「海と毒薬」~日本人の集団心理による残酷さ
こちらのブログは滞るので、映画好きの私としては、こちらに感想を書き連ねたいと思う。敗戦の色濃くなった太平洋戦争末期、九州F市(福岡ですね)F帝医学部生二人の目を通してB29爆撃機の捕虜8名の生体解剖の事件を描いた遠藤周作の小説の映画化。実に小説が出版されて、スポンサーが見つからず、28年後に社会派の熊井哲監督によって実現される。そのためか熊井監督の執念の映像に圧倒される。
手術のシーンはモノクロでないと観れないだろう。排水溝に流れていく血はスタッフから献血された本物の血。心臓などはよく似た哺乳類を使ってるそうで、匂いまで伝わってくるほどのグロテスク。海水を体内に入れたり、血はどのくらい抜いたら死ぬか、肺は半分取っても死なないか…など、軍のお墨付きであれば何でもやってしまう恐ろしさ。満洲での人体実験は知るところだが、福岡での米軍の生体実験は知らなかった。生きたままの人だよ!
戦時下における人間の倫理観、『神なき日本人の罪意識』無宗教であり、統一した倫理を持たない日本人の帰依するものは、上からの命令であり、大衆の目が聖書の代わりになるのかも知れない。遠藤周作はキリスト教徒で、日本人の集団心理を考えたのが、この作品のモチーフらしい。
この戦時下に加えて、医学部長の椅子を争っていることも、人の倫理観を麻痺させる。権力争いに命は二の次なのは現在も変わらない。海は『運命』で、毒薬は『麻痺させるもの、惑わすもの』か。
「人間の心の痛み、悩みは『明るくて、軽くて、単純な』映画では本質的には癒されない。同質の痛み、悩みを描いた、感情移入できる映画こそ薬になるので はないだろうか」。熊井監督の述懐である。よくこういう残酷な作品は観れないという人がいるが、特に実話であれば、気持ちのいいものばかりを見ても、一向に傷は癒されないだろう。