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金木犀の町

金色の小さな星のような花が一斉に開き、あたり一帯、甘やかな匂い。
でもそれにしては早すぎやしませんか。
と思ったら、案の定。
一夜明けたら、散っていた。香りも、もう消え失せて。

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この町は、金木犀がやけに多い。越してきて初めての秋、窓をあけていると、家中に甘い香りが満ち満ちて、いったい何事かと驚いた。調べてみると、「環境省選定」の「かおり風景百選」に選ばれているのだった。「金木犀の町」として。

あの香りが苦手という人にとっては気の毒というしかないけれど。幸い、ミメオ(夫です)もわたしも金木犀が大好きで、そうと知ったときには驚き喜んで、さっそく近所を歩き回った。

古い一軒家が並ぶ住宅街、半径300m位の範囲。庭木や植え込み、垣根、小さな公園。ざっと数えてみたところ、その数、なんと200本。

ちょうど満開の頃で、もうくらくらするほどの濃密な香り。歩くうちに肌が金色に染まるのではないかと思うほど。(あまりに衝撃的で、当時連載していたWEBマガジンのコラムにもその事を書いたりした)

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毎年そうして「花散歩」をするうち、あることに気づいた。
たいてい金木犀の花が咲くのは、9月末から10月の初め。が、何年かに1度、驚くくらい早く咲くことがある。でも、なぜかその早咲きの花は、あっという間に散ってしまう。

そして散ってから1週間か2週間すると、もう一度花開く。いつのまに準備したのかと驚くほど、第一弾に負けず劣らず満開になる。きっちりと甘やかな香りを撒き散らし、秋の光の中で金色に輝く。

だからたぶん今年も。
潔く盛大に散った花たちを見下ろしながら、
蕾たちは秘かに出番を待っている。
秋本番を待っている。

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