ロンドンは空も気分も下り坂
アディオス、アミーゴ
アミーゴとフットボールのおかげで学校で居場所ができた小僧。
調子に乗って、学生生活を謳歌していた。
最高だな。ロンドン。
短い初夏の日差しが翳りを見せ、ロンドンの雨雲が空を覆い始めたある日、アミーゴがホストファミリーの家に招いてくれた。
ホストファミリーの家で夕飯をご馳走してくれる、とのこと。
ん?待てよ?ホストファミリーの家のご飯?
嫌な予感がした。まさかレンチンジャガイモじゃないよね??
が、これは生まれて初めてのアミーゴの誘いだ。
彼は満面の笑顔で誘っている。小僧に断られる事など微塵も想像していない笑顔だ。
「オーケーオーケー。サンキュー。アイ ウィル ゴー。」
若干の怖さとアミーゴの屈託のない笑顔。天秤にかけたらダントツでアミーゴが勝ったので、行ってみた。
アミーゴのホストファミリーはロンドンで暮らすインド人の家族だった。
南米チリから来たアミーゴとロンドンで暮らすインド人家族。
何も知らなかった小僧の常識からすると異質の組み合わせ。
団欒は最高にあったかくて、みんなの笑顔が溢れて、何よりも全てのメニューが最高に美味しかった。
小僧の頭に浮かんだ言葉。。。
「ホストファミリーガチャ半端ねぇ。。。」
とても幸せな時間を過ごし、お腹も心も大満足で帰路につく。
小雨が風に舞う夜道。
アミーゴが近くのバス停まで送ってくれた。
これからもちょくちょくアミーゴの家にお邪魔してこの食卓を堪能しにこよっかなー。
などと甘い妄想に浸っていると、アミーゴが話しかけてきた。
「小僧、伝えなければならない事がある。」
「ん?水臭いぜ、アミーゴ。」
「・・・。」
「なんだよ。言ってみろよ。」
「来週、帰国することになったんだ・・・。」
「え!!!???」
「小僧とは、いつまでもアミーゴだ。いつかまた会おうぜ。」
「お、、、おう。。。」
現実を受け入れられずにボーッとしながら、到着したダブルデッカーに乗り込む。
ダブルデッカーの座席に座りながら一人で思い返してみる。
アミーゴは全ての面で小僧を支えてくれていた。
学校生活、放課後の私生活、友人関係、アミーゴがいないと成立しないものばかりになっていた。
知らぬ間に、小僧はアミーゴ依存に陥っていたのだ。
そんなアミーゴの突然の帰国。
ショックは計り知れない。
その日はショックで久しぶりに眠れない夜を過ごした。
さらば一瞬の輝き。
有頂天になっていた小僧は現実を忘れてロンドンの初夏は永遠に続くと信じていた。
小僧がいる学校は、大学でも専門学校でもなく、単なる語学学校だった。
そもそもヨーロッパ圏内から来る語学学校留学生は、短期滞在が基本だ。
2週間〜長くて2ヶ月くらい。平均すると3〜4週間でサラッと英語力を高めて帰っていく。
アミーゴの帰国を機に、仲の良い仲間たちは次々に短い滞在を終えて、それぞれの国へ旅立っていってしまった。
ポツン。
初夏が暑ければ暑いほど、最高地点が高ければ高いほど、その後にくる冬は寒く、落差が激しいものである。
小僧の気持ちは、分厚く重いロンドンの雨雲に覆われたかのように暗く沈んでいった。
次々と来る新しい留学生たちとも微妙な距離感を感じ、長期滞在組とも打ち解けられない。
そもそも長期滞在しているのは、日本か韓国のメンバーだけだった。
多くの場合、日本人も韓国人も自国民でグループを作り自国語で楽しんでいるケースが多かった。
それはそれで青春なのだろうが、小僧にはその流れに乗る余裕はない。
英語を習得に来ていて、英語を使わない環境に自らを置くという選択肢はなかった。
小僧から笑顔が消え、口数も減り、家と学校を行き来するだけの生活に落ち着くのにさほど時間はかからなかった。
とても短いロンドンの初夏のように、小僧の輝きは一瞬にして消えていった。
さらば一瞬の輝き。
友達はハリーポッター
そもそもロンドンには楽しみに来たわけではない。
未来の自分を掴むため、泥水を啜るつもりでやってきた。
「友達がいなくても、英語の勉強はできるわい!」
留学前になけなしの貯金で購入した英語の電子辞書。
これを片手に、部屋にこもってひたすら英語の本を読み続ける。
読んでいる本は、もっぱらハリーポッター。
なぜなら、ストーリーを知っているから。
舞台がロンドンだから。
全てにおいて単細胞。
ただし、今思い返しても当時の小僧の選択は間違っていなかった。
英語の本を読む。そしてその中に英語の会話も盛りだくさん。
イギリス英語特有の皮肉たっぷりな会話劇。
そして、固有名詞の多さよ。。。
子供向けのファンタジー小説と侮る事なかれ、英語初心者にとっては、かなりハードルの高い読み応えなのだ。
単語の意味を一つ一つ調べながら。
1ページ読むのに数十分かけて読み続ける。
内容を理解するために、一度読んだ箇所を何度も読み返す。
筋トレのようにジワジワと当時の小僧の英語力を底上げする。
誰とも話さず、階段下の物置にこもって生活していたハリーのように、小僧はロンドンの街で誰とも話さず、魔法の世界にのめり込んでいったのだった。
ルーモス・マキシマ!!!
小僧のロンドンライフはまだまだ続く。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
もし記事に共感していただけたなら、スキ・コメント・フォローなどいただけますと励みになります。よろしくお願いします。
今までの小僧のストーリーは下記。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?