眼鏡をつくる ~第二回 磨き~
眼鏡一本一本の印象や質感は、「磨き」で決まると言っても過言ではありません。特にセルロイド製の眼鏡製作は、磨く作業に大半の時間を費やします。一本の眼鏡を、何度も何度も磨いて磨いて、これでもかというほどに磨き上げ、初めて納得のいく艶や質感が生まれるのだそうです。
生産性を求めたり、効率化を図ることを全く考えません。
一寸の狂いもなく同じ品質で同じ形をしたものが、短時間でたくさん出来上がることを目的としていないからです。
一本一本に表情がある中で、感覚的に統一する、敢えて分かりやすく表現するとしたらこのような感じでしょうか。
生産性で進化しないことをモットーとし、常に目の前にあるその一本に目を向けて、それが誰かの手元に届き、身につけることを想像しながら製作しているから出来る、ある種の技なのかも知れません。
『眼鏡をつくる~第一回~』でご紹介した工程の次の段階が、まさにこの磨きの工程です。
型を抜き、鼻パットを取り付けただけの状態のものは、美しさとは程遠いただのプラスチックの枠にすぎません。その後の手作業で行う荒削りと呼ばれる工程を経た後から、「磨き」は始まります。
削りたてのフレーム一本ずつを、まずはヤスリで削り、形を作ります。
フレームによって、緩やかなカーブを表現したり、切れのあるエッジを作り出したり、機械では表すことが不可能なニュアンスを職人の手の感覚によって作り出すのです。
”BJ CLASSIC COLLECTIONの造形と風合いが産声をあげる瞬間である”
と、私たちは表現しています。
一本ずつ、フレームに合わせて手作業で削る、という見えないひと手間が、滑らかな耳当たり、肌触りに繋がると信じています。
形が決まったらいよいよ磨きが始まります。
まずは「ガラ」と呼ばれる研磨回転ドラムにフレームを投入し、2日以上かけて回転させ続けます。大きなドラムの中には、研磨剤や研磨用チップなどが入っているのですが、その配合などの詳細は、門外不出の秘伝。そこに職人のプライドを感じます。
このガラ回転は、3段階に分けて行います。
段階ごとにチップなどの配合が変わります。
1段階目は「荒ガラ」とよばれ、荒削りによってついた表面の凹凸をならすようなイメージで、表面が薄く磨かれます。2日以上回り続けた後、一度取り出したら、今度は「泥バフがけ」と呼ばれる、粉末の研磨剤を水で溶いた良質な泥のようなものを使って、さらに磨きを入れます。
泥での磨きが終わったら、再びガラ入れです。
2段階目の「中間ガラ」に投入し、また2日以上回転させます。
ちなみにガラ入れ中も、職人は気を休めることなく朝に一度、昼に一度、夜に一度、回転するガラのもとへ行き、研磨剤が切れていないか、正常に稼動しているか、異常がないかを自身の目で見て、手で触れて状態を確かめます。
ガラに投入するフレームの数や、外気温によっても状態は微妙な変化をするそうで、慎重な微調整が必要です。
気温が40度近くなる真夏など、中の温度も上昇し、ベストな状態が保てないと判断した場合は一時的に回転をとめてしまうこともあります。
もちろんその分時間が余計にかかりますが、けっして急ぐことはせず、あくまで中のフレームにとって、一番よい状態を探し、綺麗に仕上げることだけを考えます。途中、簡略化するようなことができたとしても、仕上がりの質感に明らかに差が出てしまうので、ごまかすことは絶対にできない、と職人は言います。
3段階目の「艶ガラ」では、その呼び名の通り、フレームに艶を出していきます。ここでも2日以上の時間をかけて回転させ続けます。
ガラの工程を終えたフレームからは、内側で眠っていた、セルロイドの光沢が表に出てくるように、上質で鮮やかな艶が引き出されています。
それは、たっぷりと手間と時間と愛情をかけなければ放たれることのない艶めきです。
これだけの時間をかけ、丁寧に少しずつ段階を踏んで磨き続けることで、美しい艶めきは長く継続するのです。
艶が出たところで、ようやく眼鏡を組み立てる工程に進みます。
フロントの顔に乗る部分と、テンプルの耳にかかる部分。この2つのパーツを丁番という部品でつなぐ作業です。(※この工程の詳細やこだわりは、次回「眼鏡を作る〜第三回〜」で公開予定です!)
組み立ての作業が終わったところで、完成!と、行きたいところですが、
実はここで再び磨きの作業に入ります。
冒頭でお伝えした、『これでもか』の部分です。
組み立てたばかりの眼鏡の合口部分(フロントとテンプルが合わさる部分)は、まだ面同士が揃っていない状態です。
テンプルを広げた時、合口が重なりあい、まるで一体化しているように、ぴったりと揃えるために、手作業で削りながら整えていきます。印象が変わる大事な箇所でもある合口を、手の感覚を研ぎ澄ませ、時間をかけて丁寧に丁寧に削ります。
合口が整った後は、再び「泥バフがけ」です。ほんの少し、軽く磨くだけですが後の仕上がりに差が出る意味のある重要な工程のひとつなのです。
泥バフの後は、いよいよラストスパート。
仕上げの「艶バフがけ」です。
ここではなんと、組み立て済みの眼鏡を一度バラします。
バラすことで、細部まで細かく磨くことができます。
細部まで磨き、納得ゆく艶が出たところで、再度組み立てなおします。
組み立てた後に、もう一度艶出しのための磨き(艶バフ)を行い、ようやく長かった磨きの工程が完了します。
長年の経験や知識、感覚や視覚を常に働かせながら、一本一本の眼鏡と毎日向き合い、最高の品質に仕上げる職人たち。
仕事に誇りを持って真面目に真摯に、時に謙虚に、私たちに接してくれる職人たち。あまり多くは語らないところも魅力の一つなのかもしれません。
普段何気なく身につけている、もしくは目にする眼鏡が、実はこんなにもたくさん磨かれていたことを意識した上で改めて眺めると、いままでより少しだけ、見る目が変わるかもしれません。
次回、第三回目は眼鏡の基盤でもある、丁番をカシメる工程をご紹介します。どうぞお楽しみに。
つづく
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