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【NYY】”Yankee University”のフィロソフィー【Short】

2020年、世界的パンデミックの発生によってマイナーリーグの試合がすべてキャンセルに。当時のヤンキース傘下でいえば、鳴り物入りで入団したJasson Dominguezのデビューが先延ばしとなったことで非常に残念であったことを覚えています。
しかし翌2021年、Anthony VolpeやEverson Pereira、Ezequiel Duranといったそれまでトッププロスペクトと見なされていなかった若手の台頭によって、明るい1年を過ごすことができたのはうれしい誤算でありましたよね。

ただその年、躍進を果たしたのは野手陣だけではありませんでした。19年ドラフトにて5巡目指名を受けた左腕Ken Waldichuk、6巡目指名を受けた右腕Hayden Wesneskiが、新たに習得したスイーパーなどを武器に、一挙2Aまで駆け上ったのです。この年にValueを高めた2名は、共に2022年の夏にWS制覇を目論んでALL-IN体制となったチームのコアアセットとして放出されることとなりました。

また、21年ドラフトにて2巡目指名を受けたBeck Wayも、ドラフト時はファストボールの平均が93mph程度の小柄な投手であったにも関わらず、22年春には最速101mphにまで到達。課題の制球力も、投球時のルーティンを確立したことで一定の精度を手に入れることができ、こちらも同年のBenintendi獲得時にアセットとしての役割を果たしました。

WaldichukやWesneskiらが去ったことで、ピッチングプロスペクトが激減したヤンキースでしたが、彗星の如く№1の座をかすめ取った選手がいましたよね。21年の8巡目指名で入団したWill Warrenです。Warrenは入団後にシンカーを習得し、それまで持ち玉であったスライダーをスイーパーに変更。2024年現在においては開幕ロスターを争うバックエンドスターターにまで上り詰めています。

そして2023年、前年のドラフト2巡目であったDrew Thorpe以上にインパクトを残したのがドラフト6巡目にて獲得したChase Hamptonでした。Hamptonもヤンキース入団直後にスイーパーとカットボールを習得。メカニクスも修正したことで、MiLB屈指のIVBを有するフォーシームを手に入れることに成功しました。

すでに昨年ドラフトされた投手の名前も挙がってきています。14巡目で指名したDanny Flatt Jr.も加入後にメカニクスを修正。Max95mphの直球と3,000rpmを超えるカーブ&スライダーを手にして、今季デビューを飾る予定。
また、先日のスプリングトレーニングにおいてはPhillies戦で登板した20順目指名のBryce Warreckerが投じたスイーパーが話題に。最大で24インチ(約60cm)も真横にBreakする驚異の球種を披露しました。

今ほど挙げたのはヤンキースで起こっているムーブメントの一部に過ぎませんが、毎年のように先発投手プロスペクトが養生されている状況には非常に興味が沸きますよね。

そんなヤンキースの転機になったと思われるのが、2019年に登用したある人物の存在です。
勘のいいヤンキースファンであれば察するかと思いますが、2019年は先発投手のパフォーマンスが一因となってアストロズにALCS敗北。そこで当時インディアンスのアシスタントコーチであったMatt Blakeを投手コーチとして採用しています。かつてはCressey Sports Performanceなどで実績を積んだ、最先端の知識を有する人物であることは今も変わりません。
ただ、Blakeの採用時期とNYY傘下の投手が覚醒を遂げた時期は重なるものの、結局のところ彼はMLBチームに帯同する投手コーチであり、プロスペクト、それもデビューすらしていないピッチャーへの指導という点ではいささか整合性がとれません。そう、Blakeとは別にこの状況を作り上げた人物がいるのです。

それが2019年6月にピッチングディレクターとして採用したSam Briendになります。今となっては日本においても著名となったDriveline Baseballにてコーチング職に就いていたものの、球速に進行するアナリティクス・トラッキング重視の野球を取り入れるためにヤンキースが招聘を講じていました。

彼の登用から4年以上の月日が流れたわけですが、彼を中心としたフロリダ州・タンパの投手育成チームが残した実績は上述のとおり。
Briendらは「スイーパー・シンカー・カットボールなどの新球種獲得」「ファストボールの球速上昇」の指導を得意としており、基本的にドラフトを受けたピッチャーたちはFCLに登場せず、Briendらの指導を受けたのち、翌年の春からマイナーリーグでデビューしています。

このように書くと、まさに「投手工場」との見方ができますが、Briend本人は「“We joke about it and call it ‘Yankee University.”(私たちは冗談でヤンキー大学と呼んでいます)」と、学校になぞらえています。
これにはBriendの信念も寄与するところがあり、「こういう型にはめて指導する」といったものではなく、「投手一人一人の特性にフィットする指導」を心がけているとのこと。

“Maximizing pitch shapes — that might be our biggest separator and doing what is best for that individual,” Briend said from his home in Tampa. “Instead of like, ‘OK, we’re a four-seam fastball org — you see that a lot — or like the Mariners are a two-seam org. Everybody kind of falls into these buckets. “But it’s: How do you move? How does it come out of your hand? Let’s shape everything around what you’re naturally doing well and then go.”(原文)

「投球の形を最大限に活用すること、個々の選手に合わせた最適な方法をとることが私たちの最大の差別化要因です。」
「”ヤンキースはフォーシームの組織”だとか”マリナーズはツーシームの組織”といったバケツに誰もが陥ります。」
「どうやってボールが動くのか、 手からどのようにボールが出てくるのか、その選手が自然にうまく出来ることを中心に形にしていきます。」(筆者意訳)

Yankees’ pitching program paid dividends again in Juan Soto dealより引用

また、上記引用元の記事には
アマチュアスカウティング部門と選手育成部門が強固に連携していること
・トレードに際しても、GMのCashmanはBriendら育成部門の意見をしっかりと求めていること

という記述もされており、6位指名であったHamptonへ当たり前のようにオーバースロットを叩いた上で投球改造を実施したり、素人目には化けそうだった昨年8位指名のNicholas Judiceを数ヶ月でトレードしたりといった近々の事象も、これを踏まえれば合点のいく話ではあります。

目まぐるしく投手トレンドが変遷を遂げるMLBにあって、”Yankee University”の下支えが必要不可欠であることは誰の目にも明らか。今季のマイナーリーグにおいて、WarrenやHamptonのような新星が三度みたびヤンキースから生まれてくることを期待したいと思います。

【以下、参考資料】

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