白くて黒い

この記事には大さじ1杯分の性的描写が含まれます。苦手な方は御遠慮ください。


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 遥か遠い夏を目指して、くるくる回る。今日の青空は西に沈み、ほんの少しのあいだ、血潮のやうな残照に染まる。それを隠すかのように闇が空を覆い尽くす。夜は嫌いだ。どうしたって、自分がたったひとりである事を突きつけられるから。煙草を手に外へと身を投げ出す。感傷に浸る、しかし月は見えない。冬の大三角だけが聞いている。いや、聞いているかどうかなんて分からない。これは僕の勝手な思い込みさ。吸い慣れていない煙草に火をつけて肺いっぱいに煙を吸い込む。有害なものを追い出そうと体が反応する。上手に息ができない。あぁ、なんて馬鹿なんだろう。煙なんかでは埋めることの出来ない寂しさを、紛らわすために痛みを求めた。開ける場所などもうないけれどね。自嘲気味に空に吐き出す。外の冷気で耳はすっかり冷えてしまった。適当に、飾りのないところに針を当てて、ほんの少し力を込める。バネが跳ねる音と共に、耳を穿つ。この音とほんの少しの痛みだけが、私の心を埋めてくれるのだった。
 次の夜、私は酷く酩酊していた。誕生日プレゼントに泡の城を建てて欲しくて…それでどうしたんだっけ。目に刺さるほど煌びやかな部屋の中、女は一人で寝るには大きすぎる寝床の上に投げ出されていた。ふ、と視界にお世辞にも綺麗とは言えない顔が映し出される。ああ、泡の城の対価に体を差し出したんだっけか。何処か他人ごとのように感じる。けど、ベタベタと無遠慮に這いずり回る汚いソレが現実であると突きつける。酒とタバコとよく分からないナニかが混じった吐息に吐き気を催す。突っぱねようにも力が入らない。それにここで拒んだら全てが終わりだ。どうにか誤魔化し、汚い熱を受け入れる。否、無理矢理突っ込まれたのだ。瓜を割られる痛みに目を潤ませる。荒い呼吸と痛み、嫌な音から思考を逸らす。どれくらい続いただろうか。私の瓜も腹も喉も全部全部白く汚れた。気づけば汚いソレはもう居なかった。満足したんだろう。汚れた紙切れが数枚サイドテーブルに置かれていた。痛む体を起こして、大嫌いな煙草と木の香りを纏わせた蒸留酒で上書きをする。鞄に手を突っ込み命綱を手に肌に突き立てる。白くなったところに血を滲ませる。そうやって白を赤に、黒にしていくの。でもそうしたって白くなっちゃったからもうお姫様にはなれないのか。まともな思考など、影を消す朝日と共に消え去ってしまった。身一つ消え去ったって世界が終わるわけじゃない。なら、いいか。影ひとつない街にシーツの羽を広げて飛んだ。なんて綺麗な景色なんだろう。私、こんな綺麗な街で生きていたんだ。最期に思うのがくだらない事だなんて馬鹿だな。今世では叶わなかったけれど、次産まれてきたらきっと、きっと私はお姫様になれる。普通に恋して普通に生きる。絶対よ。

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