見出し画像

青い太陽〜たったひとりの観客〈リライト版〉|#創作題ショートショート

 XのRIUM創作題より、【太陽】でショートショートを綴ってみました。

↓ ↓ ↓




青い太陽
〜たったひとりの観客



 太陽は季節を先取りして、春の明るさですべてを照らす。

 
 まだ居残っている冬の冷気は、時折ページをめくり、暖気を気まぐれにのぞかせる。



 ・・・そんな中、私は片想いの久里山くりやまくんに、一生懸命念を送っていた。


(こっち向け―――こっち向け、こっち向け!)


 勿論そんなことでテレパシーが届く訳もない。


 久里山くんは窓辺に腰かけて、その周りをぐるっと人が囲んでいた。彼の定位置だった。彼は決まって逆光に包まれて、ちょっと際立つくらい歯並びの良い白い歯で、友だちと爽やかに笑っていた。


 誰にでも気さくで、人気者の久里山くん。でも多分久里山くんは、私のことを意識してない。彼の脳は「男友だち」と「部活動」、「授業」だけで埋め尽くされているに違いない。


(久里山くんに声をかけられたい。

 ちょっとでいいから、私だけを見て欲しい)


 そんなふうに願うのも、もうすぐ卒業式がせまっているからだ。彼はアーチェリーの全国大会で良い成績を残し、学校推薦をもらっていた。東京の大学に行く、と人伝ひとづてに聞いた。


 一方私は何とか進路が決まったものの、膨らんだ想いを片付けきれずにいた。部屋のカレンダーにバツを付けるたび、その日何も出来なかった事実に溜息をつくのだった。


 このところ、放課後の友だちとの付き合いも放りっぱなしだ。いつも何人かと、ショッピングモールやデパコスを冷やかしては、スターバックスで最新作のフラペチーノやラテを楽しんでいたのに。


「ゆりえ、スタバで桜とわらびもちのメニューが始まってるらしいよ。


 帰り行かない?」


 すずが言うけど、気乗りがせず、


「やめとくわ。ちょっと疲れてるし」

「最近どうしたの?

 もしや〜、ダイエットしてるとか?」


「え、別に・・・そんな訳じゃないよ。金欠とか、色々あるんだよ」


 ぱたぱたと帰り支度をし、他の子たちと目配せをするすずを振り切って、教室を後にした。きっとあの子たちは私が【病んでる】と思ってる。


 ・・・たしかに私はそのとき、ちょっと恋に病んでいたかも知れない。




 そうこうしているうち、卒業式当日になってしまった。


 体育館にはパイプ椅子が、2年生により前もって並べられていた。式次第の流れに沿って、とどこおりなく段取りが進められていった。


 階段状になった台に乗って、私たち卒業生は、涙を流したり嗚咽したり、顔を紅潮させたりした。


 ―――私は、泣けなかった。久里山くんに告白するまでは、高校生活に区切りをつけられない気がしていた。



 卒業式のあと。何人かグループで固まって、写真を撮る人たちがいた。花束を持った先生に、声をかける人たちもいた。その他、親と一緒にいる人たちにまぎれて、久里山くんが集団から離れていくのが見えた。


(久里山くん・・・誰かと待ち合わせているのかな?)


 私は慌ててそばにいる友だちに断り、彼の後を追いかけた。


(今しかない。告白、するんだったら・・・)



 彼は、第2グラウンドの一角にある、アーチェリー場へ向かっていた。


(何を・・・)


 場内にはさすがに入れず、外から目立たぬように、彼の様子をうかがった。フェンスが張られているから、持ち物や制服を引っ掛けないように注意した。



 射的スペースに現れた彼は、鋭い目つきに変わった。教室では見せない表情だった。


 そして、的に向かって【エア アーチェリー】のポーズをとった。


 ―――ターン・・・


 音が聴こえてきそうだった。架空で射ち終わってから、次に構えなおす動きを、一つひとつ丁寧に再現していた。


(本当に、競技が好きなんだな・・・)


 3月の太陽は、午後になり、早くも少し傾き始めていた。


(笑っている顔しか知らなかった。

久里山くんが何を大切にしているかも・・・) 



 制服の背中にじんわりと熱を感じながら、私はたったひとりの観客、


 ーーー【久里山くんの青春】、という短篇映画の、観客になっていた。



【fin】



▶Que Song

制服/上白石萌音


#ことばの断片 #創作太陽

 RIUM様、拙作ですがご査収よろしくお願いいたします。




 お読み頂き有難うございました!!


 スキ、フォロー、コメント、シェアなどが励みになります。


 また、次の記事でお会いしましょう!



🌟Iam a little noter.🌟



   🤍


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集