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肥満細胞症 -Mastocytosis
注釈
肥満細胞症の種類
肥満細胞症は、皮膚肥満細胞症と全身性肥満細胞症の2種があり、肥満細胞症が皮膚以外の臓器等に蓄積する場合、難治化しやすいと判っています。
全身性肥満細胞症の診断
大基準
多病巣性で密集した肥満細胞浸潤を認める(骨髄など皮膚以外の生検標本で,15 細胞以上の 肥満細胞の集合).
◦小基準
1骨髄細胞スメア標本で肥満細胞の 25%以上が異形成を示す.あるいは,臓器生検標本で 紡錘形の肥満細胞浸潤を認める.
2骨髄など皮膚以外の病変部でKIT (コドン816)遺伝子変異を認める.
3骨髄・血液・皮膚以外の組織で肥満細胞がCD2,CD25 を発現する. 4血清トリプターゼが 20 ng/ml以上に上昇する.
診断:大基準+小基準 1 つ以上 または小基準 3 つ以上
最近では、血清トリプターゼ値が11.5 ng/mL以上の患者が半数以上で必ずしも血清トリプターゼ値が基準を満たさない場合も認められている。低血圧症状を伴うアナフィラキキシー症状を呈する場合は、血清βトリプターゼ高値になりやすい。また、皮膚疾患の伴わない肥満細胞症の診断もあります。
肥満細胞症の病態
アナフィラキシー、関節痛、消化器官、多臓器に渡る症状、精神的変調などが生じる。即時性だけではなく、遅延性の症状が生じる場合もあります。
生命を脅かすほどの血圧の急激な低下を起こす、 アナフィラキシー反応やアナフィラキシー様反応が生じる場合があります。
アナフィラキシー反応は、アレルゲンが引き金となって生じる症状と定義されています。
一方、アナフィラキシー様反応は、アレルゲンが引き金とならない症状とされています。
肥満細胞症の遺伝子変異
肥満細胞上に発現している幹細胞受容体c-kit(コドン816)の突然変異(D816V)が見られます。この結果、リン酸化によって、肥満細胞の増殖を引き起こすと考えられています。
肥満細胞症の治療法
増加した肥満細胞の数を減らせる治療は現在のところありません。人におけるマスト細胞の寿命は明らかになっていませんが、マウスの実験でのマスト細胞の寿命は数週間から数ヶ月とされています。
肥満細胞症の根治的治療は解明していません。
主な治療法は、肥満細胞が放出するヒスタミンの抑制です。
ヒスタミンH1受容体拮抗薬、H2受容体拮抗薬が、アナフィラキシー症状を抑制するために使用されます。また、抗ロイコトリエン拮抗薬も使用されることがあります。
急性アナフィラキシーが発症した場合はエピネフリンなどが使用されます。
近年、肥満細胞の研究は、目覚ましく進んでいます。ヒスタミン放出以前の脱顆粒現象を妨げる分子などが発見され、ヒスタミン放出前にマスト細胞の作用を阻害する治療薬が開発される可能性があります。
キナーゼ阻害薬
リン酸化を阻害して、肥満細胞の増殖を抑制するキナーゼ阻害薬が有効であるという論文がアメリカで提示されています。
IFN-γ(インターフェロン)治療
インターフェロンの投与により、肥満細胞の骨髄への影響が抑制される場合があります。
インターフェロンは、NK細胞を活性化することにより、癌細胞などの駆除に役立つとされています。
一方で、インターフェロン治療には、血小板減少、白血球減少、肝機能異常など、比較的重い副作用も見られています。
肥満細胞症の骨髄移植
稀な例ながら、肥満細胞症の治療の為に骨髄移植が試みられる場合があります。
肥満細胞と骨髄の関係はまだ明確にはなっていませんが、さまざまな論文で、免疫の影響が示唆されています。
肥満細胞症投薬の注意
肥満細胞症の投薬の注意事項として、肥満細胞を刺激し得る薬剤の投与を控えるように注意喚起されている。
アスピリン、NSAIDs、コデイン、モルヒネ、アヘン製剤、アルコール、チアミン、キニン、ガラミン、デカメトニウム、プロカイン、造影剤、デキストラン、ポリミキシンB、スコポラミン、D-ツボクラリンなど
皮膚・形成外科クリニック
皮疹のない肥満細胞症例
「診断に苦慮した全身性肥満細胞症の1例」より
浜松医科大学 内科学第二講座 内分泌代謝内科
診療助教 柿沢 圭亮
坂本 沙有梨1) 柿沢 圭亮1) 伊東 侑治郎2) 永田 泰之2) 高橋 義明3) 斎藤 岳児3) 吉野 篤人3) 松下 明生1) 佐々木 茂和1) 沖 隆4)5) 須田 隆文1)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/110/7/110_1467/_pdf
小児慢性特定疾患
肥満細胞症は、小児慢性特定疾患に指定されている。成人期までには多くが、自然治癒すると見られていて、小児以降は指定難病として指定されていない。一方で、小児で治癒しない例もある。また、成人で発症する成人型は難治化しやすい。
全国に数人の病…「毎月、病院に搬送」「治療費は月15万円」“全身性肥満細胞症”を患う 外村潮美さん(20歳)
名古屋大学医学部附属病院の小児科に通っています。「全身性肥満細胞症」には、根本的な治療法がありませんが、2020年に骨髄移植を受けてから骨髄内の肥満細胞は大幅に減少し、症状は軽くなりました。しかし重いアレルギー症状は今も続いています。
日本の肥満細胞症の診断数
日本の肥満細胞症の診断者数は、欧米に比べると優位に低く、未診断の罹患者が多くいる可能性があります。
日本における肥満細胞症の認知度は、欧米に比して低く、診断に至っていない者が、少なくないと考えられています。
また、近年、免疫機能は広く関連し合っていることが解ってきています。
今後、他の病気と免疫機能の繋がりなど、明らかになるところがあるかもしれません。
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