這い寄るドラゴン【原案版】デザイナーノート
ボードゲーム「異世界ギルドマスターズ」(いせギル)のオリジナル拡張製作企画に参加すべく2022年9月に製作した自作拡張「這い寄るドラゴン」。
「這い寄るドラゴン」は、2024年春ゲムマ合わせのいせギル拡張第3弾「冒険者の祝祭」に、六角えんぴつさんによるルール調整のうえで収録されました。
今回はデザイナーノートとして、這い寄るドラゴン製作時にどのようなことを考えていたかを紹介したいと思います。
①いせギルにFOE(徘徊モンスター)を出そう!
2022年9月、いせギル界隈に激震走る。作者の蜂月さんからオリジナル拡張セットの募集企画が発表されたのです。
熱心なファンが多い本作。たちまち興味の声が多くあがりました。私もそんな中の一人だったわけです。そして思いついたのがNintendo DS等で展開されていたダンジョンRPG「世界樹の迷宮」のFOEのいせギルへの導入。
FOEとは大雑把に言えば、プレイヤー同様にダンジョンマップ上を移動する強敵(参考:ピクシブ百科事典、ニコニコ大百科、アニオタwiki(仮))。この移動パターンを読み切ってかわして奥に進んだり、充分強くなったら敢えて立ち向かってレアなドロップアイテムをゲットしたり……といった要素をいせギルに取り入れたら面白いんじゃないかなー、と。
②「仕方なく自動妨害」/カタンはやっぱり名作だなあ
で、最初に思い付いたのは「迷宮マップ上に強いモンスターがいて邪魔」「専用アクションでこのモンスターを動かせるようにしよう」というものでした。相手の邪魔をしたり、逆に邪魔なモンスターをどけるときにこの専用アクションを使うと。
しかしここで思います。この専用アクション、わざわざ使うか?
やれることは相手にマイナスを押し付ける妨害か、自分のマイナスを復旧するだけ。なんかぱっと見で魅力がないし、そのアクション打つぐらいならゲーム的にも自分の利得を追求したほうが良さそう。特にいせギルはアッパー展開なゲームなので利得追及が強いし。
うーん、ほなダメかあ……というところで思い浮かんだのが名作「カタン」の盗賊のメカニズムなのです。
ボードゲーマーなら多くの人がご存じと思いますが、基本的にカタンの盗賊は意図的に使おうと思って使えるものではありません。7の出目を出してしまった人が「本人にその気はなくても、使わなきゃいけない」妨害です。これは使えるな、と。(まあ意図せぬ妨害がギスりの原因になることもありますが)
いせギルにはカタンのような毎手番のダイスロールはないのですが、「いせギルのプレイで普段やるようなことが妨害を誘発すればいいよね。それでカタンの盗賊の自動起動みたいな感じになる!」という方向で考えることになります。
③フレーバー合わせ/ドラゴンへの道
ではどんなアクションを妨害(というか「マップ上の強敵の移動」)のトリガーにするか。ここで思い出したのはボードゲーム「クランク!」。
クランクは、ダンジョン冒険もののボードゲーム。物音を立てるような行動をしすぎると、眠っていたドラゴンが目覚め襲い掛かってくる……というもの。この「物音に反応するドラゴン」が、「プレイヤーの行動に反応して行動する強敵」にピッタリだなあと。
これにより、いせギルでのダンジョン内での行動(探索など)の物音に反応し、それに近づくように動く……という基本アイディアがほぼ固まります。ついでにクランクに引っ張られて「強敵」がドラゴンのイメージに。
そしてドラゴンといえば宝物をため込んでいるのがお約束。自分の脳裏に浮かんだのはカプコン版ダンジョンズ&ドラゴンズのレッドドラゴンとかですね(別に倒す必要はなく避けて進めるが、倒しに行くとお宝ががっぽりもらえる)。
ドラゴンを倒すとお宝がもらえる、というのは当初の世界樹の迷宮のFOEのイメージとも合ってるので良さそうです。それにいせギルは超アッパーなゲーム。ドラゴンをどんなに強く設定してもそのうちインフレしたPLに倒されるのは明らか。であれば、打倒時にいい感じの報酬貰えるのがいいよねえと。
するともともと、異世界ギルドマスターズにはちょうど「トレジャー」という報酬がある訳です。(それがもらえるタイルがレアなので)あまり使われてなかった要素であるこれを報酬にして日を当てるのもいいかな、と。
④作って試して魅力をまとめて
これでルールの大枠が決まりました。
迷宮マップ上を強敵(ドラゴン)が徘徊している
ドラゴンは迷宮でのPLの行動に反応して近づいてくる
ドラゴンを倒すと、報酬としてトレジャーなどがもらえる
なお、蜂月さんのオリジナル拡張募集の発表からこれぐらいまとまるまで15時間ちょい。……早すぎるでしょどうなってんの当時の私……。
で、ルールの細部を詰めて、発想から3日後に1人n役でテストプレイしてみるわけです(はえーよ)。おお……ちゃんと思惑通り動くぞ。っていうか思った以上にドラゴンがアクティブに動いて序盤からダンジョン探索がわちゃる!インタラクション!
このプレイして得た面白さは「いせギルにFOE入れた」だけでは伝わらないと思い、紹介マンガ(?)を作ってみたりしました。作ってる自分は楽しかったけど、ルールを知る助けとかにはなってたのだろうか……。これが蜂月さんの企画募集から10日後。
そしてその勢いのままに細部を詰め続けたりルールブック(というかサマリー)を作成したりして、募集企画開始から24日後にはnoteで公開したのでした。
おまけ① β版構想について
この時点でのルールはα版ということで、ルールなどを付け加えてβ版にすることを考えていました。以下のような感じ。
ドラゴンの移動距離のランダム化(例えば探索したタイルの☆数で移動距離が変わるなど。ドラゴンの移動がコントロールできすぎるのでもっとハラハラしたい、との感想を受けて)
盤面上のドラゴンに関連したイベントカードの追加
ただ、これらは何となく構想はあったものの実現しませんでした。自分自身、「ドラゴンのタイル1枚付け加えるだけでけっこうな味変になる」この拡張のシンプルさが気に入ってた……というのもあるかもしれません。
おまけ② 「冒険者たちの祝祭」収録版での変化
「這い寄るドラゴン」は、うれしいことに六角えんぴつさんによる調整を経ていせギルの第三弾拡張「冒険者たちの祝祭」に収録されました。せっかくなので、調整で変更された部分とそれについての所感を。
ドラゴン移動のトリガー
原案版では「迷宮マップ上のタイルの状態を変えるアクション」すべてがトリガーになっていた → 収録版では「探索」「タイル公開」のみが対象に。
判定がシンプルになりました。原案版だとタイル入れ替えや受付嬢能力を中心に例外的な処理が多かったですからねえ。プレイしやすくなったと思います。
プレイヤーの支配エリアへの侵入
原案版ではドラゴンはプレイヤーの支配エリアに侵入することがあり、探索などに制限を受けることがありました。収録版ではドラゴンはプレイヤーの支配エリアに移動できなくなっています。
個人的にはドラゴンの脅威を表現できたり拠点化に意味を追加したりで好きなルールですが、判定がややこしいし、制限を受けるってのはネガティブなプレイヤー体験ですからねえ。なくなるのも納得です。
ドラゴンのリスポーン
原案版では1回倒されたら終わりだったドラゴンが、収録版では2回までリスポーン(復活)するようになりました。原案版では序盤にあっさり倒されてそれっきり、なんてこともあったので良い調整だと思います。
ドラゴン討伐のアクション
原案版では「探索」アクションでドラゴンの下の迷宮タイルごと探索してしまえていました。収録版では新たに「ドラゴンの討伐」という共通アクションが導入され、探索とは区別されるようになりました。
これによりドラゴンを倒しても迷宮マップからどくだけで、ドラゴンのいたところは依然として探索対象となるので迷宮探索の駆け引きが苛烈になっています。また、迷宮攻略RTAや黒アヤカの一閃などの「探索」を対象としたカード効果や能力が使えないのもポイント。
おまけ③ いただいた反響・感想など
ありがたいことに、プレイした方からtwitter(X)上で感想をいただいています。こうした感想は以下のmin.tにまとめています。
感想は「迷宮探索の駆け引きややり応えが増えて面白い」「ドラゴンの動きがそれっぽい」といった方向で好評のものが多いように思います。マジでありがたい……!
自分でプレイしてもちゃんと楽しいのもうれしい。
ネガティブな感想としては「ルールが重く、プレイに時間がかかるようになる」というようなものがありました。自分では本作、ルールはそんなに重くないと思うのですよね(トリガーによるドラゴンの移動、ドラゴンの討伐の2つが追加されるだけ)。ただ、ドラゴンによって迷宮マップでの駆け引きや情報量が増えるので手番での判断に時間がかかったり、単純に迷宮の探索難度が上がったりで、確かにプレイに時間がかかるようにはなりますね。そこは良し悪しなので、好みに応じて導入を判断いただけたらと思います。
と、いうわけでみんなに楽しんでもらってうれしい「這い寄るドラゴン」は、こういう思考過程を経て生まれたよ、というお話でした。