両替するなら知っておきたいこと
今回は、インフレ率が三桁を超える国アルゼンチンを訪れるなら必ず知っておきたい両替にフォーカスして、できるだけわかりやすく解説したいと思います。
アルゼンチンの通貨
まずアルゼンチンの通貨は「アルゼンチンペソ」です。表記が米ドルと同じ「$」のため、お店やレストランの価格表記に戸惑う日本人の方が多いです。外国人がよく来る店の場合、稀に値札はドルで表記して会計の際にペソで請求してくるお店もあるので、よく見分ける必要がありますね。また値段において、カンマとピリオドの使い方が日本とは逆です。
ちなみに「ドル化」や「中銀廃止」を公約に掲げるミレイ大統領が2023年末に就任しましたが、これには数年単位の時間を要するとも表明しており、現時点で日常生活で米ドルを支払いのために持ち歩くということはほぼありません。
複数の為替レートが存在する?!
では本題に入りましょう。日本人の感覚では理解しにくいことですが、アルゼンチンは為替レートがいくつもある不思議な国です。
主に二つのレートを取り上げましょう。一つは銀行の公式レート(Dólar Oficial)、そしてもう一つは通称ブルーレート(Dólar Blue)と呼ばれる闇市場の非公式レートです。「闇レート」と言ってしまうと聞こえが悪いですが、アルゼンチンではごく普通のことで、新聞やニュースなどでは公式レートの隣に堂々とブルーレートが並べて表示されています。
では日本のクレジットカードを使うと公式レートで決済されるのでしょうか?実は外国人観光客のクレジットカードには、2022年11月からブルーレートに近い電子決済市場レート(Dólar MEP)と呼ばれる優遇レートが適用されるようになっています(※1)。
ただカード会社の海外事務手数料や国際ブランドの基準レートによっては、優遇レートの恩恵を感じないことがよくあるのも事実です。
お得感が薄れたブルーレート
一般的に海外からの旅行者はドルを持ち込み、ブルーレートで換金を行うことはよく知られています。なぜならその方が率の悪い公式レートで換金した時よりも、お得に買い物ができるからです。
一例を挙げると、お土産に人気のアルゼンチン産マルベックワインが一本25,000ペソの場合、公式レート換算で25ドル(約3,700円)となりますが、これがブルーレート換算では21ドル(約3,000円)で買えます。
ただ、昨年までは公式レートはブルーレートと約170%も乖離していたので、ブルーレートのお得感が凄まじかったのですが、新政府が公式レートを切り下げたことで、二つのレートの乖離幅は10月1日現在で約23%まで縮まっています。そのため最近はブルーレートによるお得感が薄れてしまいました。
このように二つのレートの差が縮まると、正直面倒な換金をせずともクレカ払いで解決しそうですが、やはり現金(アルゼンチンペソ)しか受け付けてもらえないという場面も多く(チップやタクシー代等)、旅行者の場合は換金が必要になることが想定されます。
換金におすすめの場所は?
まずブルーレートでの換金は、非公式であるがゆえに完全自己責任ですので、日本のような感覚で立ち入れる守られた世界ではないということをまずはご承知おきください。
大抵の在住者は、お得意先の両替商または信頼できる友人などから換金していますが、旅行者の場合はGoogleマップで滞在先周辺の「Casa de Cambio」(両替所)を検索して、実際に行ってみて幾つかの両替所のレートを比較してから換金するという方法もあります。
ホテルでは換金対応していない場合が多く、せいぜい両替所の名刺を渡されて「あとは自己責任で!(とは言われません笑)」となるくらいです。フロントで両替をしてくれる場合も稀にありますが、レートはやはり悪いです。
YouTubeでも見ることができますが、市内の有名な歩行者天国であるフロリダ通りに行くと、両替商たちが、「カンビオ、カンビオ!カサ・デ・カンビオ!」と叫んでいます。カンビオ(cambio)とは両替のことです。日本人が歩いていると「チェンジマネー!」と英語で近寄ってくることもあります。ちなみに私は路上両替してもらった経験はありません。
ちなみに100ドル札しか受け付けてくれない場合もありますし、100ドル以下の細かいお札の場合は、レートが少し悪くなるのが一般的です。
お勧めできない換金方法は、空港に着いてすぐ目の前にある両替センターでの換金です。おそらく一番率が悪く、公式レートよりも悪い場合さえあります。
もしドルをペソに両替したら使い切ることをお勧めします。それで換金する際は、滞在期間にもよりますが、一気に手持ちのドルを換金するかどうかを判断する必要があります。換金し過ぎると意外と使わなくて、誰も欲しがらないペソが手元に残ってしまうかもしれません。
変動する為替レートを確認するために
今年に入ってからブルーレートは安定してきました。下記サイトに1ドルあたりアルゼンチンペソがいくらかが表示されていますので、随時確認してください。ただしあくまで目安ですので、両替商によってレートは多少違います。もちろん旅行者を狙って悪いレートで取引しようとする人や偽札を使う人もいますので注意が必要です。
海外送金ならウエスタンユニオン
ドルを持参することに不安を感じる場合は、日本から海外送金してアルゼンチンで現金を受け取ることも可能です。例えばウエスタンユニオン(Western Union)はブエノスアイレス市内でよく見かけますし、こちらも優遇レートが適用されるので日本人旅行者で利用される方もおられます。ただドルでの受け取りはできず、ペソでの受け取りとなってしまいます。
マネーグラム(MoneyGram)も店舗数は少ないですが、現地受け取り可能です。こちらもペソでの受け取りとなります。また海外送金手数料の低さで有名なワイズ(WISE)は、2023年から日本とアルゼンチン間の送金サービスを停止しています。
なぜブルーレートが存在するのか?!
ではなぜ非公式レートが堂々と取り引きされているのでしょうか。ここからはアルゼンチン人の直面する問題を深掘りしたいと思います。
まず大前提として国民は自国通貨アルゼンチンペソや銀行を信用していません。これは過去に9度もデフォルト(債務不履行)を起こしており、国民が度重なる経済危機の歴史から学んでいるからです。特に2001年の財政破綻によるペソ大暴落により「またペソが紙くず同然になってしまうかもしれない」という将来への不安があるのです。
そのようなわけで国民は信用のないペソを貯蓄するのではなく、安全なドルに換金して保有したいと思っています。
ただ前政権の2019年10月以降の緊急大統領令により、政府はペソの価値を保つために、個人が持つペソの口座から預金を目的としたドルへの購入に、1カ月につき200ドルまでという制限をかけています。
(中南米で最低賃金が月200ドルに満たないのはアルゼンチンとベネズエラだけです。アルゼンチンは国民の半分が貧困層であるため、そもそも毎月200ドル買える余裕のあるアルゼンチン人はそう多くないのが現状です。)
しかも外貨購入に課税される税金(通称PAIS税)は30%も課税されます(※2)。例えば9月のある時点の状況で考えてみましょう。
単純に数字だけ見ると「銀行の公式レートでドルを買った方がお得!」と思いがちですが、実は950ペソにPAIS税と所得・個人資産税が加わるので、60%ほどの課税となり、実際は1ドル買うのに1,500ペソもかかってしまいます。
つまり月の上限いっぱいの200ドルを購入すると31万ペソ払うことになります。でもこれをブルーレートで購入すると、24万ペソで換金ができてしまいますよね。わかりやすく円で考えるとブルーレートで換金した方が約8,400円もお得ということです。それに200ドルの縛りもありません
もちろん公式レートでドルを購入した場合、消費の内容によっては所得・個人資産税の控除対象となるので、翌年に還付を受けることができます。要するに「ドルを買えるくらいお金あるなら先に税金払ってください。もしあなたが高所得者じゃないことがわかったら、来年になったら35%返金しますよ。」ということです。
嘘のような本当の話ですが、あるアルゼンチン人の会社員はお給料をペソでもらうと、すぐにブルーレートでドルに換金しベッドの下に貯蓄します。実際、国家統計センサス局(INDEC)の調査によると、アルゼンチン人は約2億5,785万ドルを、金融システム以外で保有していると報告されています(※3)。
もちろんこれらは旅行者には関係のないことですが、このような特殊で複雑な事情があるため、非公式でありながらブルーレートの方がアルゼンチン国民にとってはアクセスしやすく、支持されやすいということがお分かりいただけるでしょう。
ドル化宣言でもまだまだペソ新札発行
今年5月からは、最高額面紙幣の1万ペソ札の流通が始まりましたが、ブルーレートで換算すると最高額にも関わらず日本円で1,200円ほど(2024年9月現在)の価値しかありません。しかもATMによっては新札に対応していないこともあり、実際は1,000ペソを扱う機会が多いことに変わりがないのが現状です。
まとめ
今回はアルゼンチンに旅行するなら必ず押さえておきたいけど、ちょっとハードルの高い両替について詳しく取り上げました。闇レートは経済の不安定さの象徴であり、信用と自己責任について考える機会にもなります。これらの現状を把握した上で、安全で楽しいアルゼンチン旅行を満喫していただければと思います!
参考文献
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