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お米を抱えて夜行列車に。祖母の思い出

「お父さんはね、海軍の陸戦隊ってところで中国のほう行ったとか最初聞いとったけどね、途中から何にも教えてくれないの。手紙が『お元気でお過ごしください』ばっかりで、どこにいるか分からないの。」

「そんでもね、『会えるのが最後かも知れない』って言われてね、ちょうどお父さんが広島の江田島って言うところで訓練するっちゅうもんで。『正月のころに会いに来い』って。」

「一番下の○○はまだ3歳で、いっぺんお父さんに顔見せてやりたかったからお母さんがおぶって行くのだけど、真ん中の妹の△△は5歳でしょ。足手まといになるからおいていこうと思ったんだけどね、『私も行く』って言い出してきかないの。」

「いま聞いても△△は覚えとらんって言うけどね、もっと小さかったから当然だわ。お父さんが召集されて、お宮であいさつしてみんなで見送るんだけど、その時、ふらふらってみんなの前に出てきて、あの子が『お父ちゃん、またみたらし(だんご)買ってきてね』って言うのよ。ときどきお父さんが町に行った帰りにおだんご買ってきてくれたの、覚えとったみたい。辛いことだったと思うよ、お父さんも。」

「それでね、江田島っていうところはね、お米がよう取れないらしいの。みかんはようけ採れても、お米は全然なの。だから、お父さんに会いに行くっていうのに、お米2升よ、あんた。おーもかったわ。うちから呉までずっと両手で、今だって重たいのに、小学校3年か4年の子が。汽車の時間もちゃんと覚えて夜行で行ったの。ついたらお父さんが迎えにきてくれとったわ。」

「船に乗るとね、窓も幕が全部下ろされちゃうの。けど私はね、危ないって言われてたけど外見てた。大和を見たのは次の日。呉に戻る途中だったんだけど、潜水艦を8隻連れてたしね、すごい波がきてね。はっきり大和って書いてあったからすぐ分かった。わたししか見とらんけどね。」

「最近はね、夜中2時くらいにいっぺん目が覚めるとね、4時くらいまで寝られんでしょ。ほいだで、ずっと余計なことばっかり考えとるの。最近のテレビでなに言っとるか分からんでも、昔のことはすっごくよく覚えてるの。とにかく江田島はお米がとれんから手が重たかったこととかね。」


「頭だけは動いてると、考えるがね。私は食べられるからまだ生きとらせるけど、食べられなくなったらいよいよ弱るがね。私が生きとるうちはあんた税金も払えるけど、亡くなったら残った人たちがどうするか知らんけど。おしまいになったほうが迷惑掛けんで片が付くかねとか。食べなかったらそれで片付くって思っても、この子がちゃんとご飯用意してくれたら食べるがね。こまったもんだけど、まだ食べとれるから死ねないんだわ。ぼけとるようなもんだけど、まだこうやって話しとけば、いまより悪くはならんでしょ。あんたみたいに聞いてくれる人がいれば、いつまでも話しとれる。昔のことだけは、ほんと今でも覚えとる。」

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