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FINAL FANTASYⅨ考

2000年7月7日に発売された『FINAL FANTASYⅨ』は、FINAL FANTASYシリーズの原点回帰を謳った作品である。
当時、2000年1月にスクウェアミレニアムというイベントで、『FFⅨ』、『FFⅩ』、『FFⅪ』は同時発表されて、2月には週間少年ジャンプ誌上で特報としてその世界観、劇場艇プリマビスタが初公開される。
ファンタジーの世界は、『FFⅥ』〜『FFⅧ』から離れてしまったが、然し、それはあくまでも剣と魔法の中世ヨーロッパをベースとしたファンタジー世界であり、作り手はスチームパンクだろうが、サイバーパンクだろうが、それはファンタジーの範疇に入るのだと、そういう考えだった。

以下、ネタバレがあります。

『FFⅨ』は、どちらかというとディズニーのテイストに近い世界観である。もっと言えば、アートディレクターの皆葉英夫の目指した所によれば、『ダーククリスタル』の世界観である。そして、今作はスクウェアのハワイ・ホノルルスタジオで製作されており、『パラサイト・イヴ』からの流れで合流した大量の海外クリエーター、アーティストがスタッフに名を連ねている。つまりは、今作は原点回帰を目指してはいるが、明らかに洋風の、新しい風を入れた作品なのである。

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今作は、日本では282万本売れたが、前作の『FFⅧ』が353万本売れているので、70万本程売上を落としている。これは、近々の8月26日『ドラゴンクエストⅦ』が発売されたのも影響しているだろうが、普通にバブルが弾けたと見るのが正しいだろう。FFは、250万本売れる、という素地が『Ⅴ』〜『Ⅻ』(『Ⅺ』を除いて)であったが、『Ⅶ』と『Ⅷ』の売上が時代の波、PS覇権の波に乗って、300万本というミラクルを生み出して、映画というバベルの塔までも生み出してしまった。

『FFⅨ』は盗賊が姫を誘拐し(誘拐させられて)、そこに魔法使いや姫の騎士との共闘など、王道のファンタジーを思わせる導入から始まり、登場する主人公たちの出自と世界の明暗へと、物語が収斂していく。
世界は霧に覆われており、その霧の中は様々な魑魅魍魎がうごめいている。まだ魔法が生きている時代。そこには、様々な種族が生きている。
『FF』シリーズの主人公は、それぞれに世界に翻弄されつつも、最終的には自分の内面、出自に迫っていく、という構成に置かれていることが多い。
『Ⅸ』も例外ではなく、主人公の一人ジタン・トライバルは、16歳とは思えない聖人のような人格で物語を引っ張っていくが、然し、後半自身の存在が揺るがされたときに、捨て鉢になってしまう。
それを救うのは共に旅をしてきた仲間たちで、彼は見事に復活し、最後の戦いへと臨んでいく。この、最後の戦いが肝である。
今作のテーマは『命』であり(『Ⅷ』は愛、『Ⅹ』は旅と親子と明言されている)、ラストボスは命にまつわる存在だった。それは、命との対立である死であり、死の顕現された姿こそが、今作のラスボスである。このラスボスの受けは非常に悪く、わかりやすいライバルや、倒すべき巨悪ではなく、常に横にいる存在がラストボスである、ということが受け入れられないユーザーが多く見られた。
然し、私は、今作にはこのラストボス以上に相応しい最後の敵はいないと思う。何故ならば、今作で戦うべきは、自身の鏡面としての死だからである。

今作では、数多の死があるが、主人公の一人、まだ9歳の人形であるビビもまた、最後には死んでしまう。それは、寿命からなのだが、然し、彼は死を超越し、共に生きてきた人々への感謝を唱えて死んでいった(破壊するために作られた黒魔道士なのに)。
これは、明らかに『ブレードランナー』におけるロイ・バッティの系譜であり、彼は死の間際に、自身の記憶をデッカードに話して絶命する。ビビもまた、空に記憶を預けに行くと言って、絶命する。
そして、主人公ジタンは宿敵であるクジャを、最後の最後で命を賭して助けに行く。「誰かを助けるのに理由はいるかい?」という言葉がここで放たれるが、これもまた、造られた存在である人形ジタンが、宿敵デッカードを助けたレプリカントのロイ・バッティと重なる。

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造られた命は、命ではないのか。命は等価であり、そこに大小はないが、然し、命に対しての眼差しは、造られたものの方が、命短い方が、そこに意識的である。
人生は、あまりにも長すぎるが、然し、終わる瞬間は一瞬だとも言う。明日死ぬのだと、もし告げられたのならば、明日の一秒は、数日に等しい刹那へと転じるだろう。

原点回帰とは、『FINAL FANTASYであること』と同時に、命に還ることなのだろう。今作では、たくさんの命が、還っていく。
そして、ファンタジーの世界において、御伽噺の世界においても、思い出されるのは命の郷愁であり、そこは『ブレードランナー』の未来世界、酸性雨降り染める摩天楼と変わりない。



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