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mon ami〜猫と僕の日々|#短篇小説

#創作大賞2024



《あらすじ》


ある雨の日。僕は鞠のように小さい仔猫を拾った。
連れて帰って、前の彼女に手伝ってもらいながら面倒を見ることになった。仔猫をモンと名付けた。

日が経ち、身体を洗うためシャワーを浴びさせると、仔猫(モン)はロングヘアの裸の女の子に変身した。どうも濡れると人間に変わるらしい。そして、身体が乾くとまた元の猫に戻る。

モンは猫の成長グラフに沿うように、次第に少女から大人の女性に成長していく。僕はどんどん人間のモンに惹かれてしまう。そして、僕とモンは恋人になる。

ふたり(?)は、人間と猫でありながら、このまま愛を貫けるのか?前の彼女の存在も微妙に絡み合いつつ、話は展開していく・・・。


Chapter1.

mon ami〜猫と僕の日々



雨の朝。


僕は、いつものように、神社のなまこ壁の横を通って職場へ向かった。静かな、楠の葉々に落ちる雨音まで聴こえそうな道。・・・今朝は、鳥たちの鳴き声はしない。


裁判所の、古い煉瓦の洋風建築の前で、傘を指しつつ信号を待つ。職場までは、歩いて行ける距離だ。


―――すると、横断歩道のちょうど真ん中あたりに、黒っぽいほわほわした小さな球状のものを見付けた。


(何?あれ―――まり

けど、うっすら毛が生えてる・・・)


ほとんど車の通らない信号なので、周りを確認して慌てて謎の物体にかけ寄る。


猫だった。本当に小さい、片方の手のひらに乗るくらいの仔猫。



持ち上げると・・・やや湿っているが、生きていて温もりがあった。
車にかれなかったのは、奇跡としか言いようがない。



親猫が居ないかきょろきょろと見回したが、それらしい形跡がない。雨のそぼ降るなか、植え込みなどに放置するのは何となくはばかられて、出社前に焦って迷った挙げ句、職場まで手のひらに乗せたまま連れて行ってしまった。後先を考える余裕が無かった。







社内にあった小さな段ボール箱を組み立てて、給湯室の隣りの、掃除用具の入っている一室の隅に置かせてもらった。後輩社員の藤尾奈恵フジオナエが、親切にも余ったタオルや新聞紙を持って来てくれた。



そおっと仔猫を箱に入れ、寒そうなのでタオルを折り曲げて上に掛けてやった。僕とフジオナエは、箱の横にしゃがんで、黒い仔猫の様子をしばらく眺めていた。怖がっているのか、仔猫は未だ鞠みたいな状態で丸まっていた。


「・・・武井さん?」

膝を抱えたまま、フジオナエが僕に声を掛けた。彼女の眼鏡がキラリと光った。


「こんな小さい仔猫、何時間かおきに、ミルクあげないと駄目ですよ?

・・・それも、スポイトみたいなのでないと、飲めないですし。

武井さん・・・独り暮らしですよね?」


「そうなんだ・・・」


フジオナエにじっと見つめられて、【仔猫を飼う責任】が一挙に押し寄せて来た。


「―――さ、仕事・・・」


言いたいことを言うと、興味を失くしたようにフジオナエは立ち上がって、ドアをパタンと閉めて出て行った。





(―――どうする?誰か他の社員に世話を押し付けることは出来ないし・・


出社したとき、此処にずっと置かせてもらうのも無理な話だ。


・・・うちは、どっちの親も現役で働いてるしな・・)



頭で色んな可能性をぐるぐる考えたとき、ふっと前の彼女の顔が浮かんだ。



(たしか、ちょうど最近、病院の受付の仕事を辞めたと言っていたっけ。


―――【ダメ元】で、訊いてみよう)





「そういうところが、貴方あなたは勝手で、ずるいのよね・・・」



付き合っていた頃、苦笑しながら彼女に言われた台詞セリフを思い返した。



迷惑なのは勿論百も承知だけれど、僕は携帯の中の彼女のLINEに


―――相談したいことがあるんだけど 今日は連絡取れるかな?


と打ち込んでいた。頼む、何とか引き受けてくれ、と携帯に片手で拝んだ。



仔猫を救うためには、思いつく可能性に賭けるしかなかった。


やがて訪れる、仔猫と僕との不思議な日々については、また別の話になる・・・






【continue】







お読み頂き誠に有難うございました!!


初めての長篇小説です。何卒宜しくお願い申し上げます。



2024.7.23  佳き日に

BRILLIANT_S






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