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チラリズムの極意

 チラリズムという題名をみて、期待する諸君も多いと思う。そういう諸君のご期待に沿えるかどうかは、爪の先ほどの自信もない。
 チラリズムというと一般的には、ふとした瞬間に偶発的に生まれ、興奮を掻き立てられるような出来事を指す表現だと思うが、ここで私が書くことは、それとは甚だ意味するところが違うように思う。
「じゃあ、やめた」と思った諸君はここで、ページを変えても一向に差し支えない。
チラリズムというと、見てしまったという見る側の立場からというのが一般的だと思うが、ここでは見られる側の立場に立って観察してみようということである。
 そう思ってみると、意外と人に見られていることに気付く。人から注目されるような格好の良い風貌とは無縁な私ではあるが、何故か人の視線が気になる。
電車に乗ろうとして、改札口を通る際、駅員さんがチラリとこちらを見る。コンビニに入り、飲み物を買おうとしているのに、女性の店員さんは(この人、絶対に成人本コーナーに行くに違いないわ)という疑惑の表情で私の背中を目で追う。
 その視線を感じた私が、振り返った瞬間、店員さんは目をレジに移し、何もなかったような顔をする。そして、私が飲み物を手に取って、レジに行くと少々気まずい雰囲気が漂う。(この人、私が見ていたから、成人本コーナーに行くのをやめたんだわ)と思っているに違いない。

 次にホームセンターに向かった。ここではボールペンを買うのだ。ここでも人の視線が気になった。店内のあちこちに「万引きは犯罪です」「私服の警備員、店内巡回中」の貼紙が吊るしてある。私は周りを見渡した。どの人が私服警備員なのだろうかと考えた。ミシュラン覆面調査員ではないが、いかにも警備員という雰囲気をした強面の人でない気がする。もしかして、あそこで手押し車を押しているお婆さんだろうか?万引きを見つけた途端、曲がった腰がシャキッとなり、走って万引きした人を追いかけるのだろうか?あるいは赤ちゃんを抱いたお母さんと思われる女性が、赤ちゃんを抱いたまま、走って追いかけるのだろうか?とも思った。そんなことを考えながら、私は目的のボールペンを手にレジに向かった。レジでも必ずと言っていいほど、店員さんは客の顔をチラリと見る。これは何かあった時のために、客の顔を覚える訓練を受けているのに違いない。
 
 以前、この店で買物した際、レジで会計を済ませて、お釣りを財布に入れた瞬間、チラリと顔を見られた経験をした。この店ではお釣りを渡した瞬間に客の顔を確認するマニュアルがあるに違いない。私はそのマニュアルを確認すべく、店員さんに代金の千円札一枚を渡した。そして、店員さんが私に渡した釣銭を私が財布に入れようとした瞬間、私は店員さんの顔をみた。
 わあ~っ!近距離で店員さんと目が合ってしまった。私と目が合った店員さんは、私以上に驚いたのか瞬間的に目がまん丸になり、体を仰け反らせた。やはり、そうであったか、この店では客にお釣りを渡し、客が財布にお釣りを入れようと集中している時を狙って顔を見て覚えるように指導されているのか、と私は確信した。
 
 今日の買物の最後はドラッグストアーだ。早い話、薬屋さん。最近は横文字表現が多く、横文字に極めて弱い私は難儀している。そのことはどうでもよい。私の興味は、この店では来店客の顔を確認するのに、どのような方法をとっているかだ。
 私は必要なもの数点、買物かごに入れた。今は男性従業員がレジに立っている。今だ!と私は思った。何故か?最近、私の髪には白いものが増え、そして作付面積もだいぶ狭くなってきている。そこで、染髪スプレーが販売されている。これは髪染めをスプレーで行うことが出来る製品だ。白髪隠しと細く弱りきった髪の毛を太く見せることが出来る便利なものだ。それを女性店員の前に差し出すのには、少しだけ勇気がいる。今、幸い、レジには男性店員が立っている。私はレジに向かった。と、私がレジに着く前に、一人のお婆さんが割り込んでしまった。私は二番目。そのまま並んで待つことにした。
 だが、なかなかお婆さんのレジが終わらない。何かあったのか?男性店員さんと話している。私が後ろを振り返ると、既に長蛇の列。すると男性店員がボタンを押した。店内に「レジ応援お願いしま~す」のアナウンスがこだました。すると女性店員がレジに小走りに駆けつけた。
 「二番目にお並びのかた~」と言いながら、私を見た。仕方なく私はレジに向かった。私はニコリともせず、無表情を保ったまま、買物カゴを差し出し、会計が済むのを待った。その女性店員はカウンターに一つ一つ商品を並べていく。 
「3700円で~す」と声がし、私は財布からお金を取ろうとした。すると「化粧品と食料品を一緒に入れてもいいですか?」と聞いてきた。早くこの場を立ち去りたい私は、わざと無頂面を決めて頷いた。店員さんは商品を袋に詰め込んだ。私は財布から4000円を出し店員さんに差し出した。店員さんはレジ打ちをして、お釣りを私に渡した。私がお釣りを財布に入れようとした瞬間、店員さんは私の顔でなく、頭をチラリと見た。そして、ニコニコ顔で「ありがとうございました」と言いながら頭を下げた。(お客の顔を見るのがマニュアルではないのか!マニュアル違反ではないのか!)と私は抗議しようと思ったが、店員さんの顔をまともに見られない私は、釈然としない思いがありながらも、諦めて帰路につくことにした。 
 外に出て見上げると、限りなく澄み渡った青空が続いていた。
 

私が書く文章は、自分の体験談だったり、完全な創作だったり、また、文章体も記事内容によって変わります。文法メチャメチャですので、読みづらいこともあると思いますが、お許し下さい。暇つぶし程度にお読み下さい。今後とも、よろしくお願いいたします。