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chill mixみたいに夜は



1階部分が無人のアイスクリーム屋さんのビルの16階フロントでチェックインを済ませた。

barはもう開いてるか尋ねたら、「夜景が先に飲んで待ってますよ」と返ってきた。

ひとまず部屋に荷物を置いてからエレベーターで階上のbarへ。

フロアへ出ると、言った通りだった。

一面に、夜と都会とが融和した夜景が酔って待っていた。

東京が丸ごとニューロンみたいに光り、動き、瞬き、ゆらめいていた。

そのガラス窓向きのカウンター席に名も知らない君が1人腰掛けていた。

どこか陰があり、肩の出た服を上着で覆っていた。

僕は近寄って、君の横、いいか尋ねた。離れて飲むにはこの夜景は広すぎる。

canI?

名も知らない君は肩をすくめてから手だけでどうぞと言ってくれた。例えばヘミングウェイの小説だともっとそれを長く説明するかもしれない。

僕は君と同じものを注文した。君にもおかわりを。

canI??

店内には洋楽のchill mixが流れていた。歌詞がなんだかわからないほうがチルく感じられるのは僕だけだろうか。

「夜景を見ながら飲むと酔うっていうでしょ?」

君はグラスに両手を添えて言った。夜景を見ていた。

「フロントではそれは言ってなかったけどな」

「ふふ、もう酔ってるのね」

東京ニューロンの中央にまた光が走った。

恋が生まれる瞬間の解明の研究に、この光景が役立つことを期待したい。can I???

「わたし、明日朝早いの」

「それは僕もフロントで聞かれたよ」

僕はただ単に気が早いだけだけど。

「おやすみなさい」

君は席を立った。

「おやすみ」

僕は座ったまま振り返って言った。

君はもうエレベーターのボタンをタッチしていた。

ヘミングウェイは早起きだった。毎日夜明けとともに起きた。

そしていつも彼は立ったままで小説を書いた。



                      終

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