徒然ならない話 #13 不意に消えたくなる時、ありませんか?
少し前のこと、それは不意にやってきた。
全く突然に、なんの予兆もなく、それは僕のもとにやってきて、
僕はとたんに消えたくなった。
それがやってきた日の自分は、ふだん以上に弱々しくて、
最低単位の行動を繰り返すことしかままならない。
まず、それがやってきたことを飲み込むには、それなりに経過しないといけない。
自分で理解した頃には、僕ははっきりと異常を認識できる。
例えば、目の前の光景がだんだんぼやけてきて、
はっきりと認識できなくなってくる。
頭に血が回らなくなって、クラクラしてくる。
ランダムなタイミングで呼吸が荒くなる。
全身に寒気と鳥肌が広がることもあれば、何かを壊したくなることもある。
頭の中にイメージが勝手に広がって止まらなくなることもある。
例えば、何かまっさらできれいなものにシミや汚れが広がるイメージ。
それか、何もないところから突然ブツブツや真っ暗な穴が増殖する光景。
あるいは、身体中に虫や膿がまとわりついてくるような。
口で説明するのは難しいのだけれど、
それの影響はこういった感じと受け取ってもらっていい。
対処法はわからない。
とにかく嵐のような激しい時間を、意識と自分のからだを切り離して、過ぎ去るまでやり過ごしていくしかない。
嵐はこちらの事情などお構いなしに襲ってくる。
理不尽で荒々しいそれの訪問を断ることはできないから、
僕は従順な振る舞いで黙ったまま傷をつけられるだけだ。
それの終了条件は明確ではなくて、
寝れば治るとか、人と会えば治るといったわかりやすいものはない。
無理やり寝付いたところで、冷や汗と動悸、凄惨なイメージを伴った覚醒が僕を引っ張り上げてくるからだ。
ただ気付いた時には自分の中にそれはもういなくて、
嵐の後の静けさだけが余韻を担っている。
僕が時たま体験するこれに、今の所はっきりした名称はない。
心の病なのか、体の不調が誘発したものなのか、それともただの疲労なのか、
どこに当てはめるべきかも曖昧で定まらない。
うつだとか、そういう病の類かと思ったこともあるけど、
ネット診断や医師が挙げる特徴を見てもあまりしっくりこなくて、
多分僕はこれとは違うんだろうと思った。
ただ僕は早くそれに名前をつけたくて、
フレームの中に収めて捉えたかった。
それの得体を少しでも理解できれば、楽になれる近道を探せるんじゃないかと思ったから。
そういう1日がいつから僕のところを訪ねるようになったのか、あまりはっきりとは覚えていないけど、だいたいは去年の春すぎからだと思う。
周期のようなものはないから、身構えるも何もなくて、
ただそれがやってきたとわかったら、大人しく終わるのを待つだけだ。
今ではこういう自分になる前の僕がどんなだったかまるで思い出せない。
それのことをちゃんとわかって、
いつか一番遠いところまで逃げたい。
今はそう思っている。