100年前の『街のスタイル』 衣巻省三
最近購入した本が届いた。
衣巻省三の『街のスタイル』である。
きぬまきせいぞう、である。
いまきしょうぞう、ではない。
この本は2024年1月に国書刊行会から刊行された。
衣巻省三、と、いえば、私には、稲垣足穂の友人、ということで識っていたが、作品は読んだことがなかった。
『こわれた街』という詩集など、購入したいと思った本は多くあれども、なかなか食指が伸びなかった。
元々、衣巻といえば、第1回の芥川賞の候補にもなったほどだから、実力的には凄いものがあったはずなのであるが、然し、完全に忘れられた作家になっている。
そういう人はいっぱいいる。本書にも編者のあとがきで、才能があっても消えた、埋もれた人はいっぱいいる、とある。そんなもんである。世の中、篝火の作家など本当には数えるほどしかいない。この本はとても瀟洒な装幀で、函に入っている。美しい本だと思う。詩と小説が収められている。
稲垣足穂とともに、佐藤春夫門下である。佐藤春夫は弟子が3000人くらいいるので、まぁ、そのうちの一人である。
私は、消えた作家、というのに興味がある。そして、それに取り憑かれて、このような本を出版する人、そのような人に、本当に敬意を抱く。
著者には90年ぶりの新刊の刊行なわけで、また、たくさんの人の眼に触れることになる。無論、もうこの世にはいない人だが、その人の書いたものが、未来の人間の心を動かす、というのが、本の不思議であり、文字の素敵さだろう。
余程の文学好きでないと識らないような人の本。まだまだ埋もれている本は山程あるのだろう。そして、驚くのは、今朝書かれたかのように新鮮で瑞々しいことだ。
私はぜひおすすめしたい。
ちなみの、衣巻省三は素封家の出自で、なかなか変わった性格だったそうだ。