水槽の彼女〜カバー小説【6】|#しめじ様
しめじ様のnoteからインスパイアさせて頂いたカバー小説です。
↓ ↓ ↓
🌿これまでの話🌿
【6】
僕の家に着いた。何ということはない、マンションの4階。
玄関のカギをがちゃがちゃと開ける。
1LDKにしては広いかもしれない。あまり、散らかしてはいない積もりだった。
彼女は、グレイのスリッパを履いておずおずと中に入り、部屋をあちこち物珍しそうに見回していた。
「―――買った服とかは、このあたりに置いておく?」
クローゼットの前のスペースを指差した。
彼女はそちらを見ず、壁一面にある本棚を、背伸びするように上の段から眺めていた。
「本が・・・沢山あるのね。DVDも」
それは、コンクリート打ちっ放しの壁面に、僕が設置したものだった。
「まあね・・・大抵は、仕事の資料だよ」
「何の仕事してるの?」
「インテリア・コーディネーター」
「ふうん・・・だから、ライトなんかも凝ってるのね」
彼女は、吊るされているランプの方を振り返って見上げた。
「・・・ま、お茶でも淹れるよ。君は、珈琲は飲める?紅茶が無いんだ。
飲めなきゃ何か買ってくる」
「飲むわ。ミルクを入れれば」
「牛乳なら、多分ある・・・消費期限、いけるかな?」
冷蔵庫を開ける。殆ど飲み物ばかりだ。缶ビール、牛乳、つまみが何品か、バター。あとは、実家から送られてきたタッパーウエア。
T-falでお湯を沸かし、牛乳と、食器棚にしまっていたドリップコーヒーの袋をふたつ出して、奥にあるマグカップも出した。
(―――このマグカップをふたつ出すのも、久し振りだな)
前の彼女にプレゼントされたものだ。
シンプルなものが好きでしょ、と言われ、インクブルーの地に細いペンで引いたような文字で、
“ balance, “と描いてあるのをもらったのだった。
黒い麻の布張りのソファで、並んで座り、珈琲を飲む。
沈黙の時間。彼女はあまり会話をしたがるタイプではなさそうだ。
ウッドテーブルに、マグカップを置いた。
「・・・君さ。携帯って、持って来てないよね?」
「ええ・・・。元々、持ってないの」
「持ってない?」不審そうに訊くと、
「papaとりあしか、連絡する相手が無いから。papaは家に居るし」
「・・学校は?高校の連絡とか、有るんじゃないの」
その時、彼女の唇は一瞬、演奏の終わりのように静かに引き結ばれた。
「―――私、中退したの。苛めに遭って・・・」
苛めか・・・。
彼女の瞳の闇が段々と顕になってくる。深く聞いてあげたい気持ちはあったが、一旦この話を切って、珈琲を飲み終えた。そして、家にある葉書を探し始めた。
本棚のファイルケースに、何枚かあった筈だ。
探しながら、
「―――取り敢えずさ。飛び出して来たわけだから、このままじゃ拙いよ。
携帯が無いならGPSで割り出されはしないだろうけど、捜索願いを出される前に、安否について伝えたほうが・・・有った」
絵葉書数枚と、無地の葉書が1枚出てきた。無地のほうを彼女に渡す。
「これでpapaにまず謝って、君が無事なことを書いておこう。
そうだな・・・
住み込みバイトを見つけた、とか、そんな感じでいいんじゃないかな?
君の妹の世話は誰がするの?」
「りらは、日中は保育園に行っているわ」
「そうか。・・・じゃ、書いてみて。
これ、ボールペン。
書き終わったら、出来るだけ遠くの大きな街へ出て、投函しよう。
そうしたら、此処まで中々たどり着けない筈だから・・・」
彼女の目が緊張で少し見開かれた。
黒い瞳の中の崩壊星は、もう何処かへ消え、光が宿り始めていた。
【continue】
▶Que Song
Virtual Castle/Dios
今日は此処まで。お付き合い頂き、誠に有難うございます。
しめじ様、ご査収よろしくお願いいたします😌🥀
🌟Iam a little noter.🌟
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