BTS、そして”セウォル号沈没事故”の話
2014年4月16日の午前9時頃、250人以上の学生を含め、約300人の乗客を乗せて済州島に向かっていたクルーズ船が沈没し、乗客員とクルーほぼ全員が死亡する事故がありました。
その中の多くの人が修学旅行で済州島に向かっていた高校生だったということがさらに色んな人に衝撃と悲しさを与えた事件でした。船が沈没した原因は今でも知られていません。何故沈みはじめる時に救助を呼ばなかったのか、何故政府の対応が遅くなったのか、そもそも欠陥がある船が何故出航したのが、色んな調査が行われたにもかかわらず、明確なところはほぼありません。
この悲惨な事件から10年、韓国では毎年この事件で亡くなった人たちを追慕してきました。その思いを象徴するのが”黄色いリボン”です
このリボンは事故当時、また救助できるかもしれないという希望と追慕の思いを持って心を共にするという意味を込めて、全国民的に色んなところに結んでおりました。
社会システムが上手く作動しないと、何の罪の無い多くの人々が巻き込まれて犠牲になるかもしれないという恐怖、そういう事件を繰り返しないようにしなきゃいけない、そしてその痛みを同じ社会を生きる人として分かち合いたいという色んな思いで、セウォル号沈没事故は未だにも韓国人の心の中に深く刻まれています。
K-popでもその思いが時には直接に、たまには間接的に表現されています。
なぜこの思いを”間接的”に表現するのかというと、とある人たちはこのセウォル号沈没事故についての追慕に対して”政治的な行為”、"被害者ぶって国からお金を取ろうとしてる”とかの意見を出したりしたことがあり、それでこの事件が一つの社会的な”葛藤の種”になっちゃったからです。
(自分が韓国人で、韓国で長く住んだから言える話ではありますが、韓国は社会葛藤がすごく深刻な社会というのは割と韓国人の間では共通認識かなと思います。政治的葛藤、世代の間での葛藤、男女の間での葛藤など…個人的にはこういう悲しい事故にまで葛藤の種になるのはすごく残念だと思ったりもします)
この悲しい事故を、KPOPを体表するBTSは忘れなかったようです。
BTS - Spring day
歌詞を全体的に見ると、この曲は”別れた恋人が懐かしく、悲しいけど、その痛みを超えて新しい日々を迎えたい”という内容の曲です。
聴くだけだったら、もしくはセウォル号事故の話を全然知らないなら、この曲に隠れている思いを気づくことは難しいかもしれません。では、MVを見てみましょう
錆びたようなメリーゴーラウンド。ちゃんと見れば何かが結ばれているのが見えると思います。それは
黄色いリボンです。上記したように、セウォル号事故への追慕を象徴する物ですね。このシーン、止まっているようなメリーゴーラウンドに対比して、色んな人が早く過ぎ去っていく編集になっていますが、これはメリーゴーラウンドの「死者の時間」と「生きている人の時間」を対比するための演出だと思います。
時計が9時35分を示しています。9時35分は、沈没しているセウォル号から救助要請が最初に届いた時刻です。このシーンは、まるで誰かを助けにいくように急いでどこかに向かうのが表現されています。助けにいきたい気持ちを表現したかったのかと思います。
捨てられているようなたくさんの服は、惜しくも事故で命を亡くしたたくさんの人たちを象徴する物だという解釈が多いです。美しい場面でありながら、同時にすごく悲しくなる、MVの名場面だと思います。こういう形でBTSは犠牲者たちに思いを伝えているのです。
こう思うと、歌詞も少し違うように聞こえたりもします。
他のところを見る限り、この歌詞は”君”に送る手紙のような歌詞のように見えるけど、この序盤のところだけ”君達”、つまり複数の人に向けて話をしています。もちろん、一人の恋人や、友達についての話だとしてもありえる話ではありますが、犠牲者たちに送る話だとしても通じる話になりますね。
音楽と社会は繋がっている
メンバーRMはとあるインタビューで「セウォル号沈没事故に対して国民の一人として責任感を感じたし、心を集めて伝えたいと思いました。セウォル号追慕に関することや、遺家族のためになればと思い、寄付をしたこともあります」と、自分の思いを話したこともあります。
たまに、人気ミュージシャンとかアイドルの曲を聴く時、自分とは、自分の世界とは関係無い別世界の話と感じることもあります。彼らの恋の話とか、すごい意気込みとか、自分とは無縁だと感じる時が多いからですね。
でも、やっぱり彼らは世界と、社会と無縁な存在では無いのです。セウォル号沈没事故みたいな重い話とかはアイドルとしては思いテーマだと思いますけど、こうやって”忘れてない”ということをちゃんと残してくれたのがすごくありがたいです。ちょっとでも遺家族の癒しになっていたら嬉しいですね。
この曲以外にも、Red Velvetの「7月7日」、THE ARKの「The Light」も同じく、この事故を思い浮かばせる曲となっています。200人も超える高校生が訳もわからなく命を亡くした悲しい事件、そして今だに悲しい思いをしている家族を一回でも思うきっかけになるような、美しい曲だと思います。
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