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トランプ大統領の関税政策の功罪と今後の展開について
トランプ大統領の関税政策について矢継ぎ早に策を打ち出し、その動きについていくのが大変です。今回は、その点について纏めました。
1. 最新の関税政策の動向
2025年2月13日、トランプ大統領は「相互関税」の導入を表明しました。これは、米国の輸入品に関税を課している全ての国に対し、同等の関税を課すというものです。この措置は、日本やEUなどの同盟国も対象となる可能性があります。 
さらに、2月10日には、1962年通商拡大法232条に基づき、鉄鋼およびアルミニウム製品の輸入に対する追加関税を全貿易相手国に適用する大統領布告が発表されました。これにより、鉄鋼製品には25%、アルミニウム製品には10%から25%への関税引き上げが行われ、3月12日から発効予定です。 
2. 影響と今後の展開
これらの関税措置に対して、米国内の産業界からは反対の声が上がっています。例えば、米国商工会議所は、関税が米国の家庭の負担を増大させ、サプライチェーンを混乱させると指摘しています。 
今後、各国との交渉や報復措置の可能性など、国際貿易の動向に注視が必要です。特に、日本を含む各国は、これらの関税措置の影響を最小限に抑えるための対策を検討することが求められます。
3. トランプ大統領の狙いは?
トランプ前大統領が関税を強化する背景には、以下の5つの主要な狙いがあると考えられます。
1) 「アメリカ・ファースト」の推進
トランプ氏の経済政策の根幹は「アメリカ・ファースト(America First)」であり、米国の製造業と雇用を守ることが最優先課題です。関税を引き上げることで、輸入品の価格を高騰させ、国内産業の競争力を高めようとしています。
• 狙い: 米国製品をより競争力のあるものにし、製造業の国内回帰(リショアリング)を促進する。
• 例: 2025年に予定されている鉄鋼・アルミニウム関税の拡大。
2) 中国への圧力とデカップリング
トランプ氏は、中国を「最大の経済的脅威」と見なし、米中の経済的な分離(デカップリング)を進めようとしています。特に、半導体やEV(電気自動車)などの戦略産業では、中国依存を減らし、米国企業の成長を促したい狙いがあります。
• 狙い: 米国経済を中国から切り離し、国内製造を活性化する。
• 例: 中国製EVや半導体への高関税措置の検討。
3) 貿易赤字の削減
トランプ政権時代から、米国は中国やメキシコ、ドイツなどとの貿易赤字を問題視してきました。関税を課すことで輸入を減らし、貿易収支のバランスを改善しようとしています。
• 狙い: 貿易赤字を削減し、米国の経済成長を加速させる。
• 例: メキシコやドイツ製の自動車に対する追加関税の検討。
4) 政治的な支持基盤の強化
関税政策は、ラストベルト(Rust Belt:鉄鋼業・自動車産業が盛んな中西部)や製造業が多い州の支持を得るための手段でもあります。これらの州では、グローバリゼーションの影響で雇用が減少しており、トランプ氏の保護主義的な政策が支持されています。
• 狙い: 2024年の大統領選挙で勝利し、労働者層や中小企業経営者の支持を固めた。
• 例: ペンシルベニアやオハイオ州の製造業労働者向けの政策発表。
5) 交渉カードとしての関税
トランプ氏は交渉の際に「関税」を強力な武器として活用してきました。例えば、NAFTAをUSMCA(米墨加協定)に改定する際にも、自動車関税の脅威を利用しました。今後も、中国やEU、日本との交渉において、関税を取引材料として使う可能性が高いです。
• 狙い: 他国に譲歩を迫り、米国に有利な貿易協定を結ぶ。
• 例: 日本やEUとのFTA(自由貿易協定)交渉における関税の活用。
トランプ氏の関税政策の狙いは、単なる経済政策ではなく、国内雇用の保護、米中対立の激化、貿易赤字の削減、支持基盤の強化、交渉戦略の一環といった複合的な目的を持っています。
4.インフレリスクとその対策
トランプ氏の関税政策が短期的にインフレを加速させる要因となることは避けられません。特に、輸入品のコスト増や企業の生産コスト上昇が消費者価格に波及する可能性があります。では、トランプ政権が取りうるインフレ対策は何かを考えてみます。
1) 企業向けの補助金や税制優遇
関税によってコスト増となる企業に対し、補助金や税制優遇を通じて負担を軽減する施策が考えられます。
• 生産補助金:鉄鋼、半導体、EVなどの産業に対する補助金を拡大(IRA法やCHIPS法の改良版)。
• 法人税減税:企業のコスト負担を下げ、価格転嫁の影響を抑える。
• 設備投資減税:国内製造業の生産性向上を促すための税控除。
2) 金融政策の誘導
インフレを抑えるためには、FRB(連邦準備制度)の政策金利の調整が鍵となります。トランプ氏は今後、パウエル議長に対して利下げ圧力をかける可能性があります。
• 利下げによる景気維持:関税による景気減速を防ぐため、金利を下げやすい環境を作る。
• ドル安政策:ドル高が進むと輸出産業に打撃を与えるため、金利調整で適度なドル安を維持。
3) 国内生産の加速
輸入コストが上がる分、国内生産を増やすことで供給を増やし、価格の安定を図る戦略。
• 製造業回帰(リショアリング)支援:関税で輸入品が高くなる分、国内で生産すれば価格を抑えられる。
• エネルギー価格の安定化:石油・天然ガス生産を強化し、エネルギーコストを抑制(バイデン政権の環境規制を緩和)。
4) 低所得者向けの支援
関税の影響で物価が上昇すると、低所得者層が最も打撃を受けます。そのため、直接的な所得補助策も検討される可能性があります。
• 消費税(Sales Tax)の一時減税:州レベルでの負担軽減。
• 低所得者向け給付金(Stimulus Checks):一時的な生活支援策として、現金給付を実施。
5) 他国との交渉による価格抑制
関税が報復関税を生むと、輸入品価格の上昇が長期化します。そのため、トランプ氏は「関税の引き下げ」と引き換えに有利な貿易協定を結ぶ可能性があります。
• 日本・EUとの関税交渉:特定の品目での関税を部分的に緩和し、コスト上昇を抑える。
• 中国との限定的な交渉:完全なデカップリングではなく、一部製品(レアメタル、半導体材料など)での取引維持。
トランプ氏の関税政策は短期的にインフレ圧力を高める可能性が高いですが、補助金・税制優遇、金融政策、国内生産促進、所得支援、貿易交渉といった複数の手段で対応を図ると考えられます。ただし、実際にこれらの対策が機能するかは不透明であり、特にFRBの金融政策と政治的な交渉力がカギを握ることになりそうです。
いずれにしても、トランプ大統領はいいも悪いも自身の信条に従い仕事をしていることは間違いありません。政策を役所に丸投げせず、大統領選の公約を果たそうとする姿勢は評価できると思います。