私は嫌いなヤツを消してしまう女(後編)
ひとしきり怒りのエネルギーを発散させた後、私は虚しくなって子供のように、えーんえーん!ヒック!ヒック!としゃくりあげてメソメソした。
そうして気がついた(必ず気づきが訪れる。直後が多い)
おっちゃんは私の初恋の人にそっくりだった。
口が悪く、俺様アウトローみたいな雰囲気。
立っている時の、斜めに構えている姿勢。
私は初恋の人に好かれるどころか、冷たくされたり無視されたり、散々な思いをした。
「他の人とは楽しそうに喋るのに、どうして私には冷たいの?せっかく勇気を出して話しかけたのに、なんでわざと無視するの?」
時空を超えて、昔の傷ついた感情が舞い戻る。
あの時は、惨めな自分を見たくなかったからこの悲しみを心の深い底にしまいこんだが、今になってコックのおっちゃんの出現により見事に召喚された。
「おかえり、ごめんね」
置いてけぼりになった悲しみに挨拶する。
その日は泣き疲れて眠ってしまった。
翌日、レストラン内で食事の準備をしていると、おっちゃんがふら〜っとやって来た。
私は疲れていた。ボゥっとしていた。
そして、おっちゃんのことはもうどうでも良かった。
私は無視されると分かっていながら、いつものように礼儀上だけの挨拶をしようとした。が、なぜか口がすべり
「よぉ!」
と声が出てしまった。
おっちゃんがフリーズする。私もフリーズする。
何言ってるんだろ!?やばい!怒られる…!あわてて、すみません!と言おうとしたが、ヤツのギョロ目にひるみ、どうせ怒られると思い
「デヘヘヘヘ…あの…へっへへェ」
と笑ってごまかした。おっちゃんは
「……おっす」
と返して来た。彼はその後下を向いていたが、満面の笑みであった。
以来、おっちゃんとはちょっと話をする仲になった。
おっちゃんは、肺の片方を摘出する大手術をした後、ホテル副料理長の職を泣く泣く手放して、私のいる介護施設のレストランで働くことになったそうだ。
体力がないからホテルの仕事はもう無理だ、でも働かないと生きていけない。
こんな事情で他人にアタリが強かったようだった。
人生のランクを下げさせられたような気持ちだったのだろうか?
目の前の人を「嫌う」という感情が自分の中で呼び起こされたとき、逆転レースが始まる。
そしてこれは自分にしか分からない。
自分の黒歴史が、解決してくれる。
自分が問うて、自分が答える。
だから、どうしようもなく嫌いな人がいたら暴れてみよう。
そうして、黒歴史を優しく読み返してみよう。
嫌いなヤツは、黒魔術を使って消すのではなく、黒歴史がヒントをくれる。
だからこのおっちゃんのことは全然嫌いじゃなくなったので、私のミッションは終わった。
今回も見事に嫌いなヤツを消しました!
ちゃんちゃん♪