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気難しい作家先生〜前々日譚・クリスマスプレゼント|#短篇小説


 これまでの【気難しい作家先生】シリーズは、すべて以下のnoteに収録されております。


 よろしければご高覧下さい!!

↓ ↓ ↓


深谷浩介ふかやこうすけ…作家志望の高校生。

飯田李里佳いいだりりか…浩介の同級生。



《前回のお話》

 当時、授業が終わると、李里佳に誘われ、帰路を共にする習慣が出来た。



 浩介も李里佳も、帰宅部だった。



 浩介は部活動に一切興味は無かったのだが、彼女は



 「店を手伝わないといけないから・・・」



 帰宅部を選んだと言っていた。



 「―――うちね、小料理店をしてるの。

 飲むときの、アテを出す感じね」



 「・・・・・」



 李里佳は自分のことをよく話したが、浩介はほとんど口をきかなかった。黙って、学校では言わないような彼女の色々な話を聞いていた。



 「ママは、お客さんと再婚したの。

 ・・・びっくりしたわ。いつそんな話になったかと思って。

 お店でふたりを見てたけど、全然分からなかった」



 結婚しても変わらず(その客は初婚だったらしい)、勤め帰りに店で飲み食いして過ごしているから、客のままで義理の父親になった気がしない、と李里佳は言った。



 浩介は何と返して良いか、分からなかった。

「気難しい作家先生〜前々日譚
・希望の井戸」





気難しい作家先生〜前々日譚
・クリスマスプレゼント




 終礼後。


 李里佳りりかは浩介に、


「プレゼントを探すのに付き合って」


 と頼んできた。


 母親と、義理の父になった男に、結婚祝いも兼ねてクリスマスプレゼントを渡すというのだ。


深谷ふかやくん、センス良さそうだから・・・」


 李里佳は浩介の机の横に立って言う。


 机の中から教科書やノートを引っ張り出しながら、浩介は李里佳を見上げた。


「あ、何か忙しいかな?塾とか・・・」


「塾へは、行ってないよ」


 ボストンバッグに教科書などをてきぱきと仕舞っていく。バッグの収納の仕方にも、彼なりの法則があった。


 李里佳は、ぱっと明るい顔になって、


「―――じゃあ、週末も空いてるよね?
一緒に行ってくれる?」


 手のひらを、顔の前で拝むように言った。


「・・・いいよ」


 内心、李里佳とふたりで会うのを嬉しく思いながら、つとめて平静な声で浩介は言った。





 その週末。浩介と李里佳はデパートであれこれ品物を見ていた。


「お母さんのは何となく思いつくんだけど、義理のお父さんのは、浮かばないんだよね・・・

 ふたりで一つが良いのか、

 別々に選んだら良いのか・・・」


 日用品・インテリアのフロアを行きつ戻りつして物色していた李里佳は、ほとほと悩んでいる様子だった。


「お花だと、残らないしね・・・」


 浩介は、デパートで初めて口をきいた。


「・・・その、義理のお父さんは、どんな仕事をしているの?」


 李里佳はきょとんとした面持ちで浩介を見る。


「ん・・・よく分からない。

 何かの営業をしてるって」


「・・・・・」


 あまり、義理の父親とはコミュニケーションを取っていない李里佳の口ぶりだった。李里佳は浩介から目線を外した。


「別々が良いか!

 結婚祝いだと大げさだから、普通のクリスマスプレゼントにするわ。

 マフラーとか、どうかな?」


 ね、と肯定してもらいたげに、浩介に首をかしげる。


(・・・来た意味は、ほとんど無さそうだな・・・)


 いつも、李里佳に振り回される浩介だったが、それは珍しく嫌ではなかった。


✼ ✼ ✼


 結局、李里佳は母親にスカーフ、義理の父親にマフラーを選んだ。


 包装されたプレゼントをデパートの紙袋に入れて、クリスマスウィークの街並みをふたりで歩いた。


 皆、グレーや黒のコートを着ていて、カラフルなウィンドウと対照的な色彩だった。


「ねぇ、深谷くん!

 私、あれに乗ってみたいの」


 李里佳の指差した先は、ビルの屋上の真赤な観覧車だった。


「・・・今なら、夕方になって灯りがつき始めて、綺麗じゃない?」


 浩介は、観覧車のみならず、遊園地自体体験した記憶がなかった。両親の指向性からして、嬌声を上げて遊ぶようなものとは無縁だった。


「観覧車・・・」


「そう。ひとりで乗るのも、つまらないでしょう?せっかくだから、乗りたいな」


 李里佳はそう言ってにっこり微笑んだ。彼女の微笑みには、逆らうことが出来ない。


 

 その真赤な観覧車が、ファースト・キスの場所になるとは・・・浩介にはまだ、思いも寄らぬことだった―――。





▶Que Song

愛について/スガシカオ



【continue】




 
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