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図工・美術をもっとおもしろくする「無駄」から生まれる発想法01

目まぐるしく変化する世の中では効率が重視され、 じっくり時間をかけて考え、試行錯誤するプロセスは「無駄」と思われがちかもしれません。このような時代において、図画工作や美術の学びはどうあるべきなのでしょうか。 YouTubeチャンネル「無駄づくり」で注目を集める藤原麻里菜さんの発想法についてのお話をベースとして、小学校で教える山内佑輔先生、中学校で教える小西悟士先生にはそれぞれの実践例を交えながら、考えの深め方や学びのきっかけ作りなどについて語り合っていただきました。全4回の記事です。

Q1 「無駄」なことの価値って何だと思いますか?

「無駄づくり」なら 失敗したって大丈夫

藤原麻里菜さん(以下、藤原):2013年から YouTubeで「無駄づくり」の公開を始めて、 200個以上の無駄なものを作ってきました。私は子どもの頃からものづくりが好きだったのですが、大人になるにつれて「意味のあるもの を作らなければ」と感じるようになり、ものづくりを楽しめなくなってしまったんです。でも、ある日ふと「『無駄づくり』って名前で無駄なものを作ってみよう」と思い立ったら、それまで「失敗しちゃうかも」と思って作れずにいたものも、「無駄づくり」なら包み込んでくれることに気づいて。それ以来、いろいろな「無駄」を作っては発信や展示をしています。

山内佑輔先生(以下、山内):例えばどんな「無駄づくり」をされてきたんですか?

藤原:最初にYouTubeにアップしたのは、「お醤油を取る無駄装置」で、簡単なからくり装置を作って醤油差しを取るというものでした。 「無駄づくり」をしていくなかで、Arduino(アル ドゥイーノ:マイコンが搭載された基板の一 種)を使ったプログラミングも始め、3Dプリンターなどを使ったデジタルファブリケーション (コンピュータと接続されたデジタル工作機械を用いたものづくりの技術)も身につけていった感じですね。

「無駄」と言われがちな教科だからこそできること

小西悟士先生(以下、小西):藤原さんは「無駄」なことの価値って何だと思いますか?

藤原:今の社会では目先の利益や生産性が優先され、町の中から空き地がなくなるように、 無駄はどんどん排除されていってしまいます。でも、人類の歴史をさかのぼってみると、ホモ・サピエンスが小麦の栽培技術を手に入れて余剰食糧を作れるようになり、食べていくことには直結しない「無駄」なことに取り組む人が出てきたからこそ、哲学や芸術、建築などが発展したという見方もできます。意味のないものを意味のないままに存在させる、無駄なものを無駄なままにしておく。それは新しい発想を生むうえで、実は大切なことなのだと思います。

山内:僕らの日常でも、無駄な時間というのは豊かな時間ですよね。コロナ禍でいろいろな制約が生じたことで、ちょっとした無駄話をしたり、飲み会でくだらない世間話をしたりといった、そういった時間の豊かさに改めて気 づかされました。

小西:学校でも、無駄話ができる“柔らかい”場所が必要です。中学校であれば、それが美術室。僕は学校にあるものとは違う、デザイン性の高い椅子を美術室前の廊下に何脚か置いています。これも無駄と言われてしまいそうだけど、それらを目にすることで、生徒たちが何かを感じてくれるかもしれない。そもそも、美術は高校の入試科目にはないという理由で「無駄だよね」と言われがちで、僕はそう言われるとかえって「もっとできることがあるはず」 と燃えてくるんですよね。

山内:その気持ちはわかります。図工や美術って、子どもたちにとってすごく大事な学びだから。僕は5年生の最初の授業で「なんで図工って必要なの?」というプレゼンをしています。答えのない問いに対して、一生懸命考えて、悩んで、一番いい方法を探す・つくる・やることができるのが図工。目を向けたいのは「何ができたか」よりも「クリエイティブな過ごし方ができたか」であって、これは藤原さんの「無駄づくり」にも通じるところがあるように思います。ただ、他の先生方や保護者の方からは「遊んでいるだけでは?」と言われてしまうこともあるので、ものづくりを楽しむことにどう価値をつけていくか、その価値をいかにして周囲に感じ取ってもらえるようにするかという視点も大切ですね。

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Q1 「無駄」なことの価値って何だと思いますか?

A :(藤原)無駄なものを無駄なままにしておく。それは新しい発想を生むうえで大切なことです。

A:(山内)無駄な時間は豊かな時間。コロナ禍で改めて気付かされました。

A:(小西)学校にも無駄話ができる”やわらかい”場所が必要。中学校なら、それが美術室だと思う。

-----図工・美術をもっとおもしろくする「無駄」から生まれる発想法 02へつづく。

藤原麻里菜さん
1993年生まれ。
頭の中に浮かんだ不必要な物を何とか作り上げる「無駄づくり」を主な活動とし、YouTubeを中心にコ ンテンツを広げている。2016年、Google社主催の「YouTube NextUpに入賞。2018年、国外での初個展「無用發明展 ―無中生有的沒有用部屋in台北」を開催、25,000人以上の来場者を記録した。「総務省 異能vation 破壊的な挑戦者 部門2019年度」採択。著書に『考える術』(ダイヤモンド社)、『無駄なことを続けるために』(ヨシモトブックス)、『無駄なマシーンを発明しよう!~独創性を育むはじめてのエンジニアリング~』(技術評論社)

藤原麻里奈「無駄づくり」

山内佑輔先生
新渡戸文化学園 プロジェクトデザイナー・ VIVISTOP NITOBEチーフクルー 大学職員として数々のイベント等の企画を手がけたのち、 2014年に公立小学校の図工専科の教員に。ワークショップの手法を用いて、子どもたちのクリエイティビティを育む環境をつくり出し、実社会と学びをつなぐ授業を実践。 2020年4月から新渡戸文化学園へ移り、VIVITA JAPAN 株式会社と連携し、「教室や教科、学年などの枠をなくし、 教師も生徒も共につくり、共に学ぶ」ことができる場として VIVISTOP NITOBEを開設。新しい学びのあり方を模索しながら、授業や放課後の子どもたちの活動の拡張に取り組んでいる。SOZO.Ed副代表。

山内佑輔 | 考現学研究中

小西悟士先生
埼玉大学教育学部附属中学校
武蔵野美術大学 造形学部 空間演出デザイン学科 ファッションデザインコース卒業。同研究室の教務補助、 助手を経て、アパレル会社に勤務。さいたま市の公立中学校で美術教諭を務めたのち、現職。「地域に開かれた 美術教育」をコンセプトに、授業で制作した生徒作品を 地域のコーヒーショップで展示する取り組みを2011年より継続中。描くことやものづくりが苦手な生徒でも夢中になって取り組める授業のデザインに取り組む。全国の小・中学校などの実践を紹介する「図工・美術の授業 展」の開催にも携わっている。

取材・文:安永美穂 撮影:大崎えりや
※この記事は、『BSSカタログ2022』の巻頭特集インタビューを一部加筆・修正しています。

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