友達
「だからさ、ごめんね」
ごめんねって、どういうことだ。
僕の頭の中はまだ混乱していた。
大事な話があると無二の友であるSに呼び出されたカフェで聞かされた話をまとめると、こうだった。
Sは友達の数を定めている
新しい友達ができそうなのでもう友達をやめたい
大変シンプル。友達の数を定める、というのがよく分からないが、その部分以外のロジックは滅茶苦茶になった頭でも理解できた。
「どうしてもそうなるの?」
「うん」
「それで幸せなの?」
「…」
Sのことは親友だと思っている。若しくは、思っていた。友達が少ないことも知っているし、堅物だということも知っている。何度もけんかもしたけれど、そのたびに関係を修復して、お互いを許しながら友情を築いてきたつもりだ。見惚れるほどの美人だけれど、恋愛関係やそんな感情を持ったことは一度もない。
「友達をやめる、かぁー」
「引っ越したと思ってくれれば」
去る者は日日に疎し。
会わなければ心は離れていく。そんなことは知っている。そんなことを教えてくれるほど君は偉いのか。
悔しいけれど、もう友情を再構築できないことはわかった。
「そっか、分かった。ごめんね。なんか」
「ううん、私のほうこそごめん」
『私のほうこそ』…?ごめんと言うべきなのは君だけだ。
確かに最近、2人の間の緊張感はあまりないように思えた。遊びに行く頻度も減っていたし、生ぬるい会話しかしていない、そんな気もしていた。
それでも、である。
僕は人間関係に関して2つ信じていることがある。
友情は(恋人同士の)愛情よりも尊い
友情には賞味期限がある
友情はいつか期限が切れてしまう。明日かも知れないし、一方が死ぬときかもしれない。食品のように、期限が切れても意外と食べても大丈夫だったり、食べないほうがいい時もある。
しかし、こんな風に友情が終わるのは想定外である。
「今まで友達でいてくれてありがとう」
「今まで友達でいさせてくれてありがとう」
最後の会話を交わした僕たちは帰路についた。
こんな終わりを迎えるなら友情だって恋愛関係だってだって一緒じゃないか。他人同士理解し合おうとして、結局相手のことも自分のことも嫌いになって終わりである。
でも、とシャワーの中で思い直した。
Sと2人で行った場所、2人でしたこと。
他の誰とも経験できない、他の何にも代え難い僕にとって大事な思い出だ。この別れを受け入れて先に進もうじゃないか。
何も後悔していることはないが、僕はシャワーの中でえずくまで泣いた。
※この物語はフィクションです。
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