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あべけん太 ~ダウン症のイケメン~(前編)

インタビュイー:あべけん太、安部俊和(兄)
取材・文:舘野雄貴

 みなさんは「今日は、どんな日でしたか?」と聞かれたら、どのように答えますか?
 ダウン症のイケメンことあべけん太さんは、毎日「今日も一日、楽しかった」という言葉で日記を締めくくるそうです。
 仕事・ボクシング・絵画・マラソンなど・・・何事にも果敢に挑戦し続けているあべけん
太さんが毎日を楽しむ秘訣についてお話してくれました。

Q:最近は、どんなことに取り組まれているのですか?

A-    けん太:少し前までは、ボクシングもやっていたんですけど、最近はマラソンに集中して取り
組んでいました。12月8日(2024年)に開催されたホノルルマラソンを完走してきました!!

ホノルルマラソンゴールの瞬間!!

A-    兄:けん太は、なにかを始めたら継続するほうなんです。
仕事は「株式会社クレオ」というIT企業の総務部で働いているのですが、23歳から15年間勤続しています。ボクシングは7年間継続し、一通りのパンチは打てるようになりました。

 巷では、ダウン症の人は運動が苦手で太りやすいなんて言いますけど、ボクシングのトレーニングをしていた頃は、腹筋も割れていましたよ。
 先日のホノルルマラソンも42.195kmを見事に走り切りました!!

マラソン完走後、共に走った兄と抱き合うけん太さん

Q:やり始めたことを継続するためのコツはありますか?

A-けん太:仕事はできるだけ前向きな気持ちで一生懸命頑張った方が楽しいです。それに、そのほうがビールを美味しく飲めるんです!!
A-    兄:けん太は、良くも悪くも物事を複雑に考え過ぎないんです。自分の興味のあることや楽しいことに正直ですので、好奇心のままに突き進むんです。その特性があるからこそ一定の成果を遂げることができるのかもしれません。

Q:ご自身がダウン症であることを知らされた時のことを教えてもらえますか?

A-    けん太:中学生の時、周りの人たちにバカにされたことがあったんです。その日、家に帰ってからお父さんに「オレってバカなの?」って聞いてみたんです。お父さんは、「そーゆう体質なだけだ。」と言っていました。
A-兄:おそらく周りの子で、けん太の悪口を言ったりバカにしたヤツがいたのでしょうね。
 けん太は、どんなことを言っていたかという内容までは理解しなかったのでしょうけど、空気感で自分のことをバカにされていることは分かったのでしょう。
 父が「体質」という表現を用いて説明したのが、けん太にとって良かったのだと思います。

幼少期のけん太さん

Q:悪口を言ったヤツらが、ダウン症を理由にしてバカにしたのであれば、とんでもない悪しき行為ですね?

A-    兄:むこうも当時は中学生なんでね。まだまだそういった知識も備わってなかったのかもしれませんが、悲しいことですよね。元々、けん太はイジメや争いごとのようなことが大嫌いで、根っから平和的な性格なんです。
A-けん太:はい、戦争や暴力的な映像を見ると、すごくイヤな気分になります。そういうことが、世の中からなくなれば良いと願っています。

Q:イヤな経験もされたとのことですが、そこからどのようにして前向きになることができたのですか?

A-    けん太:ダウン症のことを分からずに、勝手にヘンな言い方やイヤな捉え方をされたこともありましたけど、優しい人もたくさんいたからです。
A-    兄:付け加えますと、けん太の家族や周りの人たちが、健常者か障がい者で区別するようなことをせずに屈託のない関わりをしたから本人もそれに応えるような形で「ダウン症」を前向きに捉えることができたのだと思います。

Q:偏った見方をしたりマイナスのイメージをつくるのって、当事者ではない人がそうしている場合が多いのかもしれませんね。実態を知らずに勝手なイメージ像をつくり出しているから、間違った像を描くこともあるのでしょう。そうしたことをなくすためには、どうしたら良いと思われますか?

A-    けん太:みんな違って、みんな良いんです。
A-    兄:たしかに、社会ではダウン症のイメージってマイナスに映っているのかもしれませんね。
 でも、それはただ無知なだけな気もします。実際のところは、ダウン症の人たちの幸福度って高いと思うんですよね。その幸福の尺度も人によって異なるとは思いますが、ダウン症の人には「楽しいことを楽しい」「美しいものを美しい」とシンプルに捉えられる人が多いように思います。
 けん太をみてもらうと分かるように、「今日一日、楽しかった」という言葉はそれ以上でも以下でもなく、まったく裏がないのです。

兄・俊和さんと一緒に

Q:言葉の裏がないって素敵なことですね。
人が発する言葉には、余計な意味やその人個人の私見が含有されていて、雑味が多くなっているのかもしれませんね?

A-兄:健常者でいろんな人がいるように、ダウン症の人にもいろんな性格や個性があります。
 なので、健常者が必ず元気で何の問題もないとは言い切れないように、ダウン症だからと言って暗いとかややこしいような先入観をもち、一方的にかわいそうな印象を持たれるのは違うと思います。
 けん太をワインに例えるなら果実味豊かなナチュールワインは農薬や化学肥料を不使用で、酸化防止剤や亜硫酸塩もほとんど使用していないので、ぶどう本来のピュアな美味しさを最大限生かしているのが特徴なので、自然体でいるけん太のようなワインなんです。

Q:さすがソムリエのお兄さまらしいご回答ですね。
あくまでも個人的な意見になりますが、現代人の幸福度って低いように思えてしまうのですが、実際どうなのでしょうね?「今日一日、どうでしたか?」と問われた時に、どれだけの人が心から楽しかったと答えるのでしょう・・・自分を含めてですが、純粋に楽しかったと言える人はかなり少ないのではないでしょうか。けん太さんが、「今日一日、楽しかった」とシンプルに表現していることには、実は奥ゆかしい意味が込められているように感じますが、いかがでしょうか?

A-    兄:ダウン症の人はできないことも多いという見方もあるかもしれませんが、当人たちがその
できないことを気にしているかと言ったら疑問もあります。
 人との違いがあることに苦しむというよりは、違いがあるのが悪いとされている空気がイヤなのだと思います。そうした空気は社会がつくり出しているのでしょうけど、人それぞれ違いがあるのは当たり前のことです。その違いに良し悪しを付けることがいけないのではないでしょうか。
 なので、けん太と一緒にいると、幸せの在り方を考えさせられることが多々あります。

【後編へ続く】

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