一人暮らしの障害者は他人によって生かされています
実は月曜の夕方、デイのリハビリから帰宅するとウチのマンションのエントランスのエレベーターホール脇の管理事務所の前に管理組合の理事長さんも含めて5、6人の住人の方らしい人がパイプ椅子に座っていました。
思わず約1年前の感電事故による共用部分電源喪失3日間の悪夢の再現かとかなり肝を冷やしましたが、話を聞くところによると、その1年ぶりのエレベーターの定期保守点検で電子基板の不具合が見つかり、その取り替えが必要とのことで、すでに業者さんが取り替え作業に入っていて、修復まで当初の点検補修作業時間の予定が後ろに小一時間ほど延長の見積もりと言われました。
ウチのマンションは市内最古に近い物件ゆえ、古いのは物件だけでなく、今やここで暮らす住人のかなりの数が後期高齢者という状況。
たとえ自分の住まいが2階や3階であっても、杖を使いながら買い物袋を提げて階段を使って部屋まで上がるより、ここはエレベーターが直るまで待ちましょうと、居合わせた住人と理事長さんを交えた臨時の井戸端会議的な住民懇親会を行っているということらしいのです。
そこへ、見た目ではその場の最若手でありながら年寄りには物珍しい形の電動車椅子に乗った住人が登場すると、当然ながら話題の中心というか、純粋な好奇心からも、オレは集中的な質問を浴びることになるわけですわ。
オレは子供嫌い、年寄り嫌い、極論すれば綺麗な女性以外の人間嫌いを普段から標榜しているのですが、悲しいかな現実においては、健常者だった在京時から街なかではやたら人に道を尋ねられたり声をかけられる場面が多いのです。
道に迷ったり、何かしら困っている状況にあるお年寄り、外国人、子供という、特にその3種類の人間に。
無精ヒゲにグラサン、甚平に雪駄履きという姿で新宿の近所の路上を歩いててもです。
それは、自分のどこから「話しかけやすそうな人のオーラ」が出ているんだろうと頭を抱えそうになるほどでした。
数多行き交う路上の人の中から、なぜオレを選ぶ? 自分では、全身から美人以外は寄ってくんなオーラを出しているつもりなのに…。
こんな過去の経験からオレは、自分が持っているそんな一種の誘蛾灯体質をある程度は自覚しているので、そのエレベーター脇の通路に自分も並んだ瞬間から、まるでスキャンダルを起こした芸能人の囲み取材みたいな状況になるのは、覚悟の上。
生まれ育ちの話に始まり、発症から今に至るまで、それこそ根掘り葉掘り聞かれましたよ。
それでもやはり亀の甲より年の功。
皆さん、年齢的にも健康問題は他人事ではない分、下世話な興味丸出しというより、親身な目線でどちらかというと概ね同情的でした。オレ、内心は人嫌いでも外面的には人当たりはいいみたいなのよね。それもあるのか、あまり気分を害することもなく穏やかでいい時間が過ごせました。
程なく見積もり通りに修理完了でエレベーターが動き始めて自然散会となったのですが、皆さん、お疲れ様でしたを言いつつ、たまにはこういう交流も大事よねと去り際に口々におっしゃられていたのがとても印象的でした。
確かに、マンション全体が町内会的なご近所さんですものね。適切な付き合い方の距離感を設定するのは難しいにしても、どんな人が近くに住んでいるのか、その人となりぐらいは把握する機会があっても悪くはないとオレも思いました。
オレも無事に帰宅して、生協デリから届いた物の整理などをしていると玄関からピンポンとチャイムが。
出てみると、先ほど一緒に話していた中のお一人の最上階フロアにお住まいのご婦人でした。
「先ほど嫌いではないとうかがったので、よかったらこれをどうぞ。少しだけですがお裾分けです」と、ストレート果汁のりんごジュース缶を2本持ってきてくださいました。
面倒くさがらず如才なく外面よくしておくのも決して悪くないものです。
ひさびさのご近所付き合いもいいものですね。お返しの機会と、そのタイミングには悩みますが…。
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