が流れ出し、役者さんの名前が出てくる時点で、既に怖いのである……。これから始まる暴力の世界、アンダーグラウンドへようこそ!ってな感じでね……。

物語としては借金にまみれた男たち5人が集い、よりにもよって暴力団の事務所から金を強奪するという暴挙に出て、それは一旦成功するが、無論刺客が送り込まれる、という話で、まぁ救いがない。

今作はその刺客として登場するビートたけし演じる京谷と、木村一八演じる柴田のコンビ、特に京谷さんが怖すぎるのが最高なのである。
京谷さんと柴田は、まぁBLな関係(しかもSMチックなあぶな〜い関係ナノダ)なのだが、この二人の登場シーンは、私には『ハンター・ハンター』などにおける強者登場シーンを思わせるほどに、他の俳優を圧倒する存在感を醸し出している。
演技力、というのは無論大事だが、その人の存在感、乃至は、その人の存在感を作品上で輝かせる演出、というのは、実は演技という曖昧なものを凌駕する重要な要素である。極端な話、演技は棒でも演出に適っていればそれはオスカーに値するのである。
そして、この京谷さんに匹敵するほどインパクトを与えるアウトローと言えば、個人的には『トゥルー・ロマンス』のドレクセルがいる。
まぁ、ドレクセルはすぐに死ぬのだが、ゲイリー・オールドマンさんが渾身の演技(素なのかもしれない)を魅せてくれるので、未見の方はこのドレクセルが股間を撃たれて痙攣する最高の演技を観てほしい……。
やはり、悪役というのは、たまにふと思い出してしまうほどのインパクトのあるキャラでなくてはならない。そういう意味では、『ハンター・ハンター』のツェリードニヒさんは私が今一番好きな推しの悪役である。

私の中のキチ○イ悪役ベスト10に入るドレクセルさん。決してジャック・スパロウではない。
連載再開でとても嬉しい『ハンター・ハンター』。とにかくツェリードニヒが気になるね。

そしてもう一人、5人はそれぞれ最高の演技を見せているが、やはり根津甚八の色気の半端なさである。
根津甚八演じる氷頭は、元刑事で汚職で追われて今は用心棒。離婚した妻子と仲直りしたくてたまらない。そして、思い出の曲である『紅い花』のテープに関してのやりとりをレストランで行うのだが、彼はまぁ、今作の主人公格の一人である。
根津甚八は五社英雄の映画とかでも色気たっぷりであるが、何であろうか、あの、「兄貴、掘ってくれないか?」とでも言いたくなるようなオーラは。あのオーラは原田芳雄も持っており、危険なふたりである。

この映画は終始地獄タイムが続くので、緊張感でお腹が痛くなるが、然し、やはり最後の雨の中での撃ち合いは緊張感がピークに達してなお、まだその更に先で緊張が続いている、そのような、よくわからない映画的な快楽に満ちている。

殺伐とした世の中である。然し、『GONIN』を観たら、ああ、平和な世界ってなんて素晴らしいんだ!と思えること請け合いである。
人間はどうしても、暴力という魔薬を、恐る恐る覗いてしまう。



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