"General theory of relativity"(Dirac)を読む10
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Chapter 10はcovariant differentiation、共変微分について。
$${S}$$がスカラーの時、その微分$${S_{,\nu}}$$は共変ベクトルになるのは、Chapter 3で見た。では、ベクトル場$${A_\mu}$$の微分はどうか?$${A_{\mu,\nu}}$$はテンソルになるのか?
$${A_{\mu}}$$から$${A_{\mu^{'}}}$$への座標変換に伴い、微分$${A_{\mu,\nu}}$$がどの様に変化するかを見る。
$${A_{\mu}}$$から$${A_{\mu^{'}}}$$への座標変換は
$$
A_{\mu^{\prime}}=A_\rho x_{\mu^{\prime}}^\rho
$$
これの微分を考えると、
$$
\begin{aligned}
A_{\mu^{\prime}, \nu^{\prime}} &=\left(A_\rho x_{, \mu^{\prime}}^\rho\right){_{, \nu^{\prime}}} \\
&=A_{\rho, \sigma} x_{, \nu^{\prime}}^\sigma x_{, \mu^{\prime}}^\rho+A_\rho x_{, \mu^{\prime} \nu^{\prime}}^\rho
\end{aligned}
$$
右辺が第一項のみだったら、ベクトルの微分もベクトルになるが、第二項があるせいでベクトルの微分は非テンソルである。
しかし、ここで、ベクトルの微分がテンソルになるように微分のプロセスを修正してみようと思う。
ある地点$${x}$$でのベクトル$${A_{\mu}}$$を$${x+dx}$$の地点に平行移動する。この時、平行移動した量は依然としてベクトルである。この平行移動したベクトルと$${x+dx}$$でのベクトル$${A_{\mu}(x+dx)}$$の差を考える。式(7.10)のベクトルの平行移動の式を用いると、
$$
A_\mu(x+d x)-\left[A_\mu(x)+\Gamma_{\mu \nu}^\alpha A_\alpha d x^\nu\right]=\left(A_{\mu, \nu}-\Gamma_{\mu \nu}^\alpha A_\alpha\right) d x^\nu .
$$
となる。この量も依然としてベクトルである。任意の$${dx^{\nu}}$$に対して、これがベクトルであるということは、chapter4で導入した「商の定理」より、
$$
A_{\mu, \nu}-\Gamma_{\mu \nu}^\alpha A_\alpha
$$
もベクトルである。
(メモ)
$${A_{\mu, \nu}-\Gamma_{\mu \nu}^\alpha A_\alpha}$$がベクトルであることは直接的な計算でも求める事ができる。
$${x^{\mu}\rightarrow x^{\mu^{'}}}$$という座標変換を考える。クリストッフェル記号は非テンソルであり、その変換が
$$
\Gamma_{\alpha^{\prime} \beta^{\prime}}^{\mu^{\prime}}=\frac{\partial x^{\mu^{\prime}}}{\partial x^\mu} \frac{\partial x^\alpha}{\partial x^{\alpha^{\prime}}} \frac{\partial x^\beta}{\partial x^{\beta^{\prime}}} \Gamma_{\alpha \beta}^\mu+\frac{\partial x^{\mu^{\prime}}}{\partial x^\alpha} \frac{\partial^2 x^\alpha}{\partial x^{\alpha^{\prime}} \partial x^{\beta^{\prime}}}
$$
となる事を利用すると、
$$
A_{\mu^{\prime}_{,}, \nu^{\prime}} =A_{\rho, \sigma} x_{, \nu^{\prime}}^\sigma x_{, \mu^{\prime}}^\rho+A_\rho x_{, \mu^{\prime},\nu^{\prime}}^\rho
$$
$$
\begin{aligned}
\Gamma_{\mu^{\prime} \nu^{\prime}}^{\alpha^{\prime}} A_{\alpha^{\prime}}&=\left(\frac{\partial x^{\alpha^{\prime}}}{\partial x^\alpha} \frac{\partial x^\rho}{\partial x^{\mu^\prime}} \frac{\partial x^\sigma}{\partial x^{\nu^{\prime}}} \Gamma_{\rho \sigma}^\alpha+\frac{\partial x^{\alpha^{\prime}}}{\partial x^\alpha} \frac{\partial^2 x^\alpha}{\partial x^{\mu^{\prime}} \partial x^{\nu^{\prime}}}\right)\frac{\partial x^\alpha}{\partial x^{\alpha^{\prime}}}A_{\alpha}\\
&=
\frac{\partial x^\rho}{\partial x^{\mu^{\prime}}} \frac{\partial x^\sigma}{\partial x^{\nu \prime}} \Gamma_{\rho \sigma}^\alpha A_\alpha +\frac{\partial^2 x^\alpha}{\partial x^{\mu^{\prime}} \partial x^{\nu^{\prime}}} A_\alpha
\end{aligned}
$$
したがって、
$$
A_{\mu^{\prime}_{,}, \nu^{\prime}}-\Gamma_{\mu^{\prime} \nu^{\prime}}^{\alpha^{\prime}} A_{\alpha^{\prime}}=\frac{\partial x^\rho}{\partial x^{\mu^{\prime}}} \frac{\partial x^\sigma}{\partial x^{\nu \prime}}\left(A_{\rho\sigma}-\Gamma_{\rho \sigma}^\alpha A_\alpha\right)
$$
となるので、ベクトルの変換規則に従っている事がわかる。
(メモ終了)
さて、ベクトル$${A_{\mu}}$$に関する共変微分を
$$
A_{\mu:\nu}=A_{\mu, \nu}-\Gamma_{\mu \nu}^\alpha A_\alpha\tag{10.1}
$$
と書くことにする。今後”:”は共変微分を表すとする。
さて、$${B_{\nu}}$$というベクトルを考えると、$${A_{\mu}B_{\nu}}$$の共変微分を以下の様に定義する。
$$
\left(A_\mu B_\nu\right)_{: \sigma}=A_{\mu: \sigma} B_\nu+A_\mu B_{\nu: \sigma}\tag{10.2}
$$
式(10.1)を用いると、これは次のように展開できる。
$$
\begin{aligned}
\left(A_\mu B_\nu\right)_{: \sigma} &=\left(A_{\mu, \sigma}-\Gamma_{\mu \sigma}^\alpha A_\alpha\right) B_\nu+A_\mu\left(B_{\nu, \sigma}-\Gamma_{\nu \sigma}^\alpha B_\alpha\right) \\
&=\left(A_\mu B_\nu\right)_{, \sigma}-\Gamma_{\mu \sigma}^\alpha A_\alpha B_\nu-\Gamma_{\nu \sigma}^\alpha A_\mu B_\alpha .
\end{aligned}
$$
これは明らかに、三階のテンソルである。$${T_{\mu\nu}}$$を二階のテンソルとすると、その共変微分は次のように書き表すことができる
$$
T_{\mu \nu: \sigma}=T_{\mu \nu, \sigma}-\Gamma_{\mu \sigma}^\alpha T_{\alpha \nu}-\Gamma_{\nu \sigma}^\alpha T_{\mu \alpha}\tag{10.3}
$$
このルールはより、高い階数のテンソルにも適用することができ、$${Y_{\mu \nu . .}}$$というテンソルの共変微分は
$$
Y_{\mu \nu \ldots: \sigma}=Y_{\mu \nu \ldots \sigma}-\text { a } \Gamma \text { term for each suffix. }\tag{10.4}
$$
となる。尚、添字のバランスに気をつけて$${\Gamma}$$の項を計算する必要がある。
式(10.4)はスカラーにも適用できる。スカラーでは添字が0なので、$${\Gamma}$$の項が0となり、
$$
Y_{: \sigma}=Y_{, \sigma}\tag{10.5}
$$
となる。また、式(10.3)を計量テンソル$${g_{\mu\nu}}$$に適用すると、
$$
\begin{aligned}
g_{\mu \nu: \sigma} &=g_{\mu \nu, \sigma}-\Gamma_{\mu \sigma}^\alpha g_{\alpha \nu}-\Gamma_{\nu \sigma}^\alpha g_{\mu \alpha} \\
&=g_{\mu \nu, \sigma}-\Gamma_{\nu \mu \sigma}-\Gamma_{\mu \nu \sigma}=0
\end{aligned}
$$
となる。尚、最後の等号では式(7.6)を用いた。この式は計量テンソル$${g_{\mu\nu}}$$は共変微分の下で定数ということを意味する。
式(10.2)はスカラー積に対しても適用できる。2つのベクトルのスカラー積に対して
$$
\left(A^\mu B_\mu\right)_{: \sigma}=A_{: \sigma}^\mu B_\mu+A^\mu B_{\mu: \sigma}
$$
が成り立つと仮定する。この時、左辺に対して式(10.5)を適用し、右辺第二項に式(10.1)を用いて共変微分の式を入れてやると、
$$
\left(A^\mu B_\mu\right)_{, \sigma}=A_{: \sigma}^\mu B_\mu+A^\mu\left(B_{\mu, \sigma}-\Gamma_{\mu \sigma}^\alpha B_\alpha\right)=A_{: \sigma}^\mu B_\mu+A^\mu B_{\mu: \sigma}
$$
となる。したがって、真ん中の式と左の式を比較してやると、次の式を得る。
$$
A_{, \sigma}^\mu B_\mu=A_{: \sigma}^\mu B_\mu-A^\alpha \Gamma_{\alpha \sigma}^\mu B_\mu
$$
これが任意の$${B_{\mu}}$$に対して成り立つので、
$$
A_{: \sigma}^\mu=A_{, \sigma}^\mu+\Gamma_{\alpha \sigma}^\mu A^\alpha\tag{10.7}
$$
を得る。これは、反変ベクトルに対する共変微分を与える。共変ベクトルの場合はクリストッフェル記号の前の符号はマイナスだったが、反変ベクトルではプラスになる。今回も添え字のバランスが重要である。
積の共変微分の式はいかなる階数のテンソルに対して、次のように書ける。
$$
(X Y)_{: \sigma}=X_{: \sigma} Y+X Y_{: \sigma}\tag{10.8}
$$
一般相対論において、物理法則はあらゆる座標系で成り立たなければならない。そのため、物理量はテンソルで表現されなければならない。(本文中でしれっと書かれているが、これは一般相対性理論の核心の一つである)したがって、場の量の微分を考える際は全て共変微分の形で書き表されなければならない。
例えば、スカラーVに対するダランベール方程式$${\square V=0}$$は、共変微分の形式である
$$
g^{\mu \nu} V_{: \mu: \nu}=0
$$
と書き直される必要がある。$${V}$$はスカラーなので、式(10.1)より、$${V_{:,\mu}=V_{,\mu}}$$であり、さらに、その共変微分は式(10.5)を用いると、
$$
g^{\mu \nu}\left(V_{, \mu \nu}-\Gamma_{\mu \nu}^\alpha V_{, \alpha}\right)=0\tag{10.9}
$$
となる。
平坦な時空(重力が無視できる時空)であろうが、曲線座標であろうが、任意の座標系で成り立つ関係式を得たい場合は、共変微分の形で書き表さなければならない。