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聖書みたいな『最終神話』を書いてみた。

久しぶりに更新します。
アマチュア小説家の城谷創懐(シロタニクラフト)です!

聖書にインスパイアされた
『最終神話』
を書いたので無料で全文公開します!

 

1章 弱肉強食のファンタジア


 見上げればドラゴンが空を飛び、前を向けば後ろからドラゴンの群れが追いかけてくるファンタジーの世界がありました。

 か弱そうな男子を見つけては強い男がケンカを売って、男を血祭りにあげるバイオレンスな世界がありました。

 いずれも中生代と呼ばれた太古に、巨大なハチュウ類が二本の足で器用に歩いた時代でもある恐竜時代です。

 考え方ひとつでファンタジアな未来に見えたり、暴力が当たり前だった昭和時代に見えます。視点を変えれば現在も未来も過去もすべてがつながるのです。

 真なる世界は何ひとつ変化がなく、時が止まっていて動いていません。永遠に同じ一枚の画、たった一曲の音楽が流れています。唯一の味と香り、肌ざわりをしているのです。

 恐竜たちが「弱肉強食」のスローガンをかかげて、最強を目指し殺し合うトーナメント戦は、優勝者が決まらずに終わりました。

 かつての創造神ヒトが、隕石を降らして恐竜を滅ぼしたのです。

 見事にサバイバルを勝ち抜いた恐竜のデータを天に持ち帰った創造神ヒトは新たな動物のデータにつくりかえて新世界をイメージしました。

 自然界のおきて「弱肉強食」があの世界のルール、いわば真理でした。

 弱い者は強い者に喰われていく過激なトーナメント戦を勝ち抜いた覇者を決める、決勝戦のさなか。大空のかなたから乱入者が現れました。

 炎を噴き上げ猛進する隕石が戦場ごと一瞬にして滅ぼしたのです。

 天から降臨してきた、さらなる強者の登場により、今までの強者は弱者を経験したのち、絶滅したかのように思われましたが、隕石が大地に触れたとき、タマゴの中にいた赤ちゃんと高い空に避難した翼竜、水の底に避難した海中生物は命からがら生き延びたのでした。

 陸海空がリセットされて、新たなる世界の基盤が創られました。人類の時代です。

 恐竜のタマゴからは微生物が生まれ、翼竜は鳥や羽虫になり、海の底にいた者は魚類となりました。

 

2章 生者と死者のヒューマニア


 陸の微生物は過去をつかさどる使命。空を舞う鳥や虫は未来をつかさどる使命。海を泳ぐ魚類は現在をつかさどる使命が天から褒美として与えられました。

 死者が団結すべきあの世チームと、生きる者が団結すべきこの世チームによって最終決戦の繰り広げられるチーム戦のトーナメントの開戦。あの世とこの世には別々のルール、真理が天より告げられました。

 あの世の真理は「過去、現在、未来。これらは三位一体です。過去の果てに進めばこの世につながります」

 この世の真理は「過去、現在、未来。これらは三位一体です。未来の果てに進めばあの世につながります」

 魚類は未来を目指して翼を生やして、幾多の進化を遂げて、鳥類になりました。

 白いカラスがリーダーになり、ほ乳類を説得しましたが、頭が悪いのだか賢いのだか、ほ乳類の裏切り者が現れて、鳥類になることを拒絶したのです。

「白いカラスのハクウ様、なにゆえ、あの世に行きたがるのですか」原始人たちが口をそろえて言います。

「そなたらも翼を一度、せなに生やせばわかる。陸を駆けるよりも、空を翔けるほうが遥か遠くへゆけるものだ」

「しかしハクウ様、未来の翼を生やすことであの世に近づくことになります。あの世は死後の世界。つまり天は、未来に進みすぎると死が待っている、と遠回しに仰っているのですよ」

「始まった世界はいずれ終わるか」

 こうして反対に説得された白いカラスは全身を夜の色に染めて、いつでも夜空を超えてあの世に行ける意思を示しましたが、この世にとどまることになりました。

 原始人は石を投げて狩りをしていましたが、石をぶつけても脅かして逃がすだけにすぎませんでした。

 飢えに苦しみ絶滅の淵を渡る毎日でした。

 最後の一人が早くも決まったときでした。あの世から絶世の美女が光臨したのです。


 

3章 天使と男のユートピア


 過去を目指すあの世では温泉が流行っていました。酸性雨を浴びて毒沼につかることで身を腐らせて過去に行くための温泉でした。

 身を溶かす酸性雨は地獄のシャワーと呼ばれ、悪魔たちが見張るなか、恐竜の時代に敗れた者たちは十を数えました。

 か弱い男女や強情な男女が身を寄せあって、一、二、三と数えます。

 悲鳴と泣き声が飛び交うなか、地獄のシャワーを抜けた者は悪魔に連れられて、毒沼のプールに突き落とされました。

 冷たい、痛い、寒い。口々に文句を吐くなか一人だけ、物静かに耐え忍ぶ女がいました。

 身が腐り果てても動じません。ゾンビ化した彼女を悪魔は引き上げました。

「この者は過去の果てになるまで肉体の時を腐らせた、選ばれしあの世の覇者だ。この世で生きる権利を与えよ」

 彼女の背中に光輝く翼が生えて、空に昇っていきます。上空では空気の渦が螺旋を描き、異世界への穴が開かれるやいなや、彼女を吸い込みました。

 時空を超えた彼女がこの世に降り立ち、大地と足が触れた瞬間、天使の翼は光の粒になって消えました。

 こちらを見返す自分のやせこけた顔が、光沢のある肌に映っていることに最後の男はたじろぎました。

 引き締まった腹には筋肉が敷き詰められています。飢えに耐えきれず、男は透明な果実を二個とも喰らいました。

 あまい果汁で干からびた肉体はよみがえり、遠のく意識を取り戻すと、両胸が喰いちぎられた、この世の者ではない美しい女性が眠っていました。

 罪の意識をおぼえた男は身体中から水を絞りだしました。体液は男女を呑み込むと、白い霧に包まれて雲になり、この世に始まりの雨を、あの世に終わりの雨を降らしたのです。

 永い雨が大地に覆いかぶさり、海と陸ができました。不浄なあの世も雨が洗い流しました。

 雨を降らしたふたりは新たなる天になって、この世を一から創りあげることになりました。

 男の心は女を喰った罪悪感が占めていて、女の心は男への憎悪がつのるばかりのふたりは新たなる真理を適当に創りました。

「真理だって、どうする?」と男の心。

「真理よりも、てめぇの心理が知りてぇわ」と女の心。

「じゃ、テキトーに決めるから、あとでどうなっても知らないよ」と言い放って男の心は唸りながら考えます。

「一応訊くけどコレでいいかな」と男の心を女の心に見せました。

「知らねぇし、てか、無と有が同じ、ってヤバくね? マジ意味わかんねぇ」

 男の心がブチギレて、女の心をかき混ぜて乙女心に変えました。

「さっきから全否定しやがって。ウッセェぞ、女の心だけ複雑にしてやるからな。もう一度訊くが、この真理でいいか」

「わたしの勘だよ、なんとなく始まりも終わりもない物語が描かれる気がするのよね。うん、いいんじゃない」

「この世界は無であり有である。そして無と有は同じことである」をたったひとつの世界のルール、真理に決めました。


 

最終章 最終神話


 真理に基づいて創られた世界は、誰も理解できないほど複雑にルールが絡まり合い、陸も海も空も一体となった宇宙空間が広がっていきました。

 広がった宇宙が急激にしぼみだして、男女の心を吸い込むと、世界が点になって一瞬消えてから、大爆発を起こして、すべてが等しくエーテルエネルギーの海に変わり果てました。

 想像の無と創造の有の二面性を持つエネルギーでした。エーテルエネルギーしか、この世界の始まりと終わりを知らない最後の世界が生まれたのです。

 ふたりは第三の目、サードアイを得て、次元の扉をこじ開けると時空間を飛びました。

 風が撫でて、全身をいたわってくれました。心のすべてを包み隠さずさらけだして、雑念がゆすがれて身も心も軽くなり空間と一体になりました。

 これが自由か、の驚嘆すら出せません。自分の存在が無になるまで、我慢のタガを外して欲を満たしました。

 肉体のカタルシスは、死のお迎えが来たかのようであり、生を謳歌しているようでした。

 かつて無に生を受けたヒトという名の創造神たちは、カタルシスの美しさに魅了されました。

 他者の心を見失い、心の眼で自分ばかりを見つめるようになりました。

 いつしか個々の世界を護りはじめ、創造神ヒトは暗黒の宇宙に閉じ籠りました。世界は暗黒時代に変わり果てたのです。

 創造神ヒトは完全なる闇を恐れて、永い年月をかけて光をこしらえました。ヒトは太陽を創りました。

 永遠の夜が晴れて初めての朝がやってきます。瞬間、ヒトは色を見ました。

 最も美しい輝きを放つ、ある一色を大いにたたえました。

 神聖かつ悪魔の色でヒトは黄金を創りました。黄金を多く得て自由に好きなことで楽しむためでした。黄金に新たな生きる目的を見出だしたのです。

 最終神話 完。



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