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ハルキ、ワタシ、ワカラナイ……『めくらやなぎと眠る女』

まず、第一に、私は村上春樹の小説は1冊も読んだことはない。

そんな私だが、村上春樹の映画、『バーニング/完全版』、『ドライブ・マイ・カー』、『ノルウェイの森』、などはしっかりと鑑賞しており、どれも雰囲気は好きである。

そんな私だから、もう、本じゃなく、ムーヴィー、であるので、村上春樹原作の『めくらやなぎと眠る女』を鑑賞した。

ここまでキャラクターほぼ全員がブサイクなアニメ映画はあんまりないだろ(褒めている)。

フランスのアニメーション映画、であり、私が観たのは日本語吹替版である。
京都シネマで鑑賞した。人はまぁまぁ入っていた。が、然し、久方ぶりの京都シネマ、電子チケットに変わっていた。そして、COCON 烏丸の御手洗いが改装されてキレイになっている……!
私は、施設において、第一に、トイレを基準に考えている。御手洗い、が美しい場所は、総じて細やかに気配りが行き届いている。なにせ、トイレ、御手洗い、化粧室、なるものは、人間の一番デリケートな営みを行う花園であるわけで、これを汚して良し、とする施設は早晩潰れるだろう。

まぁ、とにかく、然し、京都シネマの劇場は、やはりスクリーンが小さく、黒板よりも小さかった。まぁ、もはや、日本の劇場の値段がほぼ一律の、このシステム、これに対しての私憤は既に沈下し、諦めている。よほどのことがなければ、映画館には行くまい。

さて、前置きが長くなったが、とにかく、この村上春樹映画である。
先述した通り、私は、今までに1冊もハルキを読んでいないわけで、なので、この作品は、映画を観ての感想でしかない。解説など、書けよう筈もない。

絵を観てまず驚いたのが、主人公の顔が完全に村上春樹だった。私の、勝手なイメージでは、村上春樹の小説というものは、春樹のアルターエゴであるハルキが、何か内省しながら、数名の女に言い寄られて体を重ねて、そしてマフィンとかベーコンエッグをを焼いてコーヒーと朝食、的な、そんなイメージを抱いていた。然し、それは遠からずだった。

今作も、完全に春樹であるハルキが登場し、そして、妻に逃げられ猫に逃げられ、女に言い寄られている。そして常にタバコを吸っている。あまりのヘビースモーカーっぷりに私は腰を抜かした。ほとんどのキャラが(未成年含め)、タバコを吸っている。タバコは重要なキーアイテムなのだろうか。

そして、ハルキに言い寄る女は今作では1名(タバコをねだる少女も入れれば2名)ほどだが、あまりにも強引にセックスまでの段取りが進められて、これは笑うところなのか、それとも、同僚は女衒で女性を差し向けられたのか、まるでわからなくなっていた。
巷で噂の、本当に女性が脈絡もなく言い寄ってきて、それを抱く、そのシーンが見事に映像化されていた。いきなり、ビジネスホテルではなく、ラブホテルを取っておいた、なんて、そんなことがあるのか?
そして、私は既視感を覚えていた。あれ、なんか、『ドライブ・マイ・カー』もこんな感じじゃなかったっけ?
今作でも、『8Mile』よろしく、親のセックスシーンを見る、というシーンがインサートされていたが、そういう、何か、春樹はトラウマがあるのだろうか……。『ドライブ・マイ・カー』でも、なんか不倫現場を目撃して、そっと扉を閉じる西島秀俊、というシーンがあったが……。

延々と、例えようもない例え話的な会話のキャッチボールが続いている。私はウトウトしていた。眼の前に、もうひとりの主人公的な、44歳のうだつの上がらない片桐という男が、カエルくんなるキャラクターと話している。
どうやら、片桐はイマジナリーフレンドと話しているようだ。カエルくんは、いいキャラをしている。彼の声は、古舘寛治だろう。いい声だ。ちなみにハルキは磯村勇斗さん。磯村勇斗は、『ビリーバーズ』でも、ほぼAV同然の濡れ場を演じていた。そして、常に後輩ポジションである。『異動辞令は音楽隊』でも、『渇水』でも、同じような役をしていた。

日本とフランスのドッキング的な背景美術はめちゃくちゃ良かった。映像の感じは『花とアリス殺人事件』に似ているなぁ。

私は、村上春樹のこの作品を観ていて、はっきりと、男女の関係性の話に興味がないことに気付かされた。
そして、猫にもである。私は猫は好きだが、犬ほどではない。猫好きの人間が嫌いなのだ。
セックス、ラブホテル、カエル、ミミズ、東日本大震災、タバコ、猫、など、描かれるものも即物的で嫌いだ。何か、意味があるように、煙に巻くようだ。あのオーナーのように。
オーナーのシーンは良かった。まぁ、あのシーンも意味不明だ。だが、ああいう、意味不明なエピソードとはいえ、ホテルの妖しい部屋、窓外の雨の景色など、幻想性があって、一番良かった。
まぁ、ああいう会話も、春樹ファンからすれば、深い意味があるのだろう。

私には、やはり村上春樹はわからない。おそらく、S極とN極のように、春樹と私は、相容れないのだ。
そして、主人公の飼っている行方不明の猫の名前がワタナベノボルなのだが、あー、なんかこういうのがムカつくんだよ!
と、そんな風に観ていたら、気付くと終わっていた。エンドロールが流れている。
映画が終わり、私はだんだんと腹が立ってきた。私が十全にこの映画を楽しめなかったのは、もしかして、春樹の本を読んでいないから、かもしれない。

そう、私は春樹から逃げ続けている。外に出ると、夜風が心地よい。京都観光の外国人たちまで、ハルキー、ハルキー、と、言っているよう気がする。
私はすぐさま、COCON 烏丸の隣のビルの大垣書店本店に入り、春樹の小説を探し始めた。すると、文学コーナーにこんな美しい書影が。

へぇ……いいなぁ。装幀もきれいだし、造本もええのぉ……。そんな風に思い、その本をパラパラと捲っていると、蛍の光が流れ出す。
私はそっと本を棚に戻し、春樹に未練を残しながら……S極にはじき出されるかのように、店を後にした。


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