2023/03 久賀島
博多港から「太古」で福江港に到着。(「太古」の乗船記はこちらから)
五島が生んだアイドル、長濱ねるに出迎えられる。
訪問時は、五島が舞台の一つとなる朝ドラが放送中だった。
まずはターミナル内にある観光案内所で自転車を借りる。
このレンタサイクルは台数があまり多くないようで、この日は平日にもかかわらず、自分たちが借りた分でちょうど全ての自転車が出払うことになった。
「太古」で福江に到着後、ターミナルからレンタサイクルを利用する場合は争奪戦を覚悟する必要があるのかもしれない。
さて、福江に到着して早々に自転車を借りたのだが、巡るのは福江島ではない。
この日の第一目的地は福江島の隣、北東に位置する久賀島。
久賀島にはレンタサイクルが無いため、福江港で借りた自転車を久賀島へ航送してサイクリングを楽しむ、という算段である。
(ちなみに、久賀島へ向かうスケジュールが決まっており、かつ3〜4人のグループであれば久賀島でレンタカーを利用する方が安上がりになると思われる。)
「太古」が当初の想定ほど遅れなかった(経緯は「太古」乗船記を参照)おかげで、福江9:10発の久賀島行きの木口汽船に間に合った。
自転車を積み込んで乗船。
乗船券は出港後に乗組員から購入し、下船時に回収される。
木口汽船「シーガル」の船内の様子。
窓を向いて背中合わせに座席が配置されるという、他ではあまり見ない形態である。
というのもこの船、福江と久賀島を結ぶ定期航路で活躍する高速船というのは建前(?)で、実はグラスボートとしての性質を併せ持っており、階下に水中展望室を備える。しかも定期航路での運航時にも普通に開放されている。
肝心の水中展望室の写真を撮り忘れたのが痛恨だが、どうしても気になる方はネットで探して確認してもらいたい。上の写真で座席の背もたれに挟まれた空間の下にも客室があるのだ。グラスボートが日常的に使用される定期航路というのは聞いたことがない。
興味本位で水中展望室も覗いてみたが、決して観光航路ではなく航行時はかなり飛ばすため魚はおろか何も見えず、ただ単胴船が水中に作り出す泡を眺めるだけになる。これを楽しめる物好きもどこかにいるかもしれないが、自分は早々に飽きて退散してしまった。
波は依然として高めだが、ものともせず全速力で進むのでかなり揺れた。
20分ほどで久賀島・田の浦港に到着。
観光で島を訪れる人にとっては唯一の玄関口だが、浮桟橋が1つだけの簡素な港である。
入れ替わりで数人の客を乗せ、すぐに折り返していった。
改めて、この会社の船はどれも目立つ塗装を纏っている。ちなみに二輪車は後方の外部甲板に積載する。
桟橋から上陸した正面に鎮座する世界遺産の石碑。
島の全域が「久賀島の集落」として世界遺産の構成資産になっている。
五島列島の中では比較的訪問しにくい島だと思うが、世界遺産に登録されたことで訪問者も多少増えたことだろう。
自転車に跨って海沿いの道を進むと、まず見えてくるのが浜脇教会。
ところで、久賀島を自転車で巡る際にはかなりのアップダウンが続くことを覚悟しなければならない。上の写真では浜脇教会の手前から九十九折の坂が始まっているのが見えるが、久賀島の中心である久賀集落に向かうにはまずこの背後の山を越える必要がある。
電動アシスト付きの自転車を借りていたのでさっそく電気の力に頼ることにしたが、この後もいくつか峠を越えることになるので計画的に。
1つ目の峠を越えて久賀集落へ。
この集落には小中学校があり、例によって校門前には教育用の信号機が。
もちろん島で唯一の信号機である。
久賀集落を抜けるとしばらく入江に沿って進む。強烈な向かい風に見舞われて体力が削られていく。
一見すると塩田かと思ったが、クルマエビの養殖場らしい。
久賀島の内海に面した傾斜地には五島列島では珍しい棚田が見られる。この棚田を含めた様々な農業景観は「五島列島における瀬戸を介した久賀島及び奈留島の集落景観」として国の重要文化的景観に指定されている。
ここからまた峠を越える。
下り坂の途中から次の集落を一望。限られた平地に住宅が密集している。
ここは蕨集落。
久賀島の中でも建物の密度が最も高いエリアではないだろうか。
ただし、空き家や倒壊した家も散見される。
板張りの家屋・小屋が集まる美しい町並み。
この集落には簡易郵便局があり、同行者の趣味に付き合う。
外からの訪問客が珍しいそうで、お土産に飴をいただいた。同行者曰く、このような僻地の郵便局では色々なものを貰うことが多いそうだ。
郵便局の前に大集合していたおとなしい猫チャンたちに癒されてHPを回復。
先へ進む。
蕨集落を過ぎると急に道が荒れはじめ、アップダウンも激しくなってくる。
海を挟んで見えている陸地は奈留島。
途中で見かけた素朴な桟橋。
今は使われているのだろうか。ここから上陸してみたい。
蕨集落から15分ほど、いつの間にか未舗装となった道を進むと広場に出る。
自転車を停め、ここからは徒歩。
この先に、今回の五島旅で最も訪問したかった場所の一つがある。
坂を下ると、前方にその建物が見えた。
旧五輪教会堂。
この建物は、元は現在の浜脇教会の場所に浜脇教会堂として建てられたもので、1931年に現在の場所へ移築された。現存する木造の教会では最古の部類であると言われており、国の重要文化財にも指定されている。
現在は教会として使われていないことから五島列島の教会群の中で唯一、内部の写真撮影が可能である。
木材が露出した壮大なリブ・ヴォールト天井が印象的な堂内。
飾り気の少ない質素な堂内において、淡い色合いのステンドグラスが良いアクセントになっている。
ゴシック風の祭壇。
ここは雑誌『Casa BRUTUS』の表紙にもなった。
長濱ねるが立っていた場所に自分も立っていると思うと感慨深い。
他の教会に比べてオープンな構造の告解室。
海を眺められる教会は五島にも数多く存在するが、ここまで海との距離が近い教会は珍しい。
じっと耳を澄ますと波の音しか聞こえない、滞在しているだけで心が洗われるような空間だった。
が、帰りの船の時間が迫っている。
またここに来ることはあるのだろうか。
ただでさえ行きにくい二次離島、しかも港の反対側という究極の僻地とも言える立地ゆえ、これだけのために訪れるというのは些かハードルが高いかもしれない。
しかし、苦労してでもまた訪問する価値はあると感じられる場所だったことは間違いない。
護岸の上を歩いて戻る。
季節関係なく飛び込みたくなるような海が広がっていた。
再び自転車に跨り、帰路を急ぐ。
急ぐといっても、息を呑むような絶景が次々に現れるので頻繁に立ち止まってしまうのだが。
蕨集落まで戻ってきた。
最後に立ち寄ったのは「牢屋の窄(さこ)」。
1868年、潜伏キリシタンであることを表明した信徒に対してこの場所で迫害が行われ、多くの殉教者が出た。
久賀集落を通過し、最後の峠を登りきって浜脇集落を望む。
アシストをかなり温存していたので、後半はかなり余裕があった。
浜脇教会の前を通過。
青々とした空と海。
風が強い以外は快適なサイクリングだった。
12:20、港に到着。ぎりぎり間に合った。
程なくしてお迎えが到着。
復路もグラスボート高速船「シーガル」で。
船底がどうなっているなのか、外から見てみたい。
往路ほどではないにせよ、復路もワイルドな走りを堪能できた。
福江港に到着後、自転車を返却して久賀島編は終了。
奈留島編に続く。
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