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第56回 「妙適清浄句是菩薩位」の真意?

 妙適(みょうてき)は、サンスクリット語「surata(スラタ)」の漢訳で、日本語に訳せば「性的な快楽(恍惚境)」を意味します。
 これが、菩薩の境地「bodhisattvapada(ボーディサットゥヴァパダ)」 に他ならない、と説いているのが「理趣経(りしゅきょう)」です。

 結婚しているしていないに関わらず、男女の交合(性的合一)そしてそれに伴う「性的恍惚境」は、大多数の成人男女が日常的に経験していることです。
 にもかかわらず、「性的恍惚境」が「菩薩の境地」であることを自覚したという人の話は、あまり聞いたことがありません。

 「性的恍惚境」は大多数の成人男女が経験しているのに、「菩薩の境地」を自覚した人が殆んどいないのはなぜなのか?
 そもそも、「菩薩の境地」とは、どんな「境地」なのか?

 今回は、「理趣経」で説かれる、「妙適清浄句是菩薩位」の真の意味について考えます。

 「理趣経」を重要経典と位置付ける真言宗を始めとする日本の仏教界は、「妙適清浄句是菩薩位」で始まる17清浄句は、「全ての存在は、自性清浄である。」ことを分かりやすく説くための「例え話」であり、経文をそのままストレートに受け取ってはならないと教えています。

 釈尊が実践し「悟り」を成就した瞑想修行法は、無所有・禁欲をベースにした修行生活の上に成り立つものでした。
 それに逆行し、性的欲望を全面的に肯定する17清浄句に代表される修行法は、仏教徒として採用しづらかったのか、少なくとも日本においては定着しませんでした。

 しかし、「理趣経」自体は重要経典として現在でも伝承・読誦されているように、「妙適清浄句是菩薩位」に始まる17清浄句は、実態は不明なものの、「悟り」に導く仏道修行法について説かれているものとして受けとめるべきです。

 その認識のもとに、「妙適清浄句是菩薩位」の詩句が示唆する「妙適=菩薩位=菩薩の境地」は何を意味し、どんな修行法なのかについて、実体験も交えて考察します。

 まず最初に、「妙適=菩薩位=菩薩の境地」は、何を意味するのか?

 般若心経のサンスクリット原文「法隆寺貝葉写本」には、「意識(心・魂)が肉体から分離・離脱してニルヴァーナ(涅槃)に到達することが、悟りである」と示唆する記述があります。
 この記述が、「妙適=菩薩位=菩薩の境地」の真意を解明する手掛かりになります。

 上述したように、「妙適(性的恍惚境)」は、愛し合う行為の過程で、ほとんどの成人男女が日常的に経験することです。
 しかし、それが「菩薩の境地」であるという認識・体験に至った人は、まずいません。

 大多数の人が経験する「普通の性的恍惚境」と、「菩薩の境地に至る性的恍惚境」との間には、どんな違いがあるのでしょうか?

 心理学用語に「変性意識状態」という言葉があります。ウィキペディアの記述では、《日常的な意識状態以外の意識状態のこと。人が幻覚などをみる状態。》となっています。

  「菩薩の境地に至る性的恍惚境」とは、この「変性意識状態」を惹き起こす、高いレベルの性的興奮状態を指します。 
 物理学で言う、水⇒気体(蒸気)の相転移(状態変化)を起こすエネルギー状態です。

 普段我々が経験する性的恍惚境は、水が徐々に温められ、お湯になっていく状態に相当します。単発的な短い絶頂を経験した後、また元の水に戻ります。 

 「菩薩の境地に至る性的恍惚境」とは、このような単発的な絶頂を伴う性的恍惚境ではなく、遊園地のジェットコースターのような急激なアップダウンを繰り返す、連続した絶頂感を伴う性的恍惚境のことを意味します。

 連続した絶頂感の究極で一時的な呼吸停止状態(=止息)に陥り、それを切っ掛けに意識(心・魂)の体外離脱が始まり、「菩薩の境地」と表現される「変性意識状態」へ移行するのです。

 「変性意識状態=菩薩の境地」となった女性は、臨死体験者が証言するような、「お花畑」や「暗いトンネル」、「三途の川」、「見たこともないような素晴らしい世界」等々、様々な神秘現象を体験します。

 この境地に至る「妙適=性的恍惚境」を、密教では、「大楽」と表現しているのではないかと思います。
 「妙適=菩薩の境地=大楽」という図式です。

 少なからぬ女性が経験しているのではないかと思いますが、女性は、上手に導かれれば、一度ならず、何度でも連続して絶頂に達することができる存在です。

 その究極で、なぜこのような「変性意識状態=菩薩の境地」に移行し神秘体験をするのか、研究する人がいないので、正確なところは分かりません。

 「スッタニパータ」や「法隆寺貝葉写本」には、意識(心・魂)の体外離脱が惹き起こされる条件として、「煩悩と五感の消滅」が記されています。

 釈尊は瞑想修行により「煩悩と五感の消滅」を達成したのですが、「妙適」によっても同様のことが起こるのです。
 絶頂の感覚が連続して持続することが、その条件になっています。

 その時どんな生理的反応が生じているか観察すると、連続した絶頂に達し呼吸も停止状態にある時、女性は何も思考せず、ただ恍惚感にどっぷり浸った存在になっているように見えます。

 その時、身体の接触を除く、眼・耳・鼻・舌からの情報は全て遮断され、煩悩と五感が共に消滅し、期せずして、意識(心・魂)の体外離脱が起きているのではないかと思われます。

 瞑想修行による体外離脱も、「妙適」による体外離脱も、結果的に同じ状況・状態を創り出し、「成道・成仏」や「菩薩の境地」の原動力となっているのです。

 いつの頃か、「妙適」による体外離脱を実体験した修行僧がいて、そこから、「妙適清浄句是菩薩位」の句が生まれたのではないでしょうか。

 一つ注目しておかなければならないことは、この句が「是菩薩位=菩薩の境地」となっていて、「是仏陀位=仏陀の境地=即身成仏」とはなっていないことです。
 「妙適」による体外離脱体験では、「無上正等覚」を獲得する仏陀の境地には至れない、ということが暗に示唆されています。

 その理由は分かりませんが、恐らく、「妙適」により持続する体外離脱の時間では、「無上正等覚」を獲得するには短かすぎる、ということではないかと思います。

 いずれにせよ、「妙適」が「仏陀の境地」に続く「菩薩の境地」をもたらすことは事実であり、特に若い時期に実現可能性が高く、仏道修行法の一つとして、正しく真剣に検討されるべきものではないかと思います。

     ******* 注 意 *******

 「即身成仏」には至らなくとも「菩薩の境地」は獲得できるわけですから、愛し合う男女にチャレンジしてもらって、釈尊が説く世界観・輪廻転生が事実であることを、是非実体験して頂きたいと思います。

 ただし、「妙適」を獲得する過程で、肉体的に危険な状況に遭遇することがあるので、対処法も含めて言及しておきます。

※ 呼吸が、止まったまま戻らない。
 意識(心・魂)の体外離脱が始まる時、一時的に呼吸停止状態になります。すぐ呼吸が戻る場合が大半ですが、状況によっては、そのまま停止状態を続けることがあります。
 胸の動き等を見て、呼吸をしていないと気付いたら、すぐに人工呼吸をします。口を押えて鼻から息を吹き込むほうが、スピーディーに回復します。

※ 一時的に失明する。
 脳が興奮状態から急に平常状態に戻った時に起きる現象ではないかと思いますが、平常に戻った後、眼が見えなくなることがあります。
 気が動転する場面ですが、焦らずに、もう一度性的興奮状態に戻してやり、その後ゆっくりと平常状態に戻せば回復します。
 お互いが、信頼できる関係にあることが重要です。

※ 身体が、焼けるように熱くなる。
 これも、興奮状態から急に平常状態に戻ったために起きる現象だと思います。上記と同じように対処します。

※ 平常意識状態に戻ろうとしない。
 比較的長時間「変性意識状態=菩薩の境地」を体験している時に起きる可能性がある出来事ですが、余程素晴らしい世界を体験しているのか、帰りたくない(=平常意識状態に戻りたくない)と言い出すことがあります。
 そのまま帰ってこなければ死に繋がりかねない、一番怖いシチュエーションです。
 このケースに対しては、対処法は特にありません。その人の寿命次第ではないかと思います。
 死に繋がりかねない持病があったり、年齢が高かったりする場合は、この修行法は避けるほうが賢明です。

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