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ただしいは、正しい?「ゲゲゲの鬼太郎」|エッセイ
「ゲゲゲの鬼太郎」は、
その昔、他の子供向けのアニメに無い、異質な魅力を放っていました。
怖いけれど、隠した手の指の隙間から、覗いて見たくなる感じ。
今、テレビアニメを見てきた大人を
中心に、最新の映画が話題になっているようです。
(5分程度で読めます。)
✢メモリアルムービー
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2023年、秋。
原作者である水木しげる氏の
生誕100周年記念作品として、
映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』が公開されました。
鬼太郎の誕生の秘密についてや、
若かりし頃の目玉おやじと水木氏との出会いなど、
ルーツを遡る長編アニメ映画となっています。
声優陣は、新旧取り混ぜて豪華です!
( 関俊彦と石田彰が気になります。。。←「昭和元禄落語心中」以来)
大人も愉しめるダークホラーアニメだと、
口コミの評価も高い様子。
結構な盛り上がりを見せています。
※noteでも関連記事が!!
↓ ↓ ↓
✢そもそも、ゲゲゲの鬼太郎
まさかのまさかですが、
「ゲゲゲの鬼太郎?よく分からない」
という方のために、
念のためにあらましを。
幽霊族の最後の生き残りである
鬼太郎は、目玉おやじの姿で復活した父親と共に、育ててくれた人間の家を離れ、放浪のたびに出た。
やがて、子泣き爺や砂かけ婆など妖怪の知己を得た鬼太郎は、人間たちとは一線を置いた生活をしながらも、
悪事を働く妖怪を退治するようになっていく。
「ゲゲゲの鬼太郎」が、日本のカルチャーのひとつであることは、疑いようもない事実です。55年に渡って放送されたこのアニメは、妖怪や怪奇を身近なものとし、どの時代の子どもたちも魅了してきました。
「鬼太郎」のテレビアニメは、シリーズ化が繰り返されるたび、絵柄がどんどん洗練されていきます。
鬼太郎のキャラクターが、
敵をたおす、普通のアメコミのような
スーパーヒーローへと移行して
見えるのは、私だけでしょうか。
「鬼太郎」は、もっと深いのでは?
人間の心を見透かすような、
反骨精神を持っているのでは?
ちょっと、違和感を感じてしまいます。
✢「鬼太郎」の魅力とは
鬼太郎の魅力は、以下の2つから
生じてくる気がします。
・囚《とら》われない日常の姿
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https://ameblo.jp/prettycurer/entry-12584599362.html
木の上の小屋で仲間の妖怪たちと
過ごす鬼太郎は、いつもどこ吹く風といったノンシャランなようす。
鬼太郎含む妖怪たちの、日常におけるありようは、
アニメの全シーズン、ほとんど歌詞を変えずに歌い継がれたテーマソングでくみ取れます。
※「ゲゲゲの鬼太郎」のテーマソング
(憂歌団)
↓ ↓ ↓
・テーマソングの歌詞
ゲッ ゲッ ゲゲゲのゲー
朝は寝床でグーグーグー
たのしいな たのしいな
おばけにや学校も しけんも
なんにもない
ゲッ ゲッ ゲゲゲのゲー
みんなで 歌おう ゲゲゲのゲー
テーマソングでは、
「お化けにはない(いらない)もの」として、次の事柄が出てきます。
1番…「学校」「試験」→学歴
2番…「会社」「仕事」→経歴(地位)
3番…「死」「病気」→死
世間ではどうでしょうか。
これらに囚われて、
がんじがらめになってしまう人が
多いように見えます。(自分も含め)
このテーマソングは、現代社会への
アンチテーゼと言えるかもしれません。
人間ではない、妖怪という異形《いぎょう》の持つ境地。
鬼太郎たちの日常を真似できない、
なかなかその境地になれないからこそ、
人は強く惹かれるのではないでしょうか。
・超人的に変貌する瞬間
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妖怪ポストの手紙や、髪の毛のアンテナで
不穏を感じると、突然鬼太郎の顔が引き締まって、
敵となる存在と臨戦態勢に入ります。
鬼太郎の戦いぶりは、社会の暗部を掴んで、ぎゅっと握りつぶすような恐さを秘めています。
妖怪ならではの、
超人的な力を発揮する瞬間です。
この瞬間も、「ゲゲゲの鬼太郎」の
見どころのひとつでしょう。
鬼太郎の戦う姿、力の表現には、
水木しげる氏の思いが込められているようです。
実は、水木氏が残した戦争の体験談に、
鬼太郎のキャラクターや漫画に
反映されているのではないかと
想像できるものが多くあります。
印象に残ったものをひとつ、挙げてみましょう。
✢戦時中のエピソード
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水木しげる氏は、
太平洋戦争の最前線であるニューブリテン島のジャングルで、九死に一生を得た経験があるそうです。
ゲリラの襲撃で、13人からなる所属部隊が水木氏を残して全滅。
命からがら生還しました。
22歳の頃です。
水木氏は、サンゴが群生する海岸線を逃げた。軍靴の底はなくなり、足の裏から血が出ていた。海を泳ぎ、ジャングルを駆け抜け、現地人の集落をびくびくしながら通りすぎた。川で水をすすり、やせたエビを食べる程度で、ほぼ飲まず食わずの逃避行だった。銃も軍服もなくし、ふんどし姿で5日後にズンゲンの陣地にたどり着いた。
たった一人逃げ延びて、
生還したときに上官から言われた言葉に驚きます。
玉砕せよ、潔く死ねと言うのです。
✠✠✠✠✠✠✠
※玉砕…玉のように美しく砕け散ること、指導層が提唱する大義、名誉などに殉じて潔く死ぬこと。
対義語は、無為に生き永らえること。
(Wikipediaより抜粋)
✠✠✠✠✠✠✠
<中隊長は開口一番「なんで逃げ帰ったんだ。皆が死んだのだから、おまえも死ね」と言う。体は疲れてフラフラだったが、一日の休養もくれない。それ以来、中隊長も軍隊も理解できなくなり、同時に激しい怒りがこみ上げてきた。>
「脳天をぐわんと殴られたような衝撃を受けた。」そうです。
一人だけ生き残ることは「生き恥」だという日本軍の考え方なのです。
「文字通り全滅でわたしだけ生きて帰った。一人。一人生きて帰った大事な人をね、死ねっていうわけですよ。困りますよね。死ねっていうわけです。なんで一人生きたからって死ねって言われるのかって思いました。」
水木さんはその後、マラリアに感染。療養中に敵機の爆撃で重傷を負い、
左腕を失います。
戦争が終わったとき、「生き延びた!」と安堵したそうです。
おそらくこう思われたことでしょう。
祖国のため、とは何だったのだろう?
ただしい、とは
本当に、「正しい」のか…?
数々の理不尽を受け、辛酸を嘗め尽くした。その遣る方ない思いを、戦後ようやく
水木氏が表現したもののひとつが、 「ゲゲゲの鬼太郎」だったと言えそうです。
そこには、
鬼太郎や妖怪たち――超人的な異形《いぎょう》の存在が、
世の中を一刀両断、本当に正しいものへ
戻していく姿があります。
水木氏のリアルな意志が漫画の一コマ一コマに入り、「ゲゲゲの鬼太郎」のロングヒットに結びついたのでしょう。
✜まとめ✜
・生誕100周年記念作品として、映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』が公開された。
・幽霊族の最後の生き残りである鬼太郎。仲間の妖怪たちと悪事を働く妖怪を退治していく。
・鬼太郎の魅力は、囚われない日常の姿と超人的に変わる瞬間。
・ゲゲゲの鬼太郎は、作者・水木しげる氏の戦時中の体験談が投影されている。
✢鬼太郎FOREVER
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水木しげる氏生誕100周年のあいだに、
世界の様相が変わりました。
ダイバーシティ&インクルージョン(社会において多様な人材の活躍を推進するための概念で、国籍や性別、障がい、性自認や性的指向、言語など人それぞれの違いを受け入れて尊重すること)が打ち出されるようになってきました。
ルッキズムもその流れでしょう。
非常に平和的で良い風潮だけれど、
行き過ぎてしまうと、突出したものが潰されてしまうようなことが起こるかもしれない。それは恐るべき事態です。
鬼太郎たちのように、高い小屋に暮らすのをイメージして。
俯瞰《ふかん》して世の中を観察すること。
ただしいは、正しいのか考えること。
澱むことなく、いつも
世の中に綺麗な水を流すため、
鬼太郎や妖怪たちの精神を持つことが、
今こそ必要なのかもしれません。
120年目の妖怪ポストには、
どんな手紙が
入っているのでしょうか。
★おまけ★
ゆらゆら帝国「19or20」
最高です。
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ここまでお読み頂き、誠に有難うございました!
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また、次の記事でお会いしましょう!
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