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願い石〜ことばの断片〈リライト版〉|#ショートショート
深水英一郎様、【ことばの断片】の創作題より、ショートショートを書きつくりたいと存じます。
【石になにかを
つぶやかせてください】
↓ ↓ ↓
🟠創作題でつくろう・ことばの断片
— 深水英一郎(ことばの断片) (@fukamie) February 15, 2025
「石になにかをつぶやかせてください」
お題で自由に創作してください。短歌,俳句,自由律,詩,短文学,大喜利,物語,小説,絵,音楽などあらゆる表現を歓迎します[画像は加工できます]#ことばの断片 #創作題 #創作石のつぶやき pic.twitter.com/45lvBVkVo2
願い石
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僕は、石を拾うのが好きだった。公園や道端に落ちている、手のひらに入るサイズの小石。ポケットにおさめて帰ると、いつも母さんに叱られた。
「たけし、服に余分なものを入れたままだと、いつか洗濯機が壊れちゃうわ」
だけど、何度言われても、その癖は直らなかった。僕がポケットに持ち帰る石は、実は特別に選り抜かれたものなのだ。
水面をスライスして飛び跳ねる、絶好の薄さと軽さの石。
❄ ❄ ❄
僕の住む町には、大きな川が滔々と流れていた。下生えの草が多い川べりは、犬の散歩道となり、ジョギングするためのコースとなり、ベンチで日向ぼっこしつつサンドウィッチを食べるような、憩いのスペースとなっていた。
僕は幼稚園から、友だちと一緒に、憑かれたように川を向いて石を投げていた。石の水切りは飽きることがなかった。ぴょんぴょんと跳ねると、魔法使いになった気分になる。
今までに石を投げて跳ねたのは、4回が最高記録だった。
5回が成功したら・・・
最近になって、僕は願をかけていた。5回が成功したら、おばあちゃんの病気が治るって。
❄ ❄ ❄
妹が生まれたとき、僕を何日も泊めてくれたおばあちゃん。まだ小さかった僕は、淋しくて、夜眠れずに泣いていた。
おばあちゃんは掛け布団を引き上げ、上からトントンと叩いて、古い物語を聴かせてくれた。
随分日が経って、僕が家に戻るとき、おばあちゃんはしわの寄った目尻に、涙をにじませていた・・・
ーーーそして、15才の僕は思い出す。
あれから何度もおばあちゃんに会いに行った。おばあちゃんはだんだん小さくなって、腰も少し曲がってきたけれど、着く時分には、必ず外で待っていてくれた。
ひとり暮らしで、自分の居る場所だけ灯りをつけ、ご飯の仕度をしながら鼻歌を歌っていたおばあちゃん。
チラシの裏に僕の似顔絵を描いて、
「あら、下手だね・・・ご免ね」
と、屈託なく笑っていたおばあちゃん。
学校のまあたらしい制服を着て見せたら、手を叩いて喜んでくれたおばあちゃん。
お願いだから長生きして・・・
僕が大人になっても、ずっとずっと、変わらず会いに行かせてよ。
僕は詰め襟の学生服にショルダーバッグを抱えて、クラスメイトの奴らと乱暴に背中を叩き合いながら、帰りの挨拶をした。
しばらく、俯向いて川沿いのアスファルトの道を歩いていると、お誂え向きの石を見付けた。
(よしーーーこいつなら飛べる)
【願い石】を持って、投げる定位置まで歩いた。
手のひらのなかで、石がつぶやいた。
(なあお前、いっしょに飛んでみようぜ)
病院のベッドに、今休んでいるしわしわな笑顔のおばあちゃんを思い浮かべながら。
渾身の力を込め、すくい上げるようなフォームで、川へ向かってその石を投げた。
▶Que Song
HANABI/Mr.Children
#ことばの断片 #創作題#創作石のつぶやき
様深水英一郎様、拙作ですが、ご査収よろしくお願いいたします。
【fin】