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孤独と愛と『異人たち』

『異人たち』を鑑賞。TOHOシネマズ二条にて。
お客さんは私を含めて4名だった。然し、映画館には人がそれなりにいた。恐らく、コナンやブルーロックを観に来たのであろう。私は空いている映画館が好きなので、貸し切りでも構わない。けれども、映画館側は困るだろう。

さて『異人たち』。
原作は山田太一の小説『異人たちとの夏』で、映画化もされているが、今回はイギリス映画である。

私は小説も、それを元にした映画版や舞台も鑑賞していないので全くの初見だった。

内容はざっくり識っていたが、まぁ、今作ではスランプ的な映画脚本家の(最近観た『インフィニティ・プール』もスランプ中の作家が主人公だったな……)主人公が、郊外にあった自分の実家で、12歳の時に事故死した両親と再会する話である。無論、両親は死んだ時と同じくらい、30代半ば〜40代前半くらいの姿で登場する。主人公はもうおっさんなので下手したらお父さんお母さんよりも年上である。そういう、時代設定を匂わせる装置としてのアイテムや音楽が幾つか配置されていたが、まぁ、多分、40代後半なのだろう。

そういえば、私の好きなポール・オースターの小説の『ムーン・パレス』において、雪山で行方不明になった父の死体と再会する逸話があったが、その中で、今の自分より若い父の氷漬けの死体と出会うそのシーンは、何か不思議な感慨があった。それはまるで『インターステラー』における父と娘の年齢の逆転現象に通じるものがある。

で、この主人公アダムは同性愛者であり、一人タワーマンションに住んでいる。そこで出会ったハリーという若い男性と惹かれ合い、肉体関係になる。
このタワーマンションが凄まじい。人がいないのである。と、いうか、この映画自体恐ろしいほどに人の気配がないため、主要人物4名以外、人物は顔すらも覚束ないほどに風景化されている。
これこそが今作のテーマと思われる孤独の象徴だろうか。主人公アダムは早くして両親を亡くし、その上幼い頃から虐められていて、かなりタフな人生を送っている。彼は圧倒的な孤独の中に生きてきた。
冒頭、そのアダムがタワーマンションの壁一面ガラス張りの窓から街を見下ろすショットのルックはあまりにも美しい。ここから朝焼けで部屋が赤く染まるそのシーンは乗っけからKOパンチをもらうほどに美しいのだ。
そこから、ほぼ登場人物4名の物語が始動するが、説明を極力排した演出で、通常の映画とはまるで違う世界観を立脚させる。
とにかく品がいいのである。品が良い、といえば、作中でのアダムとハリーのセックスシーンは非常に品が良い。美しいシーンである。そして、ハリーは「クィアっていうとゲイよりも上品な感じがする。フェラをする感じがしない。」という名言を放つが、そのハリー、3分後には普通に尺八してました……。

まぁ、それは置いておくとして、そんなハリーとの逢瀬と、死んだ両親との家族の邂逅が繰り返されるのだが、そこで浮かび上がるのはアダムのトラウマと孤独である。アダムの心の傷が、大人になっても癒えない心の傷が、両親と会い会話するたびに癒えていく。
母親には、言えなかった自分が同性愛者であるということ。それは一度拒否を持って迎えられる。
父親には、自分が虐められていた時に、なぜ手を差し伸べてくれなかったのかを問いただす。
そして、喪われた親との時間を取り戻すように、アダムはどんどん子供返りをして、両親に甘える。そんなシーンもとても品があるし、アダムの人間性が見えるので切なく、美しいやりとりに仕上がっている。
親との関係性の他、現代を生きるアダムにとっての孤独を癒やすのは、同じ孤独を抱えるハリーである。
ハリーはこの街には友達はいないというし、両親とも、家族とも会っていない、所謂、家族を持っている普通と呼ばれる人々ー、そんな人達が家族の中心で、自分は端の存在だと感じている。

母に自分は同性愛者だと打ち明けるシーンは非常に良かった。ショットが完璧だった。アンドリュー・スコットってマイケル・キートンとスタローンに似てるよね。眉毛かな。
アダムのマンション、いちいち洒落てんだよな。

とてつもない孤独がこの映画には覆われているが、然し、ウェットなのは、そこには人肌や人心への渇望がそれに焦がれる子供のように存在しているからだろう。
人間は、全員が孤独である。孤独ではない人間などいない。孤独、というのは永久に人の心を苦しめる宿命だからである。
だから人は人を愛するし、人と触れ合いたいのである。

抑制の効いた演出はこの映画に上品な佇まいを与えている。
死や腐敗が匂い立つが、それは表現上ではぼかしている。ただ、個人的にはエンディング辺りは消化不良だ。
前半は完璧な演出と夏の匂いがあって良かったが、後半は少しばかりウェットに過ぎたのかもしれない。

孤独、といえば、これは最期のハリーに関わるが、私の好きな映画で、『明日、君がいない』という作品があって、これは低予算映画だが、今作は自殺した生徒は誰か?という話で、様々な立場の生徒たちが登場する群像劇的なものだが、最期に自殺をする人の持っていた圧倒的な孤独は、誰もが抱えている、自分に突き立てられた刃そのもののようで、今作はそのことを思い起こさせた。

そういえば、2024年の個人的映画ランキングを書いていなかったので、書く。基本的には映画館で観たものに限る。去年はそれぞれに点数を高くつけすぎたので、今年は厳しい点数基準にしてみた。

暫定

1位:異人たち…80点
2位:オッペンハイマー…72点
3位:インフィニティ・プール…67点
4位:DUNE/砂の惑星part2…65点
5位:ボーはおそれている…40点

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