立ち上がれ、未来のために。
ロンドンで路頭に迷ったら公園に行け
電子辞書を片手にハリーポッターの解読を続けていたとき、ふと思った。
「英語しゃべってないな・・・。」
「『友達がいなくても、英語の勉強はできるわい!』とか言ってる場合じゃない・・・。」
アホで何も知らない単細胞な小僧は、とりあえず街に出かけてみる。
街といっても一本しかない駅前の通りだ。
「ハロー」
街ゆく人に声をかけてみる。
「・・・。」
冷たい。ロンドンの人、冷たい。
ま、そりゃそうか。見知らぬアジア人に興味がある訳がない。
学校に戻ってみる。
生徒がほとんど入れ替わって、新たなグループがそこら中にできていた。
「ハロー。」
とりあえず、その辺のグループに声をかけてみる。
「・・・。」
冷たい。学校の人、冷たい。
というか、日本人ばっか。夏を目の前に日本人が短期で留学してくる時期みたいだ。
公園に行ってみる。
ロンドンの良いところはそこら中に公園(草っ原)があって、気軽に散歩できることだ。
「ハロー。」
「hello !!!」
あれ?めっちゃ笑顔で返事してくるじゃん。
ロンドンの人公園にいると優しくなるのか?
小僧は、それから毎日公園に通って、そこら辺の人を捕まえて、話をしよう、と心に決めた。何がなんでも英語を身につけなければならないのだ。
ストーリーの世界に生きる未来のために。
ストリートフットボール
公園に生息するロンドナー達はフレンドリーだという事を学んだ小僧は、友達のいない学校で授業を終えると、毎日公園に通った。
そのうち、顔見知りができて、一言二言会話するようになった。
何を言っているかはほとんど分からなかったが、いくつかの単語が聞き取れた日はとても幸せな気分になれた。
大丈夫。一歩ずつ前に進んでいる。
ある日、顔見知りの犬を連れたおっさんといつものようにだべっていると、目の前で急にサッカーのミニゲームが始まった。
数人でチームに分かれて。
ペットボトル2本でゴールを作って。
そんなに上手なわけではないが、真剣にボールを追いかけている。
ゴールを奪うとプロ選手のようにセレブレーションを始める。
激しいタックルの後で、両チームが言い争いを始める。
さすが、サッカーの母国はミニゲームでも真剣勝負らしい。
すごいな、ロンドン。
小僧は勇気を振り絞って彼らに声をかけてみた。
「ハロー」
「・・・」
冷たい。ロンドンのストリートフットボーラー、冷たい。
だが、諦めるわけにはいかない。
フットボールだけが小僧が使える言語なのだ。
一旦家に帰った小僧はフットボールのシャツを引っ張り出した。
ロンドンに着いて早々に駅前のショッピングモールで買った、地元 Wimbledon のシャツだ。
足元にはトレーニングシューズを履き、ボールを手にして家を飛び出した。
声をかけてもダメなら強引に仲間に入れてもらおうと思ったのだ。
当時の小僧は、頭のおかしい行動しかとらない。
その行動力とほんの少しの運と巡り合わせで人生を切り開く。
すごいぜ、小僧。
地元 Wimbledon のシャツを着た小僧を見たストリートフットボーラーは、嘲笑を浮かべながらも反応を示してきた。さっきは完全に無視を決め込んでいた奴らだ。
"Hey, that shirt's rather smashing, fancy joining us for a kickabout?"
何を言ってるのかは全く分からないが、身振りでシャツがカッコいいから仲間に入れてくれるってことと解釈した。
「イエス」
"You Chinese, mate?"
「ノー。ジャパニーズ。」
"I reckon the Japanese ain't all that good at footie, do you?"
「フットボール。ウェル。キャナイジョイン?」
小僧がボールを持てばロンドンの公園で遊んでる程度のイギリス人に負けるわけがない。
思うようにボールを操り、イギリス人をイラつかせ、ため息をつかせ、そして認めさせるのに時間はかからなかった。
"Alright, not bad, mate. Next time we've got a chance, let's have another go, yeah? And I won't go easy on you next time."
ガッチリと握手とハグを交わして分かれた。
イギリス人特有の汗の匂いがした。
飛び出せホームステイ
地獄の3ヶ月が矢のように過ぎていった。
元々のホームステイの契約は3ヶ月。
この先は自分で住む場所を見つけるしかない。
期待を打ち砕かれてもはや何も求めてはいない。
そんな小僧に、数少ない学校の友達がアドバイスをくれた。
「YMCAって知ってる?」
もちろん知っている。
子供の頃に水泳教室に通っていた。
さらに昔には西城秀樹が歌っていた。
憂鬱など吹き飛ばしてくれるんだ。
それがどうした?
「学生はめっちゃ安いよ?」
ん?
何の話をしているんだ?
どうやら、Wimbledon の YMCAは学校から徒歩3分。ユースホステルの部屋を学生には格安で貸し出しているとのこと。
住む場所を何とかしなければならなかった小僧には渡りに船だ。
早速、見学に行ってみた。
小さめのシングルベッドと、壁に備え付けのデスクと簡易的なクローゼットがあるだけの部屋だった。今考えると独房でしかないが、当時の小僧にとっては夢につながる希望の部屋に見えた。
何よりも魅力的だったのは、小僧が通っていた公園から徒歩2分なのだ。
その場で入居を決めた。
そもそも何も持っていない貧乏学生だった小僧。
少し大きめのスーツケース一つを引いて、YMCAに引っ越した。
よーし、ここからまた昇っていくぜ。
毎日、公園でボールを使って英語の勉強していくぜ。
未来のために。
YMCAの狭い部屋の窓から見上げたロンドンの空は、いつものように分厚い雲に覆われていた。
小僧のロンドンライフはまだまだ続く。
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今までの小僧のストーリーは下記。