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図工・美術をもっとおもしろくする「無駄」から生まれる発想法03

目まぐるしく変化する世の中では効率が重視され、 じっくり時間をかけて考え、試行錯誤するプロセスは「無駄」と思われがちかもしれません。このような時代において、図画工作や美術の学びはどうあるべきなのでしょうか。 YouTubeチャンネル「無駄づくり」で注目を集める藤原麻里菜さんの発想法についてのお話をベースとして、小学校で教える山内佑輔先生、中学校で教える小西悟士先生にはそれぞれの実践例を交えながら、考えの深め方や学びのきっかけ作りなどについて語り合っていただきました。第3回目です。

以前の記事はこちらからご覧ください。
「図工・美術をもっとおもしろくする「無駄」から生まれる発想法_01」

「図工・美術をもっとおもしろくする「無駄」から生まれる発想法_02」


Q3  造形活動が「作って終わり」に ならないようにするには?


言語化することで 作品への理解が深まる

藤原麻里菜さん(以下、藤原):私は「無駄づくり」を楽しむためにルールを決めていて、「役に立つものも役に立たないものも何でも作っていい」「とりあえず手を動かす」「自分の技術のなさを楽しみながら作る」といったことのほかに、「作ったものに『役割』を加えてみる」ということもルールにしてい ます。めちゃくちゃなものを作ってもいいのですが、それに何かしらの役割を与えることで 「無駄づくり」はさらにおもしろくなります。めちゃくちゃなものを作って「オブジェです」と言うのは、誰にでもできますよね。でも、そこで「こういう役割があるオブジェです」と言葉にしてみると、自分の思考やアウトプットしたものについてより深く理解できるようになるんです。

小西悟士先生(以下、小西):言語化は大切ですよね。僕の造形実験の授業でも、最後に行う鑑賞会では一人造形活動が「作って終わり」にならないようにするには、1人ずつ自分の考えをまとめて発表してもらうことにしています。

山内佑輔先生(以下、山内):遊ぶようにものづくりを楽しむなかで、 自分の考えを言語化する経験ができるといいですよね。おもしろいものができたら、それを伝えたいから言語化したいと思うようになるはずですし。

藤原:私の場合は、なぜそれを作ったのかを自分自身で理解したいという気持ちもありますね。アウトプットしたものの「この瞬間がおもしろいんだ」ということがわかれば、自分の作ったものをもっと好きになれます。

山内:小学生は、特に低学年だと「好きだから」「楽しいから」というのがものづくりの動機であることがほとんどです。その年齢の子どもたちに「なぜ?」という問いを突き付けるのは厳しいかもしれません。小学校の図工は「作っ て楽しむ」という色合いが強いので、中学に進んで授業のねらいに沿ったアウトプットを求 められるようになると、「美術の授業はつまらない」と感じる子も多いようです。

小西:そのギャップはあるかもしれないです ね。図工のときはみんなでワイワイ話しながらものづくりができたのに、美術になると授業中は喋っちゃいけないような雰囲気があったりして。自分が感じたことを言語化しようにも、そのきっかけをなかなかつかめないというか。

藤原:それはもったいないですね。言語化することで課題解決の方法が見えてくることは多いですから。例えば、私の「オンライン飲み会 緊急脱出マシーン」は、日常生活の中で感じる「オンライン飲み会からなかなか抜けられなくて困る」というストレスを言語化したことがきっかけで思い付いたマシーンです。自分がなんとなく感じている小さなストレスを言葉にしてみたことで、「ボタン一つでそれとなく退出 できるマシーンがあったらいいのに」と課題解決のためのアイデアが生まれました。 

デジタルツールを使えば 制作プロセスも共有できる

藤原:でも、ものづくりにおいては課題解決だけが正解ではなくて、「開き直る」のも一つの方法だと思います。例えば、マンションの隣の部屋に住んでいる人が入浴中に熱唱する声がうるさいとき、一般的に正解とされる対応は 管理会社に連絡するということだと思いますが、開き直るのであれば、その人が歌い出した ら歌声採点アプリを使って「今日は何点だ」と楽しむという発想もありだと思うんです。自分が心地よいと思える着地点を探すことができれば、それでいいのかなと。

山内:学校では探究型や社会課題解決型の 取り組みが増えてきていますが、課題解決に向けて大人がいろいろな条件を整えすぎてしまうと、子どもたちが考える楽しみがなくなってしまうように思います。「課題は解決できな いかもしれないけれど、こうしたら楽しそう」という開き直りも必要かもしれませんね。

藤原:子どもって、結構まじめに先生の期待に応えようとしますからね。 小西:僕は美大出身なのですが、セーターを脱ぐときにモーターで巻き上げるマシーンを作るなど、学生時代はそれこそ無駄なことしかしていませんでした。でも、そういう経験があるから、「これがダメなら、あれをやってみようか な」と考えて行動できるようになり、生きる力が身についたように思います。

山内:僕は政治経済学部出身で、学生時代にはそういう経験をしてこなかったので、ものづくりに必要な自由な発想は授業をするなかで子どもたちから教えてもらっていますね。

小西:子どもたちは大人が思いつかないような発想をしますからね。僕は生徒たちがアウトプットする「モノ」よりも、考える「プロセス」を見たいと思っています。ただ、造形実験は美術室だけでなく、廊下や校庭など生徒たちそれぞれが選んだ場所で取り組むため、プロセスの見取りをどうするかが課題でした。でも、今はタブレットで写真や動画を撮ったものを送ってもらえば、僕はその場に立ち会っていなかったとしても、それぞれの生徒の学習状況の見取りができますし、それぞれの造形実験を「作品」として残すこともできます。こうしたデジタルツールの活用は、生徒たち自身の振り返りにも、教師の見取りにも有効だと感じています。

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Q3  造形活動が「作って終わり」に ならないようにするには?

A:(藤原)作ったものに「役割」を加えると、「無駄づくり」はさらにおもしろくなります。

A:(山内)ものづくりを楽しむなかで、自分の考えを言語化する経験を。

A:(小西)デジタルツールは、生徒自身の振り返りにも教師の見取りにも有効。

-----図工・美術をもっとおもしろくする「無駄」から生まれる発想法 04へつづく。


藤原麻里菜さん
1993年生まれ。
頭の中に浮かんだ不必要な物を何とか作り上げる「無駄づくり」を主な活動とし、YouTubeを中心にコ ンテンツを広げている。2016年、Google社主催の「YouTube NextUpに入賞。2018年、国外での初個展「無用發明展 ―無中生有的沒有用部屋in台北」を開催、25,000人以上の来場者を記録した。「総務省 異能vation 破壊的な挑戦者 部門2019年度」採択。著書に『考える術』(ダイヤモンド社)、『無駄なことを続けるために』(ヨシモトブックス)、『無駄な マシーンを発明しよう!~独創性を育むはじめてのエンジニアリング~』(技術評論社)

藤原麻里菜 「無駄づくり」

山内佑輔先生
新渡戸文化学園 プロジェクトデザイナー・ VIVISTOP NITOBEチーフクルー 大学職員として数々のイベント等の企画を手がけたのち、 2014年に公立小学校の図工専科の教員に。ワークショップの手法を用いて、子どもたちのクリエイティビティを育む環境をつくり出し、実社会と学びをつなぐ授業を実践。 2020年4月から新渡戸文化学園へ移り、VIVITA JAPAN 株式会社と連携し、「教室や教科、学年などの枠をなくし、 教師も生徒も共につくり、共に学ぶ」ことができる場として VIVISTOP NITOBEを開設。新しい学びのあり方を模索しながら、授業や放課後の子どもたちの活動の拡張に取り組んでいる。SOZO.Ed副代表。

山内佑輔 「考現学研究中」

小西悟士先生
埼玉大学教育学部附属中学校
武蔵野美術大学 造形学部 空間演出デザイン学科 ファッションデザインコース卒業。同研究室の教務補助、 助手を経て、アパレル会社に勤務。さいたま市の公立中学校で美術教諭を務めたのち、現職。「地域に開かれた 美術教育」をコンセプトに、授業で制作した生徒作品を 地域のコーヒーショップで展示する取り組みを2011年より継続中。描くことやものづくりが苦手な生徒でも夢中になって取り組める授業のデザインに取り組む。全国の小・中学校などの実践を紹介する「図工・美術の授業 展」の開催にも携わっている。

取材・文:安永美穂 撮影:大崎えりや(一部)
※この記事は、『BSSカタログ2022』の巻頭特集インタビューを一部加筆・修正・画像追加しています。



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