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【恋愛】 人生で一番好きになった男に10年ぶりに再会したら、とんでもないクズになっていた話(再会編)

いざ、再会

約束の日は、すぐにやってきた。
リョウさんの予定に合わせて休日を取り、食べたい物も事前に聞いてお店を予約した。仕事終わりにやってくるリョウさんが来やすいように、私がリョウさんの職場近くまで出向いた。仕事終わりに合流できるのは21時ごろと聞いていたので、帰りの電車を気にしなくていいようにホテルまでとった。

夢見心地のようなふわふわした頭で何をするでもなく街中で時間を潰し、15時になるとすぐにホテルにチェックインした。

本当に私はこれからリョウさんに会うんだろうか。

半信半疑になりながらも、まずは清潔にしなくてはと考えシャワーを浴びた。まだ暑さの残る街を歩いた汗ばんだ顔でリョウさんと会うわけにはいかないと思ったのだ。

いつもより少しだけ念入りに化粧をし、万全の準備で待ち合わせ場所へ。

待ち合わせ場所にやってきたリョウさんは、記憶の中より小さく見えた。「あれ?こんな感じだったけ?」と思いながらもお互いに少し照れながら他愛ない挨拶を交わす。ふと、リョウさんが「全然変わってないね」と言った。そんなはずはないが、心の中で安堵する自分がいた。

10年ぶりとは思えないブランクのなさで進む会話。共通の趣味のこと、お互いに大好きなディズニーのこと。最近の出来事。何を話してもあのハスキーボイスで相槌を打ち、大きな声で笑ってくれる。

やはりこの人なのだ。私にとっての運命の人は。

そんなふうにしみじみと時間を重ねているうち、リョウさんの酒量が異常なほどに多いことが気になり始めた。飲むスピード、量、ともに尋常ではない。聞けば、休みの日は朝から飲み、仕事終わりの晩酌も欠かさないらしい。

趣味はなく友人はおらず、人に会うのが嫌で楽しみは日々のお酒だけ。しかもお酒を嗜むというよりは、ただただアルコールを摂取しているというレベルの代物が多いようだ。

そして驚いたことにいまだにガラケーユーザーだというのだ。
ネットに異常なほどにネガティブなイメージを持ち毛嫌いし、世の中の動きにあまりにも疎い。まるで自分の親世代と話しているような感覚に陥る。

情報格差。

完全に時代から取り残され、初めて会った頃と“変わって”いなかった。

違和感を感じながらも2軒目へ移動する最中、あまりの酒量に足元がおぼつかなくなったリョウさんが突然手を握ってきた。少しだけドキドキしながらも、あれ?と思った。

たまたま入ったバーは、他に客もおらず私たち二人だけ。カウンターに座ると、リョウさんがバーテンダーさんに色々話し始めた。

10年ぶりに会ったこと、全然ブランクを感じず楽しく過ごしていること。ずっと私の手を握ったまま話し続けていた。ちょっと嫌になって、さりげなく手を振り解いてもまたすぐに手を繋いでくる。

初めこそ少しドキドキとしたが、だんだんとおかしさに気づいてリョウさんの話どころではなくなった。雰囲気を感じ取ったバーテンダーさんが色々と助け舟を出してくれたが、リョウさんはお構いなしでベタベタしてくる。

これ以上長居するのは良くないなと思い、早々に退店。
こういう時は割り勘主義なのだが、リョウさんが支払ってくれた。1軒目もそうだったが、会計のスマートさとさりげなさは、リョウさんが数々の場数を踏んできていることを感じさせた。やはり大人。

「ホテルまで送って行くよ」と連呼する泥酔したリョウさんをどうにか家まで送り届けなくてはと思い、タクシーを拾うため大通りへ。ふと、ハグされた。

ええー…?と思っていると、すかさずのチュー。さらにええー…!?
とはいえ、マスクをしていたので唇の治安は守られた。ホッ…。
(なぜマスク越しにしようと思ったのか…。酔っているからなのかなんなのか)

限りなく驚いて(ひいて)いる私を、「お前、俺のこと好きやろ?」と言わんばかりのニヤけたドヤ顔で嬉しそうに見ているリョウさん。何やら自分の世界に入りドラマの主人公を語り出しそうな雰囲気のようだが、私にとってはただの迷惑なひっつき虫だった。

ちゃいます。
どんどん冷静になって行く頭で今のあなたのことは1ミリも好きやと思えません。と心の中で唱え、どうやったらこの人はおとなしく帰ってくれるんだろう。と考えた。

変に振り払うのも恥ずかしい。でもひっつき虫も恥ずかしい!
とにかくタクシーや!ちょうど止まったタクシーへリョウさんを押し込める。くっついているリョウさんを見て、多分私たちのことをラブラブのバカップルだと思ったのだろう。運転手さんがニヤけた冷ややかな目で見ている。

ちゃいます。
私はこの人の恋人じゃありません。そんな気持ちを込めて運転手さんに託した。が、運転手さんは「なんや彼女、乗らへんの?」と半笑いで一言。

ちゃいます。
私の行き先はそっちじゃありません。とにかく運転手さん、無事にリョウさんを連れて帰ってあげてください。

そんなやりとりを尻目にまたひっついてきたリョウさん。
この人は運命の人じゃなかった。そう思って今生の別れを悟った(決意した)私は、「今までありがとう、リョウさん」と長年の感謝とお別れの気持ちを込めてこの時だけ軽くハグを返した。

「また会いましょう」

そんな殺し文句を言うと、リョウさんは納得しタクシーへ乗り込んでくれた。
無事に送り出し、ようやく安堵することができた。周りの人からものすごく白い目で見られていたことは、この際忘れよう。リョウさんが帰ってくれて万事解決だ。

無事に帰れたかメールをしても返信はなく、私はどっと疲れて眠りについた。
日中のあのドキドキキラキラした気持ちはどこにもなく、リョウさんがすっかり変わってしまっていたことに傷つきながらも、無事に帰って来れたことに安堵していた。

翌朝、あまりの疲労と空腹、そして惨めさに、人生で初めて朝から松屋へ入った。あの時食べたあったかい牛丼と味噌汁の染みるような味は忘れられない。

永遠に失われたあの香り

リョウさんが変わってしまったと感じたのは、立ち居振る舞いだけではなかった。あのセクシーな香りの影も形もなくなり、代わりに生乾きのニオイがしたのだ。始めは気のせいかと思っていたが、最後のハグで確信に変わった。

ああ、私の好きだったリョウさんは本当にもういないんだな。
思い出は美しいままに。一人で勝手に納得し、寂しくなり傷ついていた。

再会から2日後、ようやくリョウさんから返信が来た。
「すごく楽しかったね😃また近々飲みに行こう😘」といった趣旨のメッセージ。なんと後半に私があれだけ発していたネガティブオーラは一ミリも通じていなかったのだ。

重たい心を奮い起こし、なんとか少しの皮肉を込めて「そうですね、また10年後にお会いしましょう」と返信して私の長い恋は終わった。

これまでの出会いに感謝

今回の経験から学んだことは2つ。
1つ目は、私が今までお付き合いしてきた男性たちは、すごく優しい人たちだったということだ。きっと、リョウさんのような振る舞いは、ある意味、男女のやり取りの中ではよくある話なのかもしれない。

だが、私はこれまでの人生でそういう男性に出会ったことがない。それはひとえに私がとても恵まれていたことの表れだろう。こういう類のことで私のことを傷つける、不快にさせる人は誰もいなかった。

今までお付き合いしてきた“元彼”たちにお礼を言いたい。優しくしてくれて、私を尊重してくれて本当にありがとう。

リョウさんの一件のおかげで“元彼”たちは、すごくまともに思えて、くだんの婚約破棄した人でさえ、とても良い人だったと思えて恋しくなってしまった。

そしてまた、このことに気づかせてくれたリョウさんもまた、私にとって大切な何かだったのだと思う。アラフォーにして人生最大の意図せぬ火遊び?だったと思おう。

2つ目は、私が変わってしまったということだ。
リョウさんが変わったと思っていたが、変わったのは私の考え方なのではないだろうか。大学生の頃の私なら、同じ状況でも違う感情を抱いたかもしれない。(そんなことないと信じたいが…)

先述したように、リョウさんは“変わって”いなかった。
私が社会に出て、いろんな経験をしてきたから合わなくなってしまっただけ。

時間の流れは残酷。ある意味変わり果て、でも何も変わっていないリョウさんと、確実に変わってしまった自分に傷つき、でもいろんな経験を携えた今の自分が少しだけ誇らしい。

リョウさんとの再会に運命を感じた私。
一連のショッキングな出来事に、私はなんてついていないんだと自分の不運を呪った。しかし今になってみれば、いわゆる運命の人ではないけれど、過去を清算するために必要な再会だったのだろうと思う。

秋になると「そんな時代もあったね」と過去の自分を苦笑いながら、長い夜に美味しいビールを飲むのだ。また一つ手放して、次はどんな出会いが待っているだろう。

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