
カメレオンな夫|#ショートショート
夫は、帰宅したとき、
「お帰り」
と玄関にかけ寄ると、
「ちょっとゆっくりさせて」
と言う。まるで氷のようだ。
―――
テレビを観ているとき、
「美味しそうだね」
と言うと、
「黙って観てて」
と切り返す。まるで刀のようだ。
―――
「・・・ねえ、ハグしてよ」
と言ってソファの隣に座ると、
「・・・もう、寝るわ」
と立ち上がってしまう。
まるで、蜥蜴のようだ・・・。
―――
ある日、親友と泊まりの旅行に行った。
夜、旅先の街を歩いているとき、夫から電話が掛かってきた。
「・・・おい、明日朝一番に帰れよ。
まずバスに乗って・・・」
「―――えっ!?何?
帰れって・・・?」
私は混乱した。
「これからどうするんだ?」
「・・・何?これから?
酔ってるね。口、回ってない・・・」
「―――とにかく、帰っておいで」
くぐもって半泣きに聞こえる声が、可笑しくて堪らなかった。
まだ何か指示していたけど、笑いながら、電話を切ってしまった。
「何かあったの?」
怪訝な顔で、親友が訊いた。
「ふふふ・・・何でもない・・・、
【帰ってこい】って―――」
❄ ❄ ❄
翌朝早く。熱いシャワーを浴びて、言われたとおりにすぐ、家路に向かった。
親友には、何度も謝って・・・
❄ ❄ ❄
玄関を開けた。
キャリーケースを入れ、中に入ると、ダイニングで夫がパソコンを開いていた。
「ただいま・・・」
満面の笑みで伝える。
夫は私を見た。そして、目頭を揉みながら、言った。
「早かったな・・・どうした?」
「どうって・・・」
―――まったく。
夫は、まるでカメレオンのようだ。

【fin】
▶Que Song
やさしくなりたい/斉藤和義

お読み頂き有難うございました!!
スキ、フォロー、コメント、シェアなどが励みになります。
また、次の記事でお会いしましょう!
🌟Iam a little noter.🌟
🤍