ソレデモセカイハマワル

　新しい薬を飲み始めた。ミルタザピンという薬。医者は最初は辛いけれど次第に慣れて症状も良くなると言っていた。白い膜が目の前を覆っていて前が見えない。夢の中を手探りで歩いている感覚。怖い。眠くて動けない。脳が活動限界だとエラーを吐いている。思考しろ。処理しろ。躍動しろ。

　夢を見た。誰かに殺される夢。夢でよかった。

　今日は眠たいまま学校に来た。副作用で休んでいたら教授に怒られた。本当は行きたくなどない。それでも怒られたくはない。やむを得ない。

　全く食欲がない。固形物を見ただけで吐き気がする。それでも何か食べないと。葛根湯を珈琲で流し込む。ひどくまずい。たまらなく吐きそうだ。眠たい。このまま眠りたい。

　消えない希死念慮。いま死んだら迷惑だ。最後まで迷惑をかけたくない。四面楚歌。逃亡の道も塞がれている。前に進むしかない。でも前が見えない。背水の陣。盲目の韓信。

　脳が動かない。思考しろ。研究者は思考が命だ。思考を止めれば、ただの人間、誰でもいい。それでも動かない。珈琲で薬を飲む。エフェドリンとカフェインを経口摂取する。左脳が警鐘を鳴らす。右脳は言うことを聞かない。私のエンジンはアルカロイドでしか回らない。

　このまま眠りたい。誰にも気づかれず、ひっそりと。そのまま目覚めないで。静かに消えてゆく。

　動け。思考しろ。シヌキデイキロ。

”アルカロイドデシコウヲマワセ”