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願い石〜ことばの断片〈リライト版〉|#ショートショート


 深水英一郎様、【ことばの断片】の創作題より、ショートショートを書きつくりたいと存じます。


【石になにかを

つぶやかせてください】

  ↓ ↓ ↓



願い石




 僕は、石を拾うのが好きだった。公園や道端に落ちている、手のひらに入るサイズの小石。ポケットにおさめて帰ると、いつも母さんに叱られた。


「たけし、服に余分なものを入れたままだと、いつか洗濯機が壊れちゃうわ」


 だけど、何度言われても、その癖は直らなかった。僕がポケットに持ち帰る石は、実は特別に選り抜かれたものなのだ。


 水面をスライスして飛び跳ねる、絶好の薄さと軽さの石。


❄ ❄ ❄



 僕の住む町には、大きな川が滔々とうとうと流れていた。下生えの草が多い川べりは、犬の散歩道となり、ジョギングするためのコースとなり、ベンチで日向ぼっこしつつサンドウィッチを食べるような、憩いのスペースとなっていた。


 僕は幼稚園から、友だちと一緒に、憑かれたように川を向いて石を投げていた。石の水切りは飽きることがなかった。ぴょんぴょんと跳ねると、魔法使いになった気分になる。


 今までに石を投げて跳ねたのは、4回が最高記録だった。


 5回が成功したら・・・


 最近になって、僕は願をかけていた。5回が成功したら、おばあちゃんの病気が治るって。


❄ ❄ ❄


 妹が生まれたとき、僕を何日も泊めてくれたおばあちゃん。まだ小さかった僕は、淋しくて、夜眠れずに泣いていた。


 おばあちゃんは掛け布団を引き上げ、上からトントンと叩いて、古い物語を聴かせてくれた。


 随分日が経って、僕が家に戻るとき、おばあちゃんはしわの寄った目尻に、涙をにじませていた・・・




 ーーーそして、15才の僕は思い出す。



 あれから何度もおばあちゃんに会いに行った。おばあちゃんはだんだん小さくなって、腰も少し曲がってきたけれど、着く時分には、必ず外で待っていてくれた。

 

 ひとり暮らしで、自分の居る場所だけ灯りをつけ、ご飯の仕度をしながら鼻歌を歌っていたおばあちゃん。


 チラシの裏に僕の似顔絵を描いて、

「あら、下手だね・・・ご免ね」

 と、屈託なく笑っていたおばあちゃん。


 学校のまあたらしい制服を着て見せたら、手を叩いて喜んでくれたおばあちゃん。



 お願いだから長生きして・・・


 僕が大人になっても、ずっとずっと、変わらず会いに行かせてよ。




 僕は詰め襟の学生服にショルダーバッグを抱えて、クラスメイトの奴らと乱暴に背中を叩き合いながら、帰りの挨拶をした。


 しばらく、俯向いて川沿いのアスファルトの道を歩いていると、おあつらえ向きの石を見付けた。


(よしーーーこいつなら飛べる)


 【願い石】を持って、投げる定位置まで歩いた。


 手のひらのなかで、石がつぶやいた。


(なあお前、いっしょに飛んでみようぜ)



 病院のベッドに、今休んでいるしわしわな笑顔のおばあちゃんを思い浮かべながら。


 渾身の力を込め、すくい上げるようなフォームで、川へ向かってその石を投げた。



▶Que Song

HANABI/Mr.Children


#ことばの断片 #創作題#創作石のつぶやき

 様深水英一郎様、拙作ですが、ご査収よろしくお願いいたします。



【fin】


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