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お父さんはお母さんには勝てない

今日の夕方、2歳の長女がスマホのデータフォルダのとある動画を見ていたら、突然号泣し始めた。

いろいろと思うことがあったので、記録に残しておく。

動画自体はなんてことのないものだ。iPhoneには時々、撮りためた画像や動画が勝手に使われてショートムービーが出来上がっていることがある。

今回も長女が見たのもそれだった。

もう何年も前になる。

動画に移っていたのは妻と僕の写真だった。

結婚式をする前に着るドレスを試着している様子の写真と動画。

それが良い感じの尺で心地よい音楽とともにiPhoneに勝手に編集されていたのだ。

長女がスマホをさわっていたら偶然それが流れ始めた。

僕はそれを横目で見ながら、「なつかしいなぁ」なんて感傷に浸っていると、長女が大粒の涙を流していることに気が付いた。

しかも、無言でだ。

熱は下がり、とくにしんどくもないはずなのに、泣いているのには心底驚いた。

「どうしたの?何かしんどいの?」と聞いても無言のまま首を振り続ける長女。

動画自体は15秒くらいの短いものだが、長女は何度も何度も再生ボタンを押して、動画をリピートしていた。

10分くらい経った頃だろうか、突然堰を切ったように大号泣し始めた。

大粒の涙は相変わらずだが、顔は鼻水だらけ、大声を上げて泣いている。

いつもなら僕に抱っこを求める長女。しかし、このときはまっさきに妻のもとに駆け寄り、「かぁか、だっこ~」と言いながら、足元にまとわりつく。

その瞬間、僕は「あぁ、そういうことか。」と悟った。



うちには子どもが3人いる。

2歳の長女と1歳の双子の3人だ。

年子だったので、長女がまだ1歳半のころに双子が生まれた。

双子が生まれる前は、長女はずっとお母さん子だった。

僕が抱っこしても泣き止まないのに、妻が抱っこするとピタリと泣き止む。

あまりにも違いが顕著だったので、悔しかったのを覚えている。

でも、妻も長女も納得しているのであればそれでいいと思った。


しかし、妻が双子妊娠し、帝王切開に向けて病院に泊まった日の夜。

いつもの布団に妻の姿がないことに気付く。

いつもは家族3人でくっついて寝ていた。

長女は寝る時、僕よりも妻にくっついていた。当然だ。

でも、双子を出産するために事前に入院が必要だったので、その日妻は家にいなかった。

大好きなかぁかがいない。

それに気づいた長女は最初、家じゅうを探し続けた。トイレ、洋室、脱衣所、玄関、あらゆるところを探してもお母さんの姿はなかった。

そして、30分くらい探したところで、本当に家にいないことに気が付き、大号泣する。

それまで、横で僕が必死にかぁかがいないことを伝えても、まだまだ言葉の伝わる年齢ではなかった。

しかし、自分なりに一生懸命探した結果、家にいないことがようやくわかったので、さみしくて悲しくて泣き叫んだのだ。

その日は、僕が事情を丁寧に説明し、「今は寝て何日かすればかぁかは帰ってくる。かぁかが帰ってきたときのためにねんねして待っておこう。」と伝えたことで、なんとか長女は納得した。

それ以来だ。長女が悲しいことがあったり、つらいことがあったりしたときにまっさきに僕のところに来るようになったのは。

本当は、まだまだお母さんに甘えたかったんだと思う。

無事に双子を出産して帰ってきたのは、かぁかだけではなかった。

触れると壊れてしまいそうな小さな体で生きている2人の妹たち。その生き物を”妹”だと認識するのはまだまだ先のことだった。

当然、家に帰った妻は、長女にできる限り時間を割いた。

それでも、乳児期間の双子育児は想像を絶する。

赤ちゃんの授乳間隔は通常、1人だけでも3時間に1回と言われる。(もちろん個人差はある。)

つまり、1日の中では少なくとも8回の授乳生活が一ヶ月続くわけだ。さらに、双子であれば労力は単純に2倍。2人が起きたり、泣いたり、うんちをしたりするタイミングは必ずしも同じわけではない。

必然的に妻が長女に割けるリソースは限られる。

たぶん、長女はそのことを理解していた。

それでも、お母さんに甘えたい。もっと受け止めてほしい。構ってほしい。妹たちに向けるその笑顔を自分だけに向けてほしい。抱っこされたい。愛されたい。

こんな気持ちだったんではないだろうか。

そんな気持ちを受け止める役割は、父親である僕だった。

いや、正確には受け止められるのは僕しかいなかった。

そして、それがいつしか長女にとっての当たり前となっていた。



しかし、動画を見たことをきっかけに、長女は当時の気持ちを思い出したのではないだろうか。

本当はお母さんに甘えたかった。抱きしめられたかった。泣いたとき一番に駆け寄ってほしかった。

それでも、それがかなわない状況がわかっていた。

だから、代わりに愛情を注いでくれる相手として父親である僕を選んだ。

僕たち夫婦もそうするのが一番いいと、双子が生まれる前に何度も話し合い、合意した。

でも、、

それでも、、、

やっぱりお母さんがいい。もっと甘えていいんだ。もっとわがままになっていいんだ。おねえちゃんである必要はないんだ。

そんな感情が一気に噴き出し、言葉にできないまま、長女は号泣したのだと思う。

証拠に、今回の大号泣以降、「お風呂はかぁかと入る!」と言い、寝る時も「かぁかの隣がいい!○○ちゃん(妹の名前)はあっち行って!」と言っていた。

それでいい。

お父さんはお母さんにはかなわないのだから。

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