ブロッコリー展

きほん、人見知りなネコです。音楽を聴き流すように読み流せる短編小説を目指してます。あと大人小説と少年小説を行ったり来たりします。よろしくお願いします。

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きほん、人見知りなネコです。音楽を聴き流すように読み流せる短編小説を目指してます。あと大人小説と少年小説を行ったり来たりします。よろしくお願いします。

最近の記事

小説代行サービスを使って退職した話

「ええ加減にせえよ」 上司はカンカンに怒っている。 「す、すみません」 頭を下げる僕。なんて僕はバカなんだろう。 退職代行サービスを使ってすんなり退職するはずが、僕の依頼ミスにより会社に呼び出されるハメになってしまった。 これでは辞められるものも辞められなくなってしまう。 上司「“代行の者です”言うから話聞いたら、なんやねん退職理由が小説なってるやないか、キミ。どないなっとんねん」 僕「すいません、料金が1番安いところに頼んだら、そこが『小説代行サービス』だった

    • 逆・トキワ荘

      藤子不二雄A 先生の『まんが道』を愛読してやまない僕は、ついに念願のトキワ荘に入居することができた。 僕は漫画は描けないので、ここで小説を書いていくことになる。 このトキワ荘は当時と同じつくりの建物で、“令和の新しいトキワ荘プロジェクト”の一環で建てられたものだ。 なるほど再現度がエグい。階段の軋み具合まで当時と同じらしい。 そして青春の香り。やる気MAXっす。 僕はこの価値ある入居権を、『入居クリエイター選考会』を通過して見事に勝ち取った。 自分の部屋番号を確認

      • そろそろ本気だす

        考えてみたらぼくは何モードでもなかった。 まだ小学生なのに、とうとうなにもすることがなくって、 でもごはんとかは食べたくなかった。 それはケイイチもおなじみたいだった。 だから引き続きいっしょにあそぶことになった。 「チャー・シュー・メ~ン」 ぼくらはその掛け声で木の枝を持って素振りを繰り返した。 「チャー・シュー・メ~ン」 150回目くらいからはけっこう本気出した。まだまだ遊べてないと思った。 この街のモンスターのこととかはすでに耳にしてた。各メディアも騒

        • 新婚マッドマックス

          「あー美味しかった。あなたの料理ってサイコーよ。でも……できればトカゲ入りのが良かったわ」 妻がそう言って微笑んだ。和やかな食卓。 「そのうちトカゲ入りのも作るよ。まだいろいろ勉強してるところだから」 取り繕う。 もしもトカゲ入りのを作ったら僕も食べなくてはいけない。それはごめんだ。 「それじゃあ、行ってくるわ」 「行ってらっしゃい」 専業主夫の僕は玄関まで妻を送る。出発の朝。 新婚らしくキス。 妻の仕事はマッドマックスだ。わかりやすく言うと、マッドマックス

          なぜ人は『なぜ?』と思うのか

          ちょっと古い話になるが、白亜紀が夜明けを迎えていた頃、地球上に始めて花が咲き、その彩りと香り、そして美しさそのものが始めて世界に広がった。 それは植物が陸上に進出してから、3億年も経った後だった。 なぜ花が出現するまでにそれほどまで時間がかかったのだろう。 天気の良い休日、僕は部屋で、恋人に贈る花を選んでいた。 恋人は一人だけど、できるだけたくさんの花を贈りたかった。 これは僕の考えだけど、花が咲くまでに3億年もかかったのは、きっとこの星がまだ恋を知らなかったからじ

          なぜ人は『なぜ?』と思うのか

          なぜ男は寂しいとダメになってしまうのかがわかる小説

          「もー、ダメじゃないですかー。こんなに性描写ばっかり書いちゃ」 「す、すみましぇん。ちょっと人肌恋しい時に書いてしまって……」 担当編集者に電話で怒られてしまった。この前の原稿は自分でもどうかしてたと思う。 「ウチの読者はそういうんじゃないんですからー、もー」 「重ね重ね すみましぇん」 「こんなにすぐセックスして“やれやれ”とか言っていいのは村上春樹だけなんですよ、もー」 「反省してます」 きっと村上春樹は寂しくないし、人肌恋しくもないんだろう。 男はなぜこ

          なぜ男は寂しいとダメになってしまうのかがわかる小説

          魔の水曜日よ、こんにちは。

          たまに行くゴールデン街のスナックのママに言われる。 「魔の水曜日に来てくれてありがとう」と。 水曜日の夜はいつもお客さんが来なくて本当に暇らしく、ママは『魔の水曜日』と呼んでいた。 5、6人横に座ったらもういっぱいになってしまう狭い店舗の真ん中の席に座る。 黒ビール。 カウンター越しに、ママが唯一するメイクである目尻のところを持ち上げるラインを引いている。 「やる気なかったけど、ここから気合い入れるわ」 「どうも」 「水曜日すき?」 ママが僕にそう聞いた。マ

          魔の水曜日よ、こんにちは。

          小説は、何かを思い出すために書くのか、何かを忘れるために書くのか。

          シュミット痛み指数というものがある。 伝説的な昆虫学者ジャスティン・O・シュミットさんが膜羽類の昆虫全てについて刺されるとどれだけ痛むかを身をもって体験して指数化したものだ。 軽い方から、指数1にコハナバチ。指数2.0にスズメバチ。 ぐんと重くなって、指数3.0にアシナガバチやアカシュウカクアリ。 そして最も痛いとされる指数4.0超は、サシハリアリというブラジルのアリだ。 意外にも、アリ?と思ってしまうが、その痛みの解説によると、『純度の高い、強烈な、濃艶な痛み。長

          小説は、何かを思い出すために書くのか、何かを忘れるために書くのか。

          by heart 〜宇宙におけるサラリーマン事情〜

          こんな仕事、好きでしてるわけじゃない。 俺はコックピットの中でぼやいた。 一人乗り用に作られた火星産の宇宙船で地球へと向かっている。 静かすぎて嫌になったので70年代のディスコミュージックをかけた。 地球に向かう理由は、数年前の全人類地球脱出時に取り残された人の捜索だ。ここ最近は全く見つかっていない。 俺は火星政府からの委託を受けた宇宙セキュリティ会社の社員としてこの任務にあたる。 給料はまあまあ。火星税が引かれてもなんとかやっていけるくらいだ。地球で終末税を滞納

          by heart 〜宇宙におけるサラリーマン事情〜

          早朝バズーカみたいな小説

          まさか昨夜読みかけで伏せたままにして寝た小説に起こされるとは思わなかった。 隣で寝ていた妻と一緒にベッドの上で飛び起きた。 床には小説がぶっ放したと思わる活字がバラバラに散らばっている。まるでコーシーの論文みたいにそれは、新しい言語を作り出しすぎていた。 短編小説で良かった。もしも長編小説だったらこんなもんじゃ済まなかっただろう。 「あなた、ちょっと見て」 部屋の隅で抜け殻のようになっていた小説本体を妻が拾い上げて言った。 中はどのページも悟り澄ましたかのように真

          早朝バズーカみたいな小説

          また逢う日まで

          環七で出会って 環八でバイバイ 簡単に言えば それだけのことなのかもしれない 気づいたら僕は ないものを探すより 今あるもの方がずっと必要な歳になってた I should have known better まるでビートルズの原題みたいだ 今度あなたに逢う時は、僕は違う僕になれていると思う きっとあなたは 光溢れる天界を見て でもすぐに飽きてしまって 東京にまだない環状線を使って 僕のところへ時々やって来てくれるはず Nothing is rea

          また逢う日まで

          僕は独学で孤独を学んだ

          そんなことを言うと、勉強熱心なやつだと思われるかもしれない。 でも、実は孤独以外のことには不勉強だ。学生の分際なのに。 独学で孤独を学ぼうと思ったきっかけは、教えてくれる人が誰もいなかったからだ。 あちこち探し回ったけど、孤独をしっかりと基礎から学べるところはなかった。 だから、その間はとても孤独だった。 学校ではいつも一番前の席だった。自由席で1番前が空いているのがなんとなく嫌だったからだ。 進路指導の面談の時、先生は教室の1番後ろの席を使った。 僕が“孤独の

          僕は独学で孤独を学んだ

          無人駅で出会った小説

          どこかに行きたかった。 わかってくれる人もいると思うけど、どこかに行きたいときってどこにも行き着けなかったりするもんだ。 そんな時は自分の住む街を深掘りするべきなのかもしれない。 子供の頃にそんな感じのことを教育テレビから学んだ気がする。 そしてあの名文句が雲のように空を流れる。 知らないことが おいでおいでしてる 出かけよう 口笛吹いてさ 単調な毎日のつまらなさについては確か教科書にはなかった。 『知らなくていいもの図鑑』みたいなのがないのは、きっと見た

          無人駅で出会った小説

          日本イエネコの会

          イエネコは今や世界に四億五千万匹もいるといわれている。 つまりネコ科のなかでもっとも成功しているのがイエネコなのだ。 😸 ある日、ウチのネコに「推薦人になって欲しい」と突然頼まれた。 僕はそのとき鍋を火にかけていたので、それをやめて“なんの推薦人か”と尋ねた。 するとウチの猫はお行儀良く尻尾で前足をくるみながら、 「会長選に立候補したい」と上目使いで言った。 日本イエネコの会における最高位なんだそうだ。 そんな会があったなんて知らなかった。そもそもウチの猫はい

          日本イエネコの会

          君と僕は〇〇のない〇〇かもしれない

          野球をしてない市民球場のスコアボードをしばらく二人で眺めていた。明日大きな試合があるのか、念入りにグランド整備をしていた。 僕らはただ虹がかかるのを待ってた。 「そろそろ行こうか」 「うん」 ケヤキのない欅通りを進んだ。 今日一日は君とゆっくりできる。 小春日和より少し暖かい日曜。 半分くらい雑草で占められた歩道を楽しく歩いた。 ガードレールが白く塗り直されていた。 ゆとりの駐車場に車はなかった。 「これ飲みなよ」 「うん」 ペットショップではお昼寝タ

          君と僕は〇〇のない〇〇かもしれない

          既視感しかない小説

          「いいか、世の中に小説はふたつだ。ひとつ目は“金で買える小説”、もうひとつは“金で買えない小説”だ」 たまの休みに会社の先輩から話があると言ってファミレスに呼び出された。 先輩がプライベートの時はこんなにアクセサリーを身につける人だとは意外だった。 「はぁ」 僕はテーブルの上にこちら向きに置かれたその小説に目を落としながらそう返事した。 それはすごく手作り感のある小説でタイトルも中身も手書きしてあるように見える。 先輩はその小説に触る時だけはいちいち白手袋をはめた

          既視感しかない小説