脚本家、俳優マット・デイモンを社会運動に駆り立てたビル・クリントンの一言
マット・デイモンのスピーチのポイント
俳優、ディレクター、プロデューサー、脚本家と、演劇・映画界で活躍しているマット・デイモン(Matt Damon)は、2016年にMIT(マサチューセッツ工科大学)の卒業式で講演しました。そこで自分の不完全な大学生活を回想し、MITの近くで育ったことを振り返りました。彼は1992年にハーバード大学入学、大学時代「Good Will hunting」の脚本のベースとなるエッセイを書いたのです。その後1993年に発表された映画「Geronimo An American Legend(ジェロニモ)」の主役を演じるためハーバードを中退しました。
1998年に若干27歳で「Good Will Hunting」脚本賞でアカデミー賞とゴールデングローブ賞受賞しています。ボストンでの暮らしの中で「Good Will Hunting」のワンシーンにインスピレーションを得たことやMITの学生新聞による映画の批評など、MITが彼の人生に与えた影響に関する逸話を披露しました。
デイモンは、現在、社会問題の解決に積極的に関わっています。彼自身の貧困や不公正の経験が、世界の水問題に取り組むWater.orgを共同設立する動機となったそうです。この活動のきっかけとして、ビル・クリントンから「自分が見た問題に向き合い、そこに尽力することが重要だ」とのアドバイスを受けたことを紹介しました。そして卒業生たちに「(課題に挑戦するには)実際に現場に足を運び、自分の目で見ることに代わるものはない」ことを伝えました。
講演の最後に、自分の経験を踏まえ、卒業生に「失敗を受け入れ、学び続け、技術だけではない型にはまらない解決策を模索していこう」と激励しました。そして問題を発見し、それに取り組み、世界に変化をもたらすよう呼びかけました。
Bruce’s Comments
マット・デイモンは、講演のなかで「シミュレーション仮説」の話をしました。これはOxford大学のニック・ボストロム教授によって提唱され、「広い宇宙で、非常に発達した知性が全世界をシュミレーションしている」という理論です。”「何かをすれば何かになる」という方程式が”幾重にも重なったシミュレーションの世界は、AI(人工知能)の世界に重なるところがあります。
デイモンは、この仮説を踏まえて「外に出て本当に興味のあること、重要なこと、画期的なことをしよう」と訴え、世界には、我々を必要とする何らかの「問題/課題」があって、その「問題/課題」に注力し解決する必要がある、と述べました。デイモンのスピーチから、AI時代を生き抜く上で重要なのは「今までにないこと」や、「解決されていない問題/課題に向き合っていくこと」姿勢と実行力と思いました。
現在私はシンガポールを拠点として大学教育に携わっています。今回、彼の「シミュレーション仮説」への捉え方を聞いて、「AI時代に、社会で必要とされる人間の価値は何か、今の大学教育に何が必要なのか?」を考えさせられました。7月にはシンガポールでの日本人学生の短期研修にて、Problem Based Learning(問題を特定し、その問題を解決していく過程を学ぶ)という科目も実施しました。
既知の知識や情報は、既にネット上でアクセスでき、AIなどを使って短時間に引き出すことができます。質疑応答も、生成AIが瞬時にやってくれるようになりました。こうした環境で、大学は、学生にどのような教育サービスを提供できるか?色々トライ・実行していければと思っています!