【第12話】網膜剥離闘病記 ~網膜剥離になりやすい人の特徴。手術は滅茶苦茶痛い!?~
手術では治りきらず、さらに地獄の処置が。
「レーザー撃っていきましょうか」
1月30日。退院後最初の検査のため病院へ向かった。眼圧の測定や視力検査、眼球の画像撮影等、一連の検査をした後、S先生の診察となる。撮影した眼球の画像やスリットランプで網膜の状態を診て、S先生は少し苦い顔をした後またいつもの表情に戻り、「今日レーザー撃っていきましょうか」と、さっきの少し苦い表情とは全く逆の、美容師が「今日はトリートメントもしていきましょうか」と言うくらいのテンションで僕に告げた。理由を聞くと、まだ網膜と脈絡膜の間に液体があり、完全にくっついていない状態とのことだった。僕は手術翌朝の検査で医師に言われた、「まだ少しお水残ってますねー」を思い出し、このことを言っていたのかと理解した。確かに、まだ右目の視野欠損は続いていた。
レーザーというのは、レーザー光凝固術という処置で、網膜にレーザーを照射して網膜の裂孔部分の周りを焼き固め、それ以上裂孔が進まないようにする処置のことを言う。処置室に案内され、スリットランプの親戚のような形状のレーザー照射の器具に顎を乗せる。室内を暗くし、目に点眼麻酔をして、レンズを直接眼球に押し当て、S先生はさらに違う双眼鏡のようなレンズ越しにレーザーを照射してゆく。前にも書いたが、この眼球に直接レンズを押し当てるという行為が、麻酔が効いていて痛みはないとはいえかなりのストレスを感じる。レーザー照射はというと、最初の内は痛みはさほど気にならなかったが、照射を続けるうちに痛いと感じる箇所がある。一旦目からレンズを離し、レンズに潤滑用(おそらく)の液体を追加して更に照射が続く。S先生からは思い通りに照射できていないのだろうなという雰囲気が伝わってくる。照射するレーザーの強さを調整するタッチパネルの(レベルを上げる為の)"上ボタン”を連打し、次に照射した瞬間に痛みは激痛に変わった。S先生にそれを伝えると、「もう少しなのでちょっと頑張ってくださいねー」と手術時よりは少し申し訳なさそうに言ったが、それでも僕の感じている痛みと釣り合いが取れいていないレベルの棒読みだった。この痛みは、レーザー脱毛をしたことがある人は、その痛みを目で味わってくださいと言われているようなものだと思ってほしい。勿論麻酔はしているが、点眼麻酔では補えない痛みがある。
数えてはいなかったが100発以上はレーザーを撃たれ、それでも網膜の剥離がまだ残っているせいかあまり思ったような処置はできなかったようで、次回の検査までに改善が見られない場合は眼球内に無害のガスを入れる再手術をすることとなった。S先生としても、眼球内に針を刺す手術は確率は低いが感染症などのリスクがあるためなるべくしたくないと言っていた。
眼球内にガスを入れる!?
2月2日、予約時間に病院に行き、前回と同じくまず看護師もしくは看護助士による視力、眼圧、画像撮影等の検査の後、S先生の待つ診察室に呼ばれる。
診察室に入るとすぐにS先生は「今日ガスを入れましょう」と僕に告げた。ガスを入れる目的としては、僕が受けた強膜バックリングという手術以外の網膜剥離の手術として、硝子体手術という手術があり、それは硝子体の部分に無毒の気体(ガス)を入れ、剥がれている網膜を内側からガスの浮力で押し上げて剥離を解消させる術式だ。外側からアプローチする強膜バックリングに対して、内側からアプローチするのが硝子体手術だ。今回の僕の状態としては、外側からの処置はしたが、まだ剥離部分に液体が入り込んで剥離が解消されないため、今度は内側からはがれた網膜を脈絡膜に貼り付けようというわけだ。硝子体手術ほど大がかりではないが、眼内にガスを入れる手術を受けることになった。
待合スペースでしばらく待った後、看護師に呼ばれて診察室の裏手にある処置室に入ると、そこには手術室にあるリクライニング式の手術台がおかれていて、手術室よりはスペース的にも設備的にも簡素だが、処置室というには充実しすぎている、街の眼科の手術室くらいの設備はある処置室になっていた。手術台に座らされ、看護師が点眼麻酔をする。時間を空けて再度点眼麻酔をして、それが効いてきた頃にS先生がやってきて、看護師がぶっかけるポビドンヨードで僕の眼球を指でぐりぐりと洗ってゆく。ポビドンヨードで眼球を洗われると、ちゃんとした手術感が出てきて緊張した。
ガスを入れた瞬間、目の前が真っ暗に!
前回の手術の時と同じく、左目は顔にかけられた緑色の布で見えなくなっているが、手術を受ける右目は見えている状態だ。S先生は「それでは、ガスを入れていきますね」と言って注射針を僕の右目に近づける。さらにS先生は「もし目の前が真っ暗になったら言ってください」と僕に告げたが、これはどういうことなのだろう。真っ暗になったら失敗して失明ですよってことなのだろうかと、急に恐怖が押し寄せた。
注射針が僕の眼球に刺さる。注射器のプランジャーを押してガスが注入される。上を向いて寝ている僕の視界が外側から暗くなってゆき、次の瞬間に目の前が真っ暗になった。目を開けているのに暗闇にいるような視界だ。“さっきS先生が言っていたヤツだ!失明した!”と思い、焦り散らしてS先生に「先生!真っ暗になりました!何も見えないです!」と半泣きで絶望感満載に伝えると、S先生は半笑いの声で「あー、わかりました。」と、おそらくプランジャーを操作してガスを少しずつ抜いていく。すると次第に視界が明るくなり、見えるようになった。結局これはガスを入れすぎると見えなくなってしまうが、少なすぎると網膜を持ち上げる効果が弱くなるため、ちょうどいい量のガスを入れるために調整しただけのことだったのだが、事前に詳しい説明を受けていなかったため焦ったのは僕だけで、横にいた看護師も僕の焦りっぷりに少し笑っていた。
ガスを入れ終わると、そこからはそのガスの浮力で剥離している網膜の患部を持ち上げるため、しばらく下向きで過ごすことを余儀なくされる。ひとまず術後30分下向きの状態を保つように指示され、僕は処置室の外の長椅子で灰になったあしたのジョーのような態勢で30分過ごした。その後の診察で、翌日に再度レーザーを照射する旨と、家でもなるべく下を向いて過ごすこと、そして寝る際は左を下にして寝るようにと指示された。これは網膜の剥離部分が右目の右側奥なので、右側を上にしてガスの浮力で患部を押し上げる狙いがある。