天空の白馬鑓温泉
白馬鑓温泉(はくばやりおんせん)は白馬連峰の鑓ヶ岳の標高2,100メートル地点にある。
北アルプス山中の標高2,100メートルというロケーションながら、天然湧出量がなんと毎分760リットル、源泉温度43.1℃、コンクリート打ちっぱなしながら20人ぐらい入っても大丈夫という本格露天風呂である。下界を見下ろす湯船の縁からは新鮮なお湯がざあざあ音を立てて滝のように(いや、あれはまさに滝だ)流れ下っていく様子は壮観である。
ちなみに標高日本一の温泉としてはみくりが池温泉(標高2,410m)、あるいは、標高日本一の露天風呂としては本沢温泉(同2,150m)が有名だが、みくりが池はかなり下の源泉からポンプで汲み上げているし、本沢温泉は湧出量が少なくて4人入れば満杯となってしまう小さなものだ。従って、本格的山岳温泉としては鑓温泉が実力的にナンバーワンなのではないかと思う。
数年前の夏、思い立っていってみることにした。早朝の白馬駅から、大雪渓や白馬鑓への登山口となっている猿倉までバスだ。天気は概ね良好、白馬三山がくっきりと見えている。
猿倉荘に着いた。白馬三山への登山基地のひとつだ。白馬鑓温泉へはここから徒歩5時間(標準)だ。出発前に体操をするオジサンオバサンたち。
猿倉荘からしばらく行くと、勾配のきつい山道が始まる。登山口から鑓温泉までの高低差は800メートル近くある上、岩場が多くて足場が悪く、また、アップダウンや高巻きの箇所もあるのでなかなか苦しい登山である。
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後半に入り、鑓ヶ岳の雪渓が見えてきた。8月中旬には雪はかなり減っているが、それでも鑓温泉小屋までの途中3箇所で雪渓上をトラバースしていく必要がある。
2時間後、鑓温泉小屋がようやく見えてきた!あと小一時間もすれば着きそうだ。ここからは標高差も大して無いように思える。しかしここからが難所続きであった。
彼方に見えている鑓温泉小屋を目指して、いよいよ雪渓越えである。落石にも注意である。最初の雪渓が近づいてきた。登山者にわかるように赤い塗料を撒いたルートが見えてきた。
しかし、近づいてみるとルートは上部に移動していた。雪が解けて表に出てきた渓流を橋でわたるルートに変更されている。多分、先ほど見えた雪渓下部の道は下が空洞化して危なくなってきたのであろう。
雪渓を反対側から見ると、こんなにえぐれているのだ。この時期の雪渓は危ない危ない。
さらに進むとガレ場だ。「落石沢」(おちいしさわ)、「崩沢」(くずれさわ)など恐ろしい名前の沢が続く。耳を澄ますと上のほうで砂利か岩の崩れて落ちてくるようなカラカラという音。ヘルメットを被っているので、よほど大きな石でも飛んでこない限り大丈夫であろう。と信じたいが、足早に通り抜ける。
さらに雪渓を二つ越えていく。
そして最後の登りである。霧で視界の悪い中、10分登っても未だ着かない。いい加減くたばりかけたその時、ようやく鑓温泉小屋が見えてきた!目の前を温泉が湯気を立てて流れていく。時刻は10時前、出発してから約3時間半。かなりのペースで急いできたが、最後の難所で時間がかかった。
入浴料を支払っていざ露天風呂へ。
素晴らしい。
天空の露天風呂で極上の湯を堪能することができた。